番外1682 戴冠と結婚に向けて
中庭に面した部屋や東屋にて、のんびりとした時間を過ごしながらも打ち合わせを進めていく。
「考えたのだが、氏族の者達については結婚式や戴冠式の口上の中で、きちんと指針や考え方について触れておけば、立ち位置を誤解させてしまうようなこともないだろうね」
「祝福してもらえるというのは嬉しい事ですからね」
氏族達も協力したいという提案に対してジョサイア王子やフラヴィアも答える。
「私達としても、テオドール様達や氏族の皆が静かに暮らしていけるこの国の事は、大切に思っています」
オルディアがそう応じると、その場にいる面々が真剣な表情で頷いていた。次代の事を考えるなら、こうした折りに互いへの好意や尊重を示すというのは大事な事だな。
「僕としても、挨拶や列席の仕方でその辺の事が正しく伝えられるのであれば、そのように動きたいところですね」
と、俺の考えも伝えておく。ジョサイア王子もテスディロス達も、お互い気を付けるべき点に気を付けつつ動いているからな。俺としても積極的に協力したいところだ。
「そうだね。テオドール公からも何か口上を述べる機会をどこかに挟む形で考えていこう」
「ありがとうございます」
快諾してもらったことに笑って応じてから、簡単な土魔法のタームウィルズ模型を作って、当日の演出や段取りを練っていく。
戴冠式と結婚式は連続したイベントとして行われる。順序としては戴冠式の方が先になるな。王太子の結婚よりも国王の結婚の方がインパクトも大きいだろうという判断だ。
即位してからの結婚。王城での挨拶と共に街に出て新国王と新王妃のお披露目、という順序になるが……まあ相当盛り上がるだろうな、これは。
ジョサイア王子の戴冠式や結婚式が近いという情報は外に出しているので、現時点でも割とお祝いムードが漂っている。街の人達もそうした噂話で盛り上がっているし、商人等は既にあやかった売り物を並べたり商品開発をしたり、そのあたりに商機を見出している者も見受けられるという状態だ。今後具体的な日程も発表されれば、本番に向けて更なる盛り上がりを見せていく事だろう。
シリウス号の甲板に乗って低空を飛ぶことで、お披露目をするというのは変わらない。ただ、今回はフロートポッドも活用して新国王と新王妃の姿をもっと見やすくするというのも考えている。
その場合、フロートポッド周りの防御術式や乗員保護の術式は分厚く構成しないとな。
「演出に幻術を用いるというのも、テオ君達や僕達との時と同じだね」
と、アルバートが笑みを見せる。サティレスとしても幻術による演出と聞いて気になっているようであるな。うむ。
「演出に関しては……そうですね。ジョサイア殿下やフラヴィア様の好みの花や鳥等を幻術に盛り込むというのが良いのではないでしょうか?」
「ああ、それは素敵ですね。けれど、ご負担ではないでしょうか?」
フラヴィアは俺の提案に笑顔になりつつも首を傾げて尋ねてくる。
「改めて魔道具を作らずともマルレーンからランタンを借りられれば、臨機応変な幻術を展開する事ができますからね。問題ありませんよ」
マルレーンもにこにこしながら頷く。それを受けジョサイア王子とフラヴィアもマルレーンに礼を言う。そうしてどういった幻術が良いのかという話をしていく。それに応じてマルレーンのランタンで幻術を展開して実例を示していく。
甲板上から見たところよりも、街から見た場合にどう見えるのか、という部分に主眼を置いた幻術の映し方だな。シリウス号とそれ取り巻く演出の幻影を出して「こんな感じではどうでしょうか」と見え方を確かめてもらいつつ、いくつかバリエーションを用意し、気に入った物を採用してもらったりジョサイア王子やフラヴィアの見解を元に、みんなからも改善案を提案してもらったりして、それを取り入れていく。
ジョサイア王子もフラヴィア嬢も、こうした演出面、美術面でのセンスが良い。俺としてもあまり苦労しないな。
「ちなみに、当日は私達騎士団や、魔術師隊の皆も護衛として周囲を固める予定です」
護衛として同行している騎士達も教えてくれた。その辺は国王と王妃なので当然ではあるか。
「では、段取りがもう少し決まったら騎士団や魔術師隊も交えて打ち合わせや予行練習を進めていけば良さそうですね。戴冠式については……何かこちらですべきことなどはあるのでしょうか?」
尋ねると、メルヴィン王は少し思案して答えてくれる。
「ふむ。戴冠式については伝統に則り行うもので、既に段取りそのものは決まっておるから招待客は列席するだけでも問題ないな。式の途中で祝辞を述べる顔ぶれを調整するのも、特に問題はない。戴冠式ではなく結婚式側での祝辞という事も可能ではあるが」
「では、戴冠式で氏族達の事にも触れるならば予行練習に参加するか――或いは結婚式の途中で祝辞を挟み、そこで触れるというのも良さそうですね」
ジョサイア王子もメルヴィン王の言葉を受けて言う。
「うむ。いずれにせよ融通も利く」
戴冠式は式次第がかなりきっちり決まっている分、結婚式の演出や段取りなどに関しては自由にしていいとの事だ。この辺はメルヴィン王としてもジョサイア王子を信頼しての対応だろう。
街中をシリウス号で移動する際の予行練習については……仮想訓練設備も使えるかな。実際にシリウス号を飛ばしてその警護をするとなると大掛かりになってしまうが、仮想空間での訓練ならばいくらでも可能だ。その辺の事を提案してみる。
「――というわけでこれならば実際に問題が起こった際の演習もできますね」
『街の構造も忠実に再現できるならば、飛行する経路に沿って、護衛として注意すべき場所や物陰等も見つける事ができますね』
水晶板経由でミルドレッドも答えてくれる。その辺も仮想訓練設備の強みだな。警備上の問題点を割り出しやすくなるから、飛行経路を決めた後の打ち合わせそのものも仮想空間で行うというのも良いだろう。
仮想訓練施設にしても、タームウィルズやシリウス号のデータはあるし割とすぐに準備できるはずだ。というわけでリハーサルも順調に進むように、式次第や日程、飛行経路等を決めていく。大通りに沿って、なるべく街全域にお披露目できるように動くから経路の設定自体はそう手間取ることもなく進んでいった。
演出の仕方や日程などの調整も概ね固まり、明くる日からジョサイア王子の戴冠式と結婚式に向けて動いていく事となった。
具体的な日程も決まったので国内外にも通達がなされ、元々お祝いムードが漂っていた街中の様子も更に加速しているように感じられる。
仮装訓練設備の設定は予想していた通り、すぐに準備できた。タームウィルズのデータは元々迷宮核にあったからそれを引っ張って来れば良かったし、シリウス号のデータはウィズが持っているのでそこからデータを反映させれば良かったからだ。
工房の仕事としてはフロートポッドを作ったり、街中に仕込む演出用の魔道具を調整したりといった具合だ。フロートポッドについては、要人の周囲に魔法的な防御を張りつつ、お披露目ができるようにと考えて作られた新型だな。落下防止の縁がついた空飛ぶ台座といったデザインである。これは結婚式以外の場面――演説や出し物等でも使えるので無駄にはならないだろう。それら工房の仕事も順調に進んでいる。
そうして、警備計画と当日の予定に沿って騎士団や魔術師隊の面々と共に訓練を行っていく事となったのであった。