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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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235 フォブレスター侯爵領

 初心者組と経験者組に分かれ、カードに興じながらの旅路を続ける。
 人数が多いし、ステファニア姫やテフラ、ジルボルト侯爵家の面々は、カード未経験である。よって分かれて遊べるようにカードも何セットか用意してきているのだ。
 俺は説明の関係上、初心者組に混ざって解説しながら遊ぶことにした。

「お父様、ごめんなさい。これで上がりです」
「ふむ。これはロミーナに一本取られてしまったな」

 ロミーナの手札からジョーカーを引いてしまい、僅差で敗れたジルボルト侯爵は、それでも楽しそうに目を細めた。

「色々な遊び方が出来るのね。タームウィルズに戻ったら買っていこうかしら……」
「人の遊びというのは中々複雑だが、面白いものだな」
「いや、テオドール殿のこれは他に無いと言いますか、なかなか革新的ですぞ」

 みんなにも気に入ってもらえたようで何よりだ。
 と、そこでラヴィーネが一声小さく吠えた。

「あら。やるわね、マルレーン」

 経験者組も盛り上がっているようだ。ローズマリーが笑みを浮かべる。
 あちらはページワンをやっているようで。マルレーンが残り一枚になったところで手を上げ、向かい側、アシュレイの背後に控えていたラヴィーネが小さく吠えてマルレーンの代わりにページワンの宣言をしたというわけである。

「ありがとう、ラヴィーネ」

 アシュレイが目を細めてその毛並を撫でれば、ラヴィーネは静かに目を閉じ身を任せる。それを見てマルレーンも笑みを返したりと和やかな雰囲気である。
 ステファニア姫もその様子に少し驚いたような顔をした後、笑みを浮かべる。マルレーンとローズマリー、2人の関係が以前と変わっていることを喜んでいるのかも知れない。



「ああ、見えてきました」

 オフィーリアが窓から顔を覗かせ、嬉しそうな声を上げた。

「あれがオフィーリア様のご実家ですか」
「ええ。皆様、ようこそフォブレスター侯爵領へ」

 と、オフィーリアが冗談めかした様子で一礼してみせる。外壁に囲まれた港町。煉瓦の屋根で統一された街並みはなんとも情緒というか風情がある。
 町の中央が小高い丘のようになっていて、そこに風格を感じさせる城が建っていた。丘の麓に街並みが広がっているという作りだ。
 海を挟んで向こうはもう国外だからな。かなり立派な城だ。さすがにタームウィルズの王城セオレムに比べると、常識的な範疇の建造物ではあるが。

「直接城へ向かって良いのでしょうか?」
「ええ。お父様に話は通してあります。受け入れの準備はできているはずですので、城の中庭へ竜籠を降ろしていただけますか?」
「リンドブルム。城へ向かってくれ」

 リンドブルムは首を巡らせて振り返ると、俺の声に応えるように一声上げる。竜籠はゆったりとした速度でフォブレスター侯爵の居城へと進む。
 城壁の監視塔の上にいた兵士に、オフィーリアが手を振る。兵士はオフィーリアに気付いたのか居住まいを正すように折り目正しく敬礼してそれに応えた。

 城壁を越えて――見えてきた中庭へと竜籠を降下させる。そのまま静かに着地。
 王城の飛竜達だけあり、訓練が行き届いているというのもあるが――リンドブルムがリーダー役になって飛竜達を上手く統制しているらしく、とかく手がかからない。

「お疲れ様、リンドブルム」

 竜籠から降りてリンドブルムの鼻先を軽く撫でてやると、喉を鳴らして応える。
 前もって迎えるための準備を進めていたのだろう。ほとんどこちらを待たせることなく使用人達を引き連れてフォブレスター侯爵がやってくる。

「ようこそフォブレスター侯爵領へ。領主として心より歓迎します。遠路の長旅、お疲れのことかと思います。まずは居室に案内をしましょう。手荷物がありましたら、使用人達になんなりとお申し付け下さい」

 フォブレスター侯爵は一礼し、歓迎の口上を述べる。

「お久しぶりですね、フォブレスター侯」
「ご無沙汰しております、ステファニア殿下。大使殿もよくいらっしゃいました」
「ありがとうございます。フォブレスター侯爵」

 それからジルボルト侯爵に向き直る。

「ジルボルト侯爵とは何年ぶりになるでしょうか」
「久しぶりですな、フォブレスター侯爵」

 そうやって挨拶をする傍らで使用人達が恭しく手荷物を受け取る。といっても、竜籠ごと船に積んでしまう予定ではあるので大した量ではないのだが。フォブレスター侯爵自らの先導で客室に向かって移動する。

「ただいま戻りました、お父様」
「ああ。おかえり、オフィーリア」

 移動の途中でオフィーリアがかけた言葉にフォブレスター侯爵は笑みを返す。客室まではすぐだった。中庭に面する廊下に客室が並んでいる。中庭には噴水があり、水が流れる音が心地よい。なかなか良い場所だな。

「ささやかながらの宴席を用意しております。晩餐の準備が整いましたらお呼びしますので、少々お待ちください。何か分からないことがありましたら使用人達に」

 ということで貴賓室に通された。
 室内は随分と広々としている。大きなリビングと、幾つか寝室となる個室があって、まるで小さな邸宅みたいな様相をしている。これ全体で1つの貴賓室という扱いなのだそうな。
 何でも外国の貴族を迎えることもあるので、護衛部隊単位で貴賓と同じ部屋に泊まれるような仕組みになっているそうだ。
 寝室は天蓋付きの寝台やら装飾の細かな鏡台やらが置いてあり、やたら内装も豪華だ。

 さて。流石に1つの寝台で全員は眠れない。間取りと寝台ごとに部屋が割り振られるわけだが……。
 どういう内訳にするか少々話し合いをする必要があるか。

「護衛の面々を飛び飛びで置いて、その両隣にステファニア殿下、ジルボルト侯爵とご家族というのはどうかな?」
「私はそれでいいわ」
「こちらも異存はありません」

 まあ、フォブレスター侯爵の居城でそこまで警戒する必要もないが、護衛の任務があるし。
 奥の部屋からステファニア姫。その隣にシーラとイルムヒルト、セラフィナ、テフラとビオラ。ジルボルト侯爵家。隣に俺と婚約者の面々。更にその隣にアルフレッドが来るわけだ。これで隣室で異常があっても対応できるというわけである。
 就寝時はリビングにラヴィーネとアンブラムを。窓の外にカドケウスを置けば――まあ万全だろう。

「それじゃあ、テオ君。僕はまたしばらく作業をするよ」
「ん。あまり根を詰め過ぎないように」
「まあ、僕は作業を早めに終わらせれば、後は休暇みたいなものだからね」

 アルフレッドはそんなふうに笑い、ビオラと共に部屋の端に陣取り晩餐まで防具作成の作業を続行することにしたようだ。オフィーリアもアルフレッドの作業の進捗が気になるらしく、アルフレッドの近くに行く。作業が終わればオフィーリアとのんびり過ごせるわけだしな。
 ジルボルト侯爵家の3人は寝室へ向かう。家族水入らずで少々休憩するそうで。

「では大使殿、後程」

 エルマー達もそれぞれ分かれて別の貴賓室へと向かった。

「ふう」

 割り振りも決まったところで――晩餐までのんびりできるか。ソファに腰を落ち着ける。大型の竜籠とは言え、人数が人数だからな。手足を伸ばせるというのは有り難い。ソファに座って寛ぐと、客室付きの使用人がお茶を淹れてくれた。

「それにしても、ローズマリー。貴女、かなり変わったのね。マルレーンとも仲が良くなっているみたいだし」

 ジルボルト侯爵が席を外したからか、ステファニア姫がティーカップを傾けながらローズマリーに言う。

「そうかしらね」

 ローズマリーは肩を竦めて羽扇を広げる。マルレーンはにこにこと笑っているので、ローズマリーとしては中々、居心地が悪そうだ。

「ええ。昔はもっと張りつめていたけれど、大使殿のお陰なのかしら」
「……環境が変わったからだわ。必要がないなら敵視もしなくていいということよ。それをテオドールのお陰というのなら、そうかしらね」
「ふうん」

 ステファニア姫は少し悪戯っぽく笑う。羽扇で表情を隠してそっぽを向くローズマリーに、グレイスは苦笑して、話題の方向性を変えるように尋ねてくる。

「そう言えば、明日からの予定はどうなっているのですか?」
「船の準備を進めたりかな。まあ、侯爵領の騎士団の面々と顔合わせをして、訓練をするっていう約束もしているけど……滞在期間も短いからな」

 それでどれほど訓練になるやらと思うのだけれど。フォブレスター侯爵やオフィーリアはそれで良いのだという。

「私としては、テオドール様の普段通りで十二分に彼らの刺激になると考えていますの。一度上の世界を覗かせてもらうだけで、その後の訓練にも身が入るものと思っていましてよ」

 と、オフィーリア。
 なるほど。役割としては彼らの士気の焚き付けみたいなものか。城に入る前の兵士の動きから見ると元々錬度も高いみたいだし、それなら問題はないかな。
いつも拙作をお読み下さり、誠にありがとうございます。
いよいよ大晦日ですね。今年一年、大変お世話になりました。

来年も頑張りますのでよろしくお願いします。
では皆様、良いお年をお迎え下さい。
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