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番外1669 浮遊島の下で

「――それじゃあ、私達の出番だね……!」

「うむ。待ちかねたぞ」


 そう言いながら肩を回しているユイやにやりと笑うルベレンシア。自分達が探索を行うのを楽しみにしていたという様子だな。ヴィンクルも声を上げて、訓練という事で気合も十分な様子である。

 テスディロス達の探索も順調に進み、とうとう島の下部付近までやってきたのだ。そろそろ交代しようという話が出て、ユイ達が出撃準備を始めている。


「浮遊岩を通路として使わずとも、島に進める直下からの移動経路というのは想定されています。結界にぶつかったりはしないので、その点は安心してください」


 サティレスがそんな風に教えたからという部分もあるな。想定されているということはつまり、島の裏側にも魔物がいるという事を示しているからな。事前情報がない状態での調査、探索も訓練目的なので、サティレスからの情報提供は最小限のものであったりするが。


『では、目標の地点まで来たので、ユイ達が前線に移動したら入れ替わりに撤退する』


 テスディロスが言う。他の面々はオズグリーヴを中心に周囲を警戒しているな。入れ替わりの間も安全を保障されているわけではないから、魔物に警戒を払いつつ交代というのは正しい。それなりに距離もあるが、転送魔法陣を用いての入れ替えを行っていく。

 これについては――撤退や入れ替えの訓練になるからな。


「うん。転送魔法陣を広げて待っていて欲しい」


 オズグリーヴは海水で濡れないように煙の土台を作り、そこに転送魔法陣を描いた布を広げて待機する。まずは入口前広場のユイ達を送ってから、防衛戦力の低下を招かないようにしつつ人員を入れ替えるというわけだ。


 ユイ達が入口の広場で転送魔法陣の上に移動し、俺を見て頷く。


「気を付けてね」

「うんっ!」

「行って参ります」


 ユイやヘルヴォルテが言う。ヴィンクルも準備はできているというように一声上げた。

 マジックサークルを展開して魔法陣を起動させると、ユイ達は光に包まれて前線へと移動する。


『では、周囲の警戒は任せてもらおう』


 ルベレンシアが少し宙に浮かび、周囲を見回しながら言った。ユイも鬼門を使って防御するつもりのようだ。

 ユイ達が前線に移動して警戒を始め、防御班が入れ替わる。オズグリーヴも含めて全員が転送魔法陣の上に乗って準備ができたようなので、再度術式を発動させてこちらに戻ってきてもらった。

 光に包まれてオズグリーヴ達があちらから戻ると、煙の土台も掻き消える。転送用の布が海面に落ちる前にカストルムが浮遊する手で受け止め、ユイに渡していた。


『ありがと、カストルム! それじゃあ、島の裏側に向かって移動していこう』


 一同ユイの言葉に頷いて、まずは前方に移動していく。島の直下から進む形をとるわけだ。面子としてはユイ、ヴィンクル、べリウス、ルベレンシア、カストルム。後からサティレスに挨拶にきたヘルヴォルテやアルファもそこに加わって、守護者&魔法生物班と言えば良いのか。一行は島の下部へと進んでいく。アルファは実体がないしスレイブユニットも持ち込んでいないのでサポート役に徹するつもりではあるようだが、みんなやる気に満ちていて結構な事だ。


 敵の感知は――カストルムが担う。その重装甲やロケットパンチに目が行きがちだが、カストルムは元々拠点の防衛を目的として七賢者に作られたという事もあって、実は索敵能力が高い。動態や魔力の感知能力を持っていて、侵入者に対応するための能力を持っているのだ。

 勿論、見た目通りで防御力も高く、遠距離攻撃もできるという事で色々な役回りを兼任できるのがカストルムの強みだろう。スタンドアロンで動くことを想定されているから色々できるというのは納得ではあるが。


 先頭を進んでいたカストルムが警告音を発する。翻訳の魔道具を通してカストルムの意思が伝わり……一同の視線が接近してくるトビウオの集団を捉えた。


『戦闘開始か……!』


 ルベレンシアが牙を剥くようにして笑う。ヴィンクルやべリウスも獰猛な笑みを浮かべれば、カストルムが意図を伝える音を鳴らし集団の中心に向かって腕をぶっ放す。


 トビウオ達は四方に散ってロケットパンチを避けるが――対応するようにユイ達が突っかけていた。一気に距離を潰すような、猛烈な突進速度だが呼吸は合っている。


 変則的なチームではあるが後衛と呼べる面子がおらず、全員が近接戦闘に積極的に対応できる。だからこそ、各々の攻撃に巻き込まず、且ついざという時サポートし合えるぐらいの距離をとりながらの攻撃を仕掛けていた。


 ユイの薙刀が、ヴィンクルやルベレンシアの爪が、唸りを上げて空中に軌跡を残す。

 仙気や闘気、魔力の込められた鬼と竜の爪撃だ。生半可な実力で受けられるものではない。通り過ぎた後には真っ二つになったトビウオ達が残される。


 ユイ達の間合いに入らなかったトビウオ達を、横合いから火線が薙ぎ払っていた。

 姿を消したまま位置取りをしていたべリウスの口から吐き出されたものだ。トビウオ達の身体が焼き切られるほどの熱線。空中で両断されてから遅れて傷口から炎上し、水面に向かって落ちていく。


 それに巻き込まれなかったとしても、ヘルヴォルテが瞬くように転移で現れて、手にした槍で一撃を加えるとまた掻き消える。

 同時に撃ち込まれたカストルムの指から、魔力弾が四方八方にばら撒かれていた。トビウオ達からすると、突然背後から射撃を受けたような形だ。


 初撃で散らされたところに突貫され、横合いや背後、転移によって奇襲に奇襲を重ねられて、正面から数で攻めたはずが、トビウオ達は大混乱に陥っていた。


 それでもカストルムは目立つからか、飛来してくる一団は残っている。

 カストルムが音を鳴らしてアルファを見やると、アルファもにやりと笑う。アルファが余った左腕に憑依したかと思うと、狼の頭部のようなオーラを纏って、向かってくる魔物達に咆哮を上げて突っかけていく。あれは――新しい技だな。カストルムの腕の貸し出しとは中々面白い連携であるが。


 カストルムの左拳。だというのに引き裂くかのような斬撃が繰り出されていた。これはアルファの魔力の使い方によるものだろう。手という形状だからこそ、爪撃に近い攻撃になる。


 そうしている間に撃ち込まれた右腕がカストルムの方へ戻ってくる。トビウオ達も本体目掛けて闘気を纏った突撃を見せるが、いかんせん分断されてしまって頭数が足りないという印象だ。右腕が防壁を展開して突撃を受け止めたところに、ヘルヴォルテが転移で戻ってきたかと思うと槍の連撃を矢継ぎ早に見舞う。攻撃を繰り出したかと思うと翼をはためかせて離脱。そちらに気を取られた隙に、カストルム本体からの光弾がトビウオを更に撃ち抜いていく。


 前衛として突っ込んでいたユイやヴィンクル、ルベレンシア達は好き放題暴れ回っているという印象だ。ラストガーディアンと魔界の火竜だからまあ……ああいう事になるな。連携よりもひっかきまわすのが仕事というか作戦だからというのもあるだろうか。


 ユイは舞うように振袖を振るいながら斬撃を繰り出す。その動きは流麗で洗練されている。鏡面のような水面に映って、どこか幻想的な美しさすらある光景だ。

 個々の技は俺から知識を受け継いだ杖術や体術がベースだが、一緒に指導を手伝ってくれているゲンライ老やレイメイの影響も大きいな。


 ヴィンクルやルベレンシアは――竜らしい豪胆さで数の多いところへ積極的に切り込んでいく。

 一撃一殺。ヴィンクルの爪撃は特にだが、両断というより粉砕してしまうような問答無用の破壊力を秘めている。

 竜にとって速度や破壊力、防御能力は追随するものがないからな。大抵の場合正面突破で事足りる。


 かといって技術がないというわけではない。ヴィンクルもルベレンシアも魔力弾や細く絞った吐息を攻防の中に交えて、実に効率よくトビウオの群れの数を減らしていく。この辺は――俺やグレイスとの戦いを経ているからでもあるし、ユイやテスディロス達が強者であることに胡坐をかかず、日々技術を磨いている影響もあるだろう。


 その時、カストルムが上空に注意! と音を響かせた。ユイが島の方向に視線を向ければ、光り輝く渦を纏う――風属性のエレメントフェイク達が集団でこちらに向かってくるところだった。

 浮遊岩群の時よりも総数が多く見えるな。正規の順路以外では好き勝手には浮遊島まで行かせはしないという事なのだろう。


 そんな光景にヴィンクルやルベレンシアは好戦的な笑みを見せるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] せや、島の土側に向かって移動していくんや しかし誰も続かなかった
[一言] 格の違いを見せつけるような各々の蹂躙ぶり。 でも、思ったことは「然もありなん」だったりw
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] カストルムの指から一本ずつミサイルが出てくるのを連想した土竜。 色々あるが、特撮版GR-1と超光速万能大型変形合体マシン兵器の二つで止めた。 サティレス(機会…
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