番外1667 星海群島の行く先は
ウロボロスを引いて勝敗が決すると、みんなの展開していた結界が解かれる。俺もサティレスも模擬戦での消耗はあっても怪我等はしていない。戦いの行く末を見守っていたみんなのところへ戻ると、ティエーラとコルティエーラが微笑んで頷く。
「良い戦いでした」
「二人の戦いに望む気持ちが……心地良く感じた」
「お互いにとって、得るものが多かったのではないでしょうか」
と、ティエーラ達が言う。
「そう、かも知れない。特殊能力に対しての干渉能力合戦っていうのはあまり経験が積めないし、貴重だったね」
「恐縮です。今後の課題も見つかりましたし、とても勉強になりました」
ティエーラの言葉に俺が答えると、サティレスも真剣な表情で応じる。
そうだな。サティレスの特殊能力は非常に強烈な部類の物だとは思うが、無敵ではない。
突破するための方法も……いくつか考え付くな。例えば干渉能力同士での勝負になった場合。こうした相手は俺との戦いと同様、戦って打ち崩す必要があるから、近接戦闘にしろ射撃戦にしろ、そのあたりの地力が問われる。
こうしたタイプとしてはユイやオルディア、エスナトゥーラあたりだろうか。ゼルベルも……自身の状態を正常に保つ、という意味ではサティレスの干渉に抗う能力が高いと言える。
火力や範囲攻撃、機動力や体術、射程距離等……どこかでサティレスを上回る分野で干渉を防ぎつつ戦う方法も考えられる。グレイスやヴィンクルは特に火力と広範囲攻撃が得意分野だからそうしたタイプと言えるだろう。
「実力が拮抗してくれば最終的に問われるのは地力、という事になるね」
基礎力で上回って均衡を崩せれば干渉で相手の感覚を塗り潰して決着がつくから、サティレスの能力が強力無比という点は変わらないが。
「そうですね。これからも精進を積んでいきたいと思います。目指すべき方向も示していただいた気がしますから」
先程の戦いを思い返すように、胸のあたりに手をやって目を閉じているサティレスである。
幸いというか、地力を伸ばすための訓練相手には事欠かない環境だ。実力もタイプの多彩さも十分で層も厚い。
そんなわけで今後の課題というか、感想戦のようなものも終わったところで、みんなもサティレスのところへやってくる。
ヴィンクルがにやりと笑って上機嫌そうに声をあげているな。サティレスがラストガーディアンの姿を取ったのが楽しかったようである。まあ……サティレスの知識にある中で俺に対抗できる幻術の姿という事になるしな。
「すごい能力だね……!」
「ふふ、ありがとうございます、ユイさん」
ユイも目を輝かせつつそう言うと、サティレスもまた笑顔で応じる。ヴィンクルやユイだけでなく、守護者組は先程の戦いでサティレスに良い印象を抱いたように見える。模擬戦でも気合が入っていたからな。その辺同僚として信頼に値すると見られたのだろう。
とはいえ、サティレスの場合はティエーラの側近や護衛という部分があるから、あまり前には出ない方が良いかな。能力はバレていても強いが、秘匿されていれば初手で対応できなければそれで終わってしまうという部分はあるので、ユイと同様能力はできるだけ隠しておいた方が良い。
まあ、それはそれとして……一緒に訓練をしたりどこかに遊びに行ったりだとか、交流の面で遠慮する必要はないとは思う。
訓練に関して言うなら本人の申告通り、他の支援でこそ本領を発揮する部分もあるので、サティレスの場合、個人の技量だけではなくその辺も学ぶ必要が出てくるかなといったところだ。
さてさて。俺とサティレスの模擬戦も終わり、広場に戻ったところで改めてテスディロス達やユイ達、中衛班、後衛班も役割を入れ替えて星海群島内で訓練していく、という事になった。
区画守護者であるサティレスが味方ということもあり、未知の深層区画故の危険性というものもかなり減ったしな。
ティエーラの影響で生まれた区画という事で何か変わった要素がないかを警戒していたが――いや、実際浮遊島等十分に変わっていたが、最大戦力である守護者が攻撃してくる危険性はないからな。深層ではあるが調査よりも訓練に主軸を置く形になって、少し元の想定とは前提から変わってきている。
ともあれ、水辺の魔物達の性質等はまだ判明していない部分も多いので、区画下層の海の調査と訓練を進めるのも有意義なものとなるだろう。
そんなわけで今度は俺達が区画入口前に待機し、支援に回る形になるが――。テスディロス達もユイ達も、かなり気合が入っている様子であった。
「良いものを見せてもらったからな」
「そうだな。二人の戦意に当てられたと言うべきか」
そんな言葉を交わしているのはテスディロスとゼルベルだ。他の面々もその気持ちは同じなのか、静かに気合を入れたり、闘気や魔力を高めたりしながらも頷いていた。
そうして俺達は入り口前広場で待機しつつ戦況を見て、テスディロス達やユイ達の動きを見せてもらう、という事になったのであった。
まずはテスディロス達――中衛班が前に出る。今まで後衛として基地を守るユイ達が退路の確保という中衛班の役割にそのままスライドして動いていく。俺達は待機して体力と魔力を回復させつつ、水晶板で状況を見させてもらう。
水面側は見通しがききやすいという事もあり、オズグリーヴが煙を薄く広げて索敵と調査を行っていく事にしたようだ。煙が接触する分には攻撃を受けても問題ない。水中に潜んでいる敵も炙り出せて丁度いいと言えるだろう。
水面側はどの方向にも行けて調査といっても目標地点がない。そこでテスディロス達は話し合い、調査すべき方向を決めてから動くことにしたようだ。
『提案ですが……いくつかある別の浮遊島の下部を目指していくというのはどうでしょうか?』
『分かりやすいな。島から零れ落ちた資源というものがあっても不思議ではない』
『下層の海から直上へ向かって移動、或いは島から降下という移動経路も考えられますからね』
ウィンベルグが言うと、ゼルベルやオルディアも同意する。オズグリーヴ達も異論はないという事で方針が纏まる。
「だとするなら私達は浮遊島の下というか、裏側の調査……とか?」
「ふむ。良いかも知れぬの」
ユイの言葉にルベレンシアも同意して、ユイ達の班も調査場所が決まったようだ。
俺達が浮遊岩と島の表。テスディロス達が水面付近と島の直下。ユイ達が浮遊島の裏側という事で、各々の班で調査範囲が分散できたのは良い事だろう。
サティレスはと言えば、俺達と共に調査を見せてもらうことにしたようだ。
「私の場合は――防衛側の視点で、ではありますが勉強させて頂きます」
「うん。私は今回調査する側だけど、両方の視点で考えられるって重要な事だもんね」
サティレスの言葉にユイも同意する。他の守護者面々もうんうんと頷いていたりするな。俺達に限っては普通の冒険者の探索方法とはかなり違ってくるが、様々な侵攻手段を取る相手に対策を練るという意味でも、調査や探索する側の視点というのは良い勉強になるだろう。
そうしてテスディロス達が動いていく。
先程の戦いに当てられて全員気合が入っているというのはあるな。この区画は防衛用の区画であるから、重要な位置づけになるのは浮遊島上部という事もある。他の区画に繋がる扉を繋ぐとしたら……浮遊島の内のどれかということになるしな。
「星海群島の浮遊島に迷宮核側から手を加えて、島々をいくつか経由して結界や封印を解除しないと更に奥の区画に進めない……というようにすれば更に防衛能力が上がりそうだね」
「それは良さそうね。この区画は隠密性の高い魔物が多いから、どうしても探索に時間がかかるし時間を稼ぐという点では相当有効なのではないかしら」
クラウディアが同意し、ティエーラとコルティエーラも静かに微笑んで頷く。
ティエーラ達の積み重ねてきた歴史を体現するような形で生まれた区画だし、管理者を守るという目的で活用できれば、言う事はないな。