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番外1681 王妃と聖女と

 ロゼッタとルシールへの血析鏡の引き渡しや会食も無事に終わり、ジョサイア王子とフラヴィア嬢とは、翌日からもセオレムやフォレスタニア城、工房で顔を合わせる事となった。

 ジョサイア王子の結婚式と戴冠、メルヴィン王の引退とフォレスタニアの邸宅への移住の件はスケジュールが連動している。

 今日も打ち合わせで工房の面々やジョサイア王子、フラヴィアと顔を合わせる予定であるが、邸宅の方に訪れていると連絡があったのでそちらへと向かった。


「これは陛下」

「おお。テオドール」


 邸宅へと向かうと、メルヴィン王と共に二人の王妃、ジョサイア王子とフラヴィア、アルバート達がやってきていた。

 顔を合わせて挨拶をすると、メルヴィン王が笑顔で迎えてくれる。


「家財道具や調度品も運び込まれて、邸宅内部が大分華やかになりましたね」

「ふっふ。あまり飾り付けるのは余らとしても好みではないのだがな。それでも気に入っているものはあるのでセオレムから運び込んだというわけだ」


 なるほど。とは言っているが、それでも華美になり過ぎず上品な印象がある。そのへんはセオレムの上層――王族の生活空間と同じだな。


「血析鏡の話も聞き及んでいる。今後の治癒術、医術の発展に関わる素晴らしい魔道具であった」

「恐縮です。血析鏡に関してはお二方が進めて下さるかと」

「うむ。両者とも知識、人格共に優れた医師であるからな。それと――ジョサイアが持ってきた新しい飲み物と甘味も美味であったよ」

「ふふ。双方併せて今後の事が楽しみですね」

「ええ、本当に。血析鏡の話をルシールに聞きながら、私達もココアとチョコレートを楽しませてもらいました」


 メルヴィン王の言葉にミレーネ王妃とグラディス王妃が穏やかに微笑んで言う。

 ロゼッタやルシールとの会食に饗されたチョコレートは、メルヴィン王や王妃達にもジョサイア王子が持っていってくれた。メルヴィン王達にもかなり喜んでもらえたようで何よりだ。


 流石にカカオはタームウィルズ近辺だと温室でしか育たないからな。更に数を増やしてカカオの流通量を増やすというのはまだ先の話になってしまうと思うが――ああ、いや。ヴェルドガル王国でも南方なら育てられる、か?

 後で気候のデータを突き合わせて確かめてみよう。上手くすれば温室無しでも栽培できるかも知れない。大公領の南西部。公爵領の南部あたりが狙い目だな。


 そんな話をすると、その場にいる面々が笑顔になっていた。中々好評なようである。


「邸宅の印象はどうでしょうか。何か気付いた事があれば魔法建築にて対応します」

「今のところは問題ないな。実際に住んでみて確かめるのも楽しみであるが」

「王城に近い感覚で暮らせるように気を遣っていただいたようですからね。私もグラディス様も、嬉しく思っているのですよ」

「使用人達や警備担当の視点からも問題はなさそうという話でしたよ」


 メルヴィン王の言葉にミレーネ王妃もそう言って、グラディス王妃も微笑む。

 王城に近い感覚で、というのはまあ、王と王妃にはそれぞれ専属の使用人がいるからな。使用人用の設備や生活空間等もそれに合わせて間取りを考える必要がある。


 この辺は気心の分かっている専任者に細やかな対応をしてもらうという目的もあるが……他にも理由はある。

 ミレーネ王妃とグラディス王妃の関係は相当良好との話ではあるが、それでも一般的にある程度分けておかなければならない部分も存在しているからだ。


 この辺に気を遣っておかないと主人同士や従者同士、主従間での人間関係に軋轢が生じたり、思わぬところで情報漏洩が起きて国内外に王家や貴族家、国の内情が漏れたり……腐敗の温床になる、などという事も有り得る。


 当然ながら王族付の使用人や警備は信用のおける者達ばかりではあるが、それは対策をしているからこその結果と言える。そうしたところでできるだけ懸念を減らしつつ、必要な連携はできるようにと規則だけでなく間取りや人員配置からも考えられているわけだ。


 空き部屋や客室等も含めて色々調整できるように余裕をもって作られているから、増改築無しでも多少融通は利くと思うが。

 必要なら魔法建築で細やかな対応もできるという事でメルヴィン王の邸宅に関しては一先ず大丈夫そうだ。


「引退後の暮らしも楽しみよな」

「ふふ、そうですね。まずは何をしましょうか」


 そう言って笑い合っているメルヴィン王と王妃達である。

 書斎や書庫、遊戯室に温室にサロンに船着き場等々あるし、執務からも解放されて、趣味に時間を費やしながらのんびり暮らせるというのはあるな。


 というわけで俺達だけでなく、警備や使用人達も交えて邸宅内を見て回り、設備や間取り、内装や家具や魔道具等々を改めて確認していったのであった。




 さて。邸宅の確認が終わったところでフォレスタニア城に場所を移して打ち合わせだ。

 メルヴィン王も当然結婚式には関わってくるから、一緒にフォレスタニア城に移動するという事になった。


 子供達は城で待っているからな。孫達の顔が見られるという事で、メルヴィン王も王妃達も上機嫌である。

 到着して早々打ち合わせというのも忙しない。まずは飲み物や茶菓子を用意して、子供達との交流の時間も作る。


「子供達の可愛らしいこと」

「きっとご両親に似たのですね。将来が楽しみだわ」


 と、ミレーネ王妃とグラディス王妃が子供達と触れ合って笑顔を見せる。そんな王妃達の様子にメルヴィン王も表情を緩めているな。

 ルフィナやアイオルト、エーデルワイス。それにコルネリウスはメルヴィン王やミレーネ王妃、グラディス王妃にとって孫であるが……オリヴィアやロメリア、ヴィオレーネもあやしたり腕に抱いたりして可愛がってくれている。


 マルレーンが腕に抱いたロメリアの髪をミレーネ王妃が優しく撫でたりと、ほのぼのとした時間だ。


 孫といえば母さんにとってもそうだ。母さんのことはメルヴィン王達も知っているので、ミレーネ王妃とグラディス王妃も団欒の場に母さんを誘ったりもしていた。


「リサ様も遠慮なさらずに。高名なリサ様とご一緒できる事を嬉しく思っているのですよ」

「そうですね。是非ゆっくり話をしたいと思っていました。仲良くしていただけると嬉しいわ」

「それは――光栄です」


 ミレーネ王妃とグラディス王妃に言われて、母さんも微笑んで頷く。そうして孫達をあやしたりしながら冒険者時代の話をしたりと、盛り上がっている様子だった。


 うん。引退後にフォレスタニアで暮らすなら孫の顔を見せに行ったり城に顔を見に来たりという機会も増えそうだ。ミレーネ王妃とグラディス王妃が母さんも交えて、こうやって子供達を可愛がってくれるというのは俺としても安心できるな。


 そんな調子で団欒の時間を過ごしてから、結婚式の際の演出打ち合わせに入る。


 結婚式の演出というが、正確にはそれらを行うのは式の後。街に姿を見せる際の話だ。やはり、この辺はシリウス号に乗って、というのが良いのではないかと思う。


「演出を請け負っているのがテオドールというのは街の皆も分かっている事だからな。俺達も甲板に共に列席するなり周囲を飛ぶなり、演出に必要ならそこに組み込んでもらって構わない」


 と、そう言ってくれるのはテスディロスを始めとした氏族の面々だ。

 なるほどな。俺自身も氏族の盟主扱いではあるが、お互い平和に共存できるように協力し合っているという関係だ。国内の政治的な利用はされないように気を遣う必要がある。

 テスディロス達が姿を見せるのならば俺も一緒に列席しておけば、氏族の立ち位置を誤解させるような懸念も少なくなるか。ジョサイア王子の結婚を祝福したいし、氏族としても王国との関係を良好に維持しておきたいという気持ちがあって、それを示したいというのも確かだしな。

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[良い点] 花火で自分描く計画の獣である
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