番外1672 鉱石と歓迎会と
さて……。まずはエレメントフェイク達についてである。
「エレメントフェイク達は一種類ずつ状態の良いものを確保してきているから、それに改造を施したいところではあるね」
「ティアーズ達と同じかな」
「うん。解析をする必要があるけれど」
俺とアルバートのやり取りに、ティアーズ達もこくこくと身体を傾けるように頷いていたりする。同僚が増えるという事で喜んでいるようにも見えるな。
素材として見るならば……エレメントフェイクの魔石は最初から属性がついているからな。水属性の魔石に関しては治癒系の魔道具にしても訓練設備の消火用にしても丁度良い使い道があるので色々と便利だ。
属性魔石で質の揃ったものが複数用意できるというのも良い。他の属性魔石もすぐに使い道はなくともいずれ丁度いい使い道が出てくるだろう。
ヤシガニやトビウオ、ウミヘビ、アリジゴク、それに擬態獣の場合、魔石自体に属性はついていないが……例えばヤシガニ、アリジゴクあたりの外殻はそれぞれ水属性や土属性に高い耐性や親和性を持っているようだ。
「殻に関しては、手甲や肩を覆う防具にはできそうですね。軽量なのも良さそうです」
そんな風に感想を述べるのはビオラだ。
「光球の術式で形を整えてやれば作れる防具の種類も増やせそうな気がする。刻印術式や裏打ちする素材次第で強度を上げたりもできるし」
属性防具としては便利そうだ。専用装備があったりする面々はともかく、タームウィルズやフォレスタニア城の武官達は勿論、軽量な事を考えれば魔術師にも良さそうだな。
星海群島は一般に公開できないので市場に流通というわけにはいかないから、そうした方向での活用となるだろう。
「ん。ハサミやヒレ、大顎あたりは穂先や矢尻とか、短剣にするのもよさそう」
と、シーラがトビウオのヒレに触れつつ言う。
ヤシガニのハサミとトビウオの尖った口、刃物のようなヒレ、アリジゴクの顎といったパーツだな。これらについてもやはり、総じて軽量で鋭く、属性武器として活用しやすい。軽量で強度もあるので使いやすい武器になるのではないだろうか。
擬態獣の葉刃もそうだ。使い道としては手裏剣のような投擲武器や小型の刃物としての運用となる。見た目が葉っぱそのものだから暗器にもなってしまうのは些か物騒ではあるかな。
属性武器に適している事を考えれば槍、矢としては中々の高性能な素材だ。ナイフにするなら武官達のサブウェポン、魔術師の護身用といった用途になるだろう。
そうやって一つ一つ素材を吟味しつつおおよその使い方を決めていくが……変わり種だったのはウミヘビだ。
「何だか、箱に穴が……いや、これは透けている、のか?」
ウミヘビを収納した保存箱の様子が少しおかしな事になっていたのだ。箱の底に穴が開いたかのようになっていて、一瞬何か問題が起こったのかと思ったが、どうやらウミヘビの半透明の特性が作用しているらしい。
少しウィズと共に解析してみると、程無くして原因も分かる。
「これは――血液に魔力を通すと透明化する作用があるわけか」
保存箱の魔力を少し消費しているようだからな。血液か保存箱のどちらかに封印術を施し、性質や魔力を抑えてやると、透明化していた部分も普通に見えるようになる。
なるほどな……。だからウミヘビは全体が透けていて、内臓や骨格すらも見えなかったというわけだ。
「面白い特性ね」
ローズマリーが興味深そうに箱を覗き込んで言う。
「血液の特性が上手く利用できれば、必要な時に魔力を込めれば透明化もできるかも知れないね」
アルバートが笑みを見せる。そうだな。色々と便利そうな素材だ。悪用されてしまいやすいものでもあるから、取り扱いや運用方法は慎重にしたいところではあるが。
「最後に、島の裏側から拾ってきた鉱石かな。これの正体が分かればと思うんだけれど、どうだろう」
これについてはビオラやエルハーム姫にも見てもらって、それで正体が分からなければ迷宮核で調べるつもりでいる。
ビオラ達は鉱石を光に翳して鉱石を見やる。
「うーん。私は……ちょっと分からないですね。何だか不思議な魔力が宿っているみたいですが……」
コマチが眉根を寄せつつ少し申し訳なさそうに言う。コマチは絡繰りが専門だからな。様々な素材について相当に詳しいが、鉱物が専門ではないので少し畑が違うとは思うが。
「俺達にも分からない素材だし気にする必要はないよ。それに、もし東国由来の素材だったらコマチやその伝手に聞くのが一番近道だろうから」
「その時は頑張りますね……!」
そんな風に言ってコマチは力こぶを作って見せている。
「精錬しないと確かなことは言えませんが……ドワーフの口伝で聞いた素材に特徴が似ているかなと」
「私も文献で得た知識なので、自信を持って言えるわけではないのですが……」
ビオラとエルハーム姫はと言えば、二人とも少し考えていたようだが、そんな言葉を口にする。共に自信はなさげだが、二人で頷き合うと答え合わせをするように声を揃えて言う。
「アダマンタイト」
ビオラとエルハーム姫の言葉が重なる。
アダマンタイトか。また希少な素材の名前が出てきたものだ。
「精霊の力が特別強い場所で条件が良ければ採掘できる、と文献で読んだ事はあるわね」
ローズマリーが顎に手をやって言う。
「ああ。それは俺も知識としてはあるな」
「星海群島は……精霊の力が特別強い、という部分では条件に合致するわね」
そうなるな。四大精霊殿は……まあ、固有の属性に偏っている場所であったしそもそも資源採掘用の区画というわけでもない。
「ただ……まだ確定ではないですから」
「口伝や文献の情報を元に、精錬して見てみるのが良さそうですね」
「確かに……それならはっきりするね」
そういう事なら鉱石についてはビオラとエルハーム姫に任せるのが良さそうだ。精錬した後は、実際の性質を確かめてから利用法を考えよう。
というわけで、素材の利用方法については概ね纏まったかな。
「後は、食用に使えそうだ」
トビウオは勿論、ヤシガニも食べられるからな。ウミヘビは……食えると聞いたことがある。
一口にヤシガニ、トビウオにウミヘビとは言ってはいるが、星海群島の迷宮魔物は可能性の分岐の模索として作られたもので正式名称がないから便宜的というか簡易の呼称に過ぎない。
特に……ウミヘビに関して言うなら景久の知識からすると結構曖昧な呼称であったりするからな。
爬虫類のものと魚類のものがいたりして。これに関してはどうやらヒレがあるから後者のようだ。透明化する血液等は特殊であるが、トビウオやヤシガニ同様、ウィズの解析では食用にできるようだから、新鮮な内に食用にしてしまおう。
「それじゃあ……食用に使える部分はサティレスの歓迎会で、料理に使ってしまおうか」
「いいわね」
俺の言葉にステファニアが頷き、ユイ達も笑顔を見せる。
「そういう事であれば、腕によりをかけましょう、ツェベルタ」
「そうですね、スピカ」
スピカやツェベルタもやる気満々といった様子だ。
「それは――恐縮です」
当人であるサティレスは微笑んで一礼していたりする。ちなみに妖精達はあまり普通の食事を必要とはしないが、果物や花の蜜等は喜んでくれたりする。
なので果汁や果肉を含んだジュースやお菓子等を饗するのが良いだろう。トビウオやヤシガニ、ウミヘビ等はあまり魅力に感じないだろうが、サティレスの歓迎会では果物や蜜を使ったデザートを多めにするというのが良さそうだ。