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番外1688 式へと出発するために

「メギアストラ陛下とセリア先魔王陛下……。モルギオンさんとネフェリィさんもですが、素敵な方達ですね。それに――こうした形で記憶に留めているファンゴノイドの皆さんも」


 記憶を見せてもらっていたサティレスは、それが終わると満足げに息をついてファンゴノイド族の面々にそう言った。ファンゴノイド達に対しては見た目も暮らしも生き方も気に入ったように見える。


「サティレス殿に喜んで頂けて何よりですな」

「妖精族とは偶然に出会ったことが過去に何度かありますが、昔から我らに対して好意的な気がします」

「ふふ。妖精の感性から来るものなのかも知れません。私は少し出自が違いますが、妖精達は本来森で生きる種族ですからね」

「はっは。迷宮を基盤としているあたり、サティレス殿と我らも同じですな」

「確かに」


 と、ファンゴノイド族と盛り上がっているサティレス。まあ、種族的な友好関係が構築出来て何よりだ。


「ファンゴノイドさん達は、最近はどうなのですか?」

「外出に魔道具なり装備なりは必要ですが、ベルムレクスの問題が解決したこともあって、魔王城や王都付近であれば以前より自由に行動できておりますぞ」


 グレイスが近況を尋ねると、シイタケ似のファンゴノイドが答えてくれる。


「もっとも、元々里の生活に苦痛は感じておりませんから、これまでの暮らしに特に不満があったわけではありませんが」

「選択できる、というのは重要ではあるな」


 メギアストラ女王が笑って言うとファンゴノイド達も頷いていた。必要に応じてストレスなく行動できるというのは良い事だ。

 環境維持も考えなければいけないからな。そういう点、今の魔界迷宮と里が接続した状態は自然の変化に影響されないからより安全性も増している。知恵の樹の保全がしやすい状態は歓迎とのことだ。


 以前の迷宮や迷宮村の状態を参考に、迷宮が機能不全に陥ってもファンゴノイドの里は迷宮魔物に襲われるなどの影響がないように対策しているからな。迷宮管理者はジオグランタだし、ファンゴノイド達と知恵の樹に関しては将来的にも安泰だろう。


「では――続いては余の番であるな」


 と、メギアストラ女王が言う。当時とは姿も多少変化しているが、人化の術を解いた姿をサティレスに見せてくれる、とのことだ。


「よろしくお願いいたします、陛下」

「うむ」


 メギアストラ女王はサティレスの言葉に頷き、知恵の樹から十分に距離を取ると人化の術を解いて竜の姿に戻る。光に包まれたシルエットが大きくなっていき、細身で流線形を基調とした竜がファンゴノイドの里に姿を現した。竜らしい、大きな魔力が周囲に広がるも、メギアストラ女王の場合は理知的なので暴力的なものというよりは……高位精霊に接しているような感覚に近いものを感じる。


「ああ、これは……。記憶のお姿でもそう感じましたが、竜とは美しいものですね……」


 その本来の姿をまじまじと眺めて、率直な意見をサティレスが口にするとメギアストラ女王は竜の姿のままで笑った。


「ふっふ。そう言ってもらえるのは悪い気はせんな。過去の姿は成長前なので少し違うが、余の姿も幻影劇を作る上で参考になるなら幸いだ」

「良いものを作れるように頑張りますね」


 そう言って笑顔で気合を入れているサティレスに、メギアストラ女王は竜の姿のまま、目を細めて微笑ましそうな表情を見せるのであった。




 実際に魔王城から出て王都やその周辺を少し見学したり、魔王城にいるみんなと更に交流したりといった時間を過ごし、のんびりと寛がせてもらってから俺達はルーンガルドへと戻ってきた。

 記憶が薄れない内にと、早速サティレスは魔界の立体映像構築に取り掛かっていた。幻術で魔王国王都を構築し、幻影劇の素材として使えるようにしておくというわけだ。


「ん。サティレスも張り切っていて良い事」


 シーラがサティレスを見て耳と尻尾をぴくぴくと反応させる。幻影劇を作るモチベーションが大分上がっているようだからな。幻術を魔道具によって録画し、立体映像を次々と構築してくれるサティレスである。


「魔界訪問は幻術を構築する上で、色々と勉強になりました。様々な種族の方がおり、想像を超える環境があり――そしてそこに歴史があり……感動したのです。学んだ事を早速活かせる機会でもあるので、精一杯頑張りたいと思っていますよ」


 そう言って胸のあたりに手をやって微笑むサティレス。


「うん。魔界の幻影劇が楽しんでもらえるように、俺も頑張ろうと思う」


 サティレスは純粋に作る側として良いものを作りたい、魔界の事をみんなに伝えたいという想いがあるけれど……作った幻影劇を見て観客が喜んでいるところも見せてやりたいと俺は思う。

 幻術を得意としているサティレスだからこそ、こうした手伝いはきっと実力を高める事にも繋がるし、自身の力の誇りにも繋がると思うから。


 そんなわけでサティレスの協力を得て、幻影劇を作る速度も大分加速している。

 サティレスが幻術を使ってくれる事で何が捗るかというと……クオリティもそうだが収録の場所を選ばないという事だろうか。立体映像の周囲を目立たないように幻術で覆ってしまえるので、その場でいきなり映像を作って採用、という形にできてしまう。


 作業が捗ることもそうだが、演出を含めてみんなとも相談したりして、中々に楽しい時間だ。


「メギアストラ陛下が座席の頭上を横切るように飛ぶ、という表現はどうかしらね」


 というのはローズマリーの発案だ。


「良いね。かなり印象に残りそうだと思う」


 演出として考えるなら座席側の後ろから正面に向かって飛んでいき、正面モニター内に収まる、といった具合が良いだろう。背後から竜の幻影が頭上を飛んできて、そのまま正面に収まってシームレスに劇の続きとなるので、視線誘導もばっちりだ。


 セリア女王がメギアストラ女王の背に乗って移動する場面もある。


「ここはさっきの案とは逆に客席側に遠景を映し出して、セリア陛下やメギアストラ陛下と一緒に飛行しているみたいな場面にすれば――」

「ああ――。それは素敵ですね」

「皆さんもお二方に感情移入している頃合いだと思いますし」


 イルムヒルトのアイデアにアシュレイが微笑み、みんなで盛り上がる。マルレーンのランタンを借りて各々が「こんな風に」と簡易の説明に使えば、サティレスも「こうでしょうか?」と真に迫った幻影を構築し、洗練したものにしてくれた。


 そうやって最終的に形となったものをアルバートの魔道具で記録する、というわけだ。

 うん。臨場感のある飛行シーンが多そうな幻影劇になりそうだな。仕上がりが楽しみだ。




 そうして……一日一日が過ぎていき、ジョサイア王子の戴冠式と結婚式の日がやってきた。

 俺達に関して言うなら戴冠式から列席する事になるな。国内外から知り合いの王侯貴族が集まっていて、そうそうたる顔ぶれの戴冠式や結婚式になりそうだ。この辺は転移門があるから気軽に訪問してこられるというのがあるだろう。


「こっちは準備できたよ」

「はい。こっちはみんな、もう少しかかりそうです」


 フォレスタニア城の上層――領主の生活空間にて、戴冠式の前の準備だ。衣裳部屋の方に声をかけるとそんなグレイスの返答がある。


「ゆっくり進めていいからね。まだ時間もあるし、楽しみにしてる」

「ふふ。分かりました」


 当然戴冠式と結婚式なので正装をしなければならない。晴れの席なので正装といっても華やかな印象が強いものを、という事になるが。

 今現在、みんなの着替えや髪型のセット、アクセサリーの合わせ等はセシリアやクレア、シリル達が手伝ってくれているわけだな。

 俺の方は……貴族といってもそこまで手間はかからない。普段よりはかっちりとした正装ではあるがそれだけだ。みんなのドレス姿は……うん。今日の日の役得というか、見るのが楽しみだな。


 晴れの日という事も相まって、みんなのドレス姿に浮かれるような気持ちになってしまうが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔から獣に対して好戦的な気がします
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