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番外1663 森の奥で待つ者は

 何度かの襲撃や待ち伏せを退けつつ山側へと近付いていく。エレメントフェイクに関して言うなら、更に四大属性以外の物が出現していた。


「背後から蔦ね」


 クラウディアが言って影の茨で迫ってきた蔦をからめ取る。


 木属性型のフェイクは種子の弾丸を放ってくる。それを撃ち込んだ地面から蔦を成長させて動きを封じようとしてくるのが主な戦い方のようだ。

 種子弾自体の攻撃力は控えめではあるが、着弾後の状況まで注意しなければならない。それを木属性型も分かっているのか、敢えて狙いを精密にしないで大雑把にばら撒いて来るし、空中に浮かんでいない時は枝葉に紛れて木の瘤のような佇まいをしている。木属性型に関しては中々に厄介な性質だと言える。


 対処法としては本体を叩いてしまえばいいというもの。空中から離れては発芽した蔦による攻撃もできず、空中戦で本体を撃破すれば既に展開された蔦も無力化される事が分かっている。


「それ以上はさせません――!」


 グレイスが闘気の火花を散らしながら弾幕すら問答無用で突っ切り、双斧で断ち切れば――木属性型が四方八方にばら撒いていた蔦も一斉に力を失い、枯れていった。


「光属性型!」

「は対応するわ!」


 光弾を回避しつつシーラが発する警告に、イルムヒルトが応射する。

 光属性型は光弾を放ってくるタイプだが、索敵範囲と射程距離が他の属性よりかなり長い。光線ではなく光弾なので見てからの対処は可能だが、もっと開けた場所だと狙撃も厄介だろう。近寄った場合は閃光による目眩ましはしてくるが、光の刃等の近接攻撃手段は持っていないのも特徴だ。



 イルムヒルトは――満月の迷宮に出現するインビジブルリッパー素材から作られた、不可視の矢を放つ。この矢自体もアップデートされていて、刻印術式による隠蔽処理が施されている。相手の感知能力を阻害する効果で隠密性能が上がっているからな。

 寸分違わず光属性型を貫いていた。光属性型は遠距離に特化しているが……まあ射撃位置自体は光を発しているだけに目立つ。長射程に対応できるならば問題はない。


「水が来ます!」

「シェイドの情報だと近くに闇属性型がいる! 警戒しつつ、上空に退避!」


 アシュレイの警告に従い、みんなが跳躍する。

 一瞬遅れてあちこちの水たまりが一気に増水。地下水が噴出して結構な量の水が流れてくる。水深自体は大したことはないが、流れる水の行動を阻害する効果というのは馬鹿にならない。

 それらを空中に飛んで回避すれば、上空にも待ち構えている敵がいた。闇属性型だ。


 闇属性型は――光属性とは対照的に、近距離戦に特化している。

 遠距離攻撃はしてこないが自身の周囲に暗闇の空間を作り出し、位置を分かりにくくしてからの攻撃を得意としているようで。作り出す近接攻撃用の魔力刃も暗い色をしているので攻撃の軌道が分かりにくいのが特徴だ。


 と言っても、俺達の場合はマルレーンがいるので。シェイドが展開した闇の領域に干渉して剥ぎ取ってしまえるから、こちらも十分に対応可能だ。デュラハンも夜に属する精霊だから闇の領域はあまり問題にしていないようで、積極的に闇の中に突っ込んでいき、撃破して緑色の炎と共に飛び出してくる。


 シェイドやデュラハンも精霊としてより強力になっているしな。任せて欲しいというように蝙蝠型の翼を動かして力瘤を作るような仕草を見せるシェイドと、それを見て手にした首を縦に振るデュラハンである。


 闇属性のエレメントフェイクは星空に紛れるようにして降下して攻撃してくるが……同質の精霊に近い魔力だからか、シェイドやデュラハンも感知できるために数が少なければ問題にはなってはいない。


 森の調査は順調に進んでいる。敵の撃破と素材、使った矢の回収などをしつつ、少し高度を上げて順路を確認してみたが――。


「山の麓あたりに脱出用の石碑が見えるね。あれを目標にして動いていこうか」


 そう言うとみんなも頷いていた。魔石の確保に関しては一先ず必要な部分を確保して目標を達成しているし、今は調査が主軸になっている。

 気になるのは、麓前あたりに木々が開けて広場のようになっている部分が見受けられる事だ。あの辺でもしかすると纏まった数の敵と一戦あるかも知れないな。


「ただ石碑手前に広場のようになっている場所が見えるから、それなりの規模の敵と戦う事になる――かも知れない」


 そう付け加えると、みんなの表情が少し引き締まったものとなる。


「広場に到達する前に体力や魔力を回復させておくのが良さそうですね」

「そうだね。ポーションもあるし、近くまで行って斥候を出せば敵戦力も見えてくると思う。その時に作戦も立てられるかな」


 グレイスの言葉に答える。相手方の編成を見ればある程度こちらの出方も最適化できるだろう。


「そう言えば……石碑は存在しているようだけれど、転界石はここに来るまで一つも見ていないわね」

「深層の区画だし、通常の探索を受け入れるという事を想定してはいないのでしょう。石碑を使うにしても転界石を集めないといけないし、管理用の設備としての石碑だと思うわ」


 ステファニアが首を傾げると、クラウディアが解説してくれた。


「実際この区画を一般の冒険者に開放するのは無理だと思うからね。浮遊岩の性質もそうだし、敵の感知方法が複数ないと、色々と厳しいかな」


 エレメントフェイクは普通の生命体ではないので基本的に視認するか魔力感知でということになるし、擬態獣は獣の臭いや体温はあるがそれもシーラやイルムヒルトの感覚だからという部分はある。ライフディテクションの反応はあるが……魔力波長すら植物のものに近くなるように偽装しているからな。きちんと気を張っていないと見落とす恐れがある。通常の感覚頼りでは尚更だ。


 逆に……探索用ではなく、防衛用の区画として考えるなら特殊性が多いから結構強力な場所だと思う。満月の迷宮の大回廊から星球庭園、エンデウィルズまでの道程に挟まるように接続し直して一本道として活用する分には問題あるまい。


 そうした話をしてから移動を再開する。フェイク達を撃退した後なので、打ち合わせと休息も兼ねられたし丁度いい。


 そうして進んでいくと、広場の手前に何やら予想外の姿――人影が佇んでいるのが見えた。精霊に近い魔力波長……いや、高位の妖精、か?


 透き通った羽。緑色の長い髪。アルラウネが身に纏っているような植物的なドレス。それに……静かでありながらも大きな魔力……という印象だ。

 傍らには何体かのエレメントフェイクを従えていて。それが、彼女は何者であるかというのを如実に語っている。


「どうやら、新しく生まれた守護者のようですね」


 ティエーラが言う。その言葉が正しいというのを示すように、その人影はこちらの姿を認めると一礼してくる。


「ティエーラ様やコルティエーラ様、先代や代行の方々にはお初にお目にかかります。先程目覚めて、お越しになるのを待っておりました」


 そう、言葉を紡いだ。青く煌めく瞳が俺達を見据える。


「ティエーラ様にとっては……私にとってのヘルヴォルテに近い位置付け、なのかしらね」


 クラウディアが言う。新しい管理者を迎えて、迷宮側が構築した新しい守護者、というところか。精霊に対して妖精というのは……確かに相性としては良さそうにも思うが。


 ともあれ、区画の守護者でもあるようだし、エレメントフェイク達も攻撃を仕掛けてこないようにできるようだ。新しい守護者との対話というのは少し予想外ではあるが……話をしてみる事にしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転界石のない場所を防衛に転用するとはw
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 境界迷宮の最深部を守護する一区画。 その位置付けならは、高い難易度も納得です。 これからも封印物や守る物残す物が増えるでしょうし。 守護者「取り合えず、鰻ウ…
[良い点] 背後から葛ね 獣は恐怖と期待の混じった感情に困惑した
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