番外1668 氏族と守護者
テスディロス達は俺達の戦いを見て当てられていたようで、水面付近の探索には相当気合が入っていた。戦闘も積極的に行っていこうという気概が見て取れた。
『ふむ。島に向かって右側――水面下より魔物が接近中ですな。島にもいた甲殻類のような魔物です』
『対処する』
オズグリーヴが索敵結果を伝えれば、ゼルベルがそう答えて。他の面々と共に迎撃にあたる。
水中にテスディロスの雷撃やエスナトゥーラの冷却弾を放つと、着弾した付近からヤシガニやエレメントフェイクが飛び出してくる。
『来たかっ』
『そこですな……!』
それを――ゼルベルやウィンベルグ、ルドヴィアが撃退していく。
纏った赤い闘気の手刀が唸りを上げると、雷撃や温度低下で動きの鈍ったヤシガニを真っ二つに切り裂く。相当な闘気の集束。
ゼルベルが纏う赤い闘気は、手刀の威力を上げるために気流のような流れまで構築しているな。手甲の強固さと相まってさながら鉈のようにヤシガニを叩き切ってしまった。
ウィンベルグはと言えば、ルドヴィアとも連携してエレメントフェイクに魔力弾を叩き込んでいる。
ウィンベルグが空中から高速旋回して見切りやすい低速弾を撃ち込み、回避や迎撃をしようとしたところに、ルドヴィアが高速の狙撃といった、射撃連携を見せている。こちらも訓練していたという事もあって、かなりの精度だ。避けるところに撃ち込まれる形なので、どちらかの攻撃は敢えて受けなければならない。
射撃による反撃は――オルディアが封印の術で防いでいる。錫杖を振るい、魔力の波を浴びせるように放てば飛来した魔力弾が宝石となってオルディアの周囲に漂う。後は必要な時にオルディアの弾丸として用いるというわけだ。
『前衛も強固ですし、オルディア殿の守りも厚い。これならば心配はいりませんな』
『ふふ、任せて下さい』
オルディアが答えるとオズグリーヴは笑って頷き、煙を薄く、広く散らす。
俺の魔力網のように触れた相手を察知できるのだ。周囲の空気、水が動く事で展開された煙にも反応があるからかなり微細な動きを感知できるようで……触れなければ大丈夫というようなものでもない。
ただ通常、水中の索敵の場合、範囲は狭まるし精度も落ちるという話だ。普通ならば水流もあるし、魔物と普通の生き物の動きをより分けるのも手間だからな。
水の中に煙というのも妙な話ではあるが……塗料や墨が水に広がるようにモヤが水中に残っているような光景が広がっている。オズグリーヴが能力の維持を続ける限り薄れず滞留し続け、その意思に応じてモヤが形を変える。星海群島は水の動きは鏡面のように穏やかであるし、魔物は能動的にこちらに向かってくるので分かりやすい、というわけだ。
そうして察知した相手には先制攻撃で対応するというわけだ。
水面付近の迷宮魔物達に関しては、水と土のエレメントフェイク。それに浮遊島で見たヤシガニの亜種が既知の存在だ。ヤシガニの亜種に関しては氷ではなく水そのものを操るようで、水流に乗って甲羅やハサミを使っての突撃を仕掛けてきたり、水の渦を操って動きを阻害したりといった具合だ。水球を放って呼吸を阻害しようとする。
浮遊島の氷ヤシガニよりも絡め手で来るという印象があるが、テスディロス達にとっては問題にならない。そもそもの実力が違うためにテスディロス達の雷撃や冷却弾に対して水の鎧の防御能力が足りないのだ。そうして動きを止めたところをゼルベルが粉砕したりウィンベルグが撃ち抜いたりといった形になってしまうわけだな。
エレメントフェイク達は――オルディアが悉く弾丸を止めているあたり、無類の好相性という印象だ。魔法生物且つ単一の属性であるために、一度解析が終わってしまえば能力が非常によく通る。相手の弾丸を取り込んでから別の属性のエレメントフェイクに叩きつけたり、既に解析が終わっているから能力そのものをあっさりと封じたりもできる。
そうしてオルディアがオズグリーヴを守り、他の面々が索敵の情報を元に粉砕するという形で探索を進めていく。
新しい魔物としてはトビウオとダツを足して二で割ったような魔物魚も出現した。こちらは姿を隠していないが、ある程度の纏まった数で水面を水切りするように高速移動してきて、突撃を仕掛けてくるという魔物だ。
頭部に錐のような突起。刃物のようなヒレ。水面を跳躍するような移動方法を見て取ったルドヴィアが魔力弾で着水地点を予測射撃するも、トビウオは空中で軌道を変える。
空も飛べるというわけだ。だが、攻撃手段は体当たりや斬撃の類らしい。空中を漂っていた煙が密度を上げるとトビウオ達の動きを阻害し、それをエスナトゥーラの鞭が容赦なく打ち据えていく。
危なげがないというか覚醒氏族達やその手前ぐらいの氏族が訓練した上で連携している状態だからな。
人目がないから能力の出し惜しみもしていないし、付け入る隙は非常に少ないと言えるだろう。
そんなテスディロス達の探索風景や相談内容の一つ一つに、サティレスは真剣な表情を向けて耳を傾けつつ思案していた。自分だったら魔物をどう指揮して切り崩すかという事を考えているようだ。
「相手が強くて撃退が大変そうなら、時間を稼ぎながらより消耗させる手を考えたいところですね」
「そうだね。撃退させた場合、次に備えて相手がしてくる対策の対策も事前に考えたいかな」
そういった内容をユイと話し合うサティレスである。ヴィンクルもうんうんと頷いたりしていて、こうした探索に関してはユイ達から見ても別の観点で勉強になっているようで何よりである。
『何かいるな』
そんな言葉と共に、テスディロスが魔力弾で直接攻撃を仕掛ける。
水の中に潜んでいたのは、水ヤシガニやトビウオに続く、更なる新手の迷宮魔物だ。炙り出されたのは半透明のジェルのような質感の身体を持つ、ウミヘビのような魔物であった。
『ほう』
テスディロスの先制攻撃で初めて動きを見せた相手に、オズグリーヴも反応する。周囲の煙が槍に変化して突然水面上に突き上げられると、苦悶の咆哮を上げつつも、電撃を周囲に撒き散らしていた。
『電撃は引き受ける』
テスディロスがそう言って槍の石突きを浅瀬に突き立てれば、迫ってきた電撃は見えない壁にぶつかったかのようにあらぬ方向に散ってしまう。
初撃を防がれ串刺しにされたウミヘビの頭部を、ルドヴィアの狙撃が撃ち抜いてとどめを刺す。
『あの姿……水中だと見えそうにないな』
ルドヴィアが眉根を寄せる。
『微細な雷を纏っているから、この連中と雷のエレメントフェイクなら俺も意識していれば探知できそうだ』
『ふむ。私も水中の探知は精度が落ちるので心強いですな。島から水が落ちてくれば水流も乱れて探知範囲に影響が出ますし、先程のように全く動きを見せていないと直接触れるまでは察知できませんから』
そんなやり取りを交わしつつ一行は進んでいく。魔物は海のあちこちに潜んでいるが、数自体は多くないからテスディロス達の探索も比較的順調だ。
この様子を見ると……いざという時には海面側に逃げた方が安全な区画、と言えるかも知れないな。ただ……物陰に潜んで行動できる系統の魔物が多いので、やはり探知能力が問われるというのは間違いない。
剥ぎ取りに関してはこちらが引き受ける。オズグリーヴに転送魔法陣を移した布を渡しているので、転界石の代わりに倒した魔物達を転送すれば、後はこちらで剥ぎ取りを考えればいい。
トビウオとウミヘビに関しては初めての魔物という事で、丸ごと持ち帰るという事になった。魔石に関しては一応必要な分はもう確保しているしな。保存ボックスに収納して後で利用法を考えよう。