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番外1662 潜む森を行けば

 ヤシガニに似た魔物達もそれから程無くして討伐が完了した。

 氷による滑走やら鎧に射撃、近距離では氷のハサミまで使って対応してきて、擬態獣程ではないにしてもそれなりの機動力と装甲、攻撃能力や対応力を備えていたが、近場で戦闘を感知したヤシガニ達が水たまりから飛び出してきたようだからな。数自体はそれほど多くはないし、地面は普通なので、お陰でエレメントフェイクの時よりは対処しやすかった。


「自分達は無理せず相手の手札は引き出す形になっていたし、色々情報も集まった」

「訓練はしていたけれど、実戦は久々なのは確かではあるものね」


 と、ローズマリーは静かに頷いて答える。うん。魔力配分も余裕を持たせていたしな。

 ヤシガニ達が飛び出してきた水たまりも確認してみたが……やはり浮遊島には地下水脈があるようだ。こちらから入っていける程の隙間ではなかったから、魔光水脈のように潜っていくという選択肢はないようだな。

 ともあれ、伏流水付近は地下がどうなっているか分からないから、コルリス達の潜行も控えた方が良いだろう。


 そうした話をするとコルリスやアンバーも頷いていた。

 こちらは被害らしい被害もなかったので、マジックポーションを飲んだり魔道具に魔力を充填して補給を早めに行いつつ、倒した魔物達の剥ぎ取りなどを進めていく。


 擬態獣の素材は色々気になるところだが、今回の素材はまず魔石が目的となっている。

 最初の一体という事なら魔石抽出をして、2体目以降と遭遇したら剥ぎ取りを考えていく形になるな。


「っと、これは中々良いね。木属性を持っているかなとも思ったけれど、属性もなくて良質な魔石だと思う」


 想定している贈り物に使うには十分な魔石ではないだろうか。

 魔石抽出したので擬態獣の他の素材は確保できないが……既に射出された葉刃は一応回収しておいた。普通の葉っぱのようにも見えるが実際は鱗のような硬質の組織だ。葉脈のようなものまであるあたり、擬態能力の高さが伺える。

 縁がナイフのように鋭く、魔力を込める事で更に強度が上がる特性があるようだな。まあ、一応回収しておいて利用法があれば考えるという事で。


 同じようにヤシガニの方も魔石を抽出して確かめてみたが、こちらは水や氷に親和性のある魔石となった。


 確か……ヤシガニも食えるのだったか。ヤシガニそのものではなく、似た姿をした魔物ではあるが、甲殻類だから味には期待しても良さそうだ。ウィズに分析してもらったが毒はなさそうだし肉も食用に適しているという分析結果が返ってくる。

 ヤシガニは数もそれなりに確保できているし、食用の他にもその他素材用として使う余裕はあるだろう。


 というわけで丸ごと確保し、やはり発酵魔法で劣化しないようにしつつ後方に送る。


「やはり、これらの魔物も過去に存在していた者達、という事なのでしょうか」


 エレナが首を傾げると、後方からついてきているティエーラとコルティエーラは少し思案するような様子を見せた。ちなみに二人に関しては迷宮管理者としての立場でここにいるから、迷宮魔物達の攻撃対象にはならない。あくまで俺達の調査と訓練に付き添っているようなものだ。


「過去に似た性質や波長の魔物はいたと記憶していますが――どちらもここまでの力はなかったと思います」

「それらを元に更に種として成熟した場合、を迷宮が作った……のかも」


 と、二人が答えてくれる。


「種として分岐して有り得た可能性っていうところかな」


 そう言うとティエーラとコルティエーラは揃って納得したように頷いていた。

 過去に存在した種族の発展形という事になるか。中々に興味深い。


「私達にとっては……テオドール達がそうした可能性も乗り越えていってくれるのは喜ばしい事です」


 ティエーラがそう言って微笑むと、コルティエーラもこくんと頷いて宝珠を明滅させていた。


 精霊の力を模していたり、重力を感じさせる舞台であったり……それに絶滅種というだけでなく、擬態していたり地下水脈に潜んでいたり、生物的な強みを前に出してくるあたりもティエーラとコルティエーラらしい区画だと思う。


 ともあれ、俺達がこうした区画や魔物に対応できることがティエーラ達にとって喜ばしいというのなら、この調子で進んでいきたいところだ。


「擬態獣みたいなのもいたし、慎重に進んでいこう。区画の性質上、未知の魔物ばかりっていうのもはっきりしてきたし」


 ティエーラの言葉に笑って頷いてからみんなにもそう伝える。素材の回収や転送も終わって、改めて山を目指して進んでいく事となった。


 森を流れる伏流水自体が通路のようになっているから、枝分かれしながらも蛇行して、ちょっとした迷路のような構造だ。

 分岐点まで来たところで、バロールに隠蔽術式を施して直上に打ち上げ、山を目指して進める順路を探る。


 森は――蛍のような燐光を放つ虫もいれば美しい花も咲いていて、迷宮魔物が潜んでいる事を除けば綺麗なものだ。だからこそ油断できないという部分はあるが。


「あっちだね。しばらく道なりに進んでいけそうだ」


 右側の道を選び、索敵に集中しながら森を歩く。擬態獣も一度見ているから反応の違和感は分かる。


「次に擬態獣を見かけたら、俺が対応してみるよ。擬態獣の手札は見せてもらったし、待ち構えているっていうなら、対応方法も色々ある」

「ん。分かった」


 シーラが答えるとみんなも頷く。擬態しているからこそできる対応もある。手札もローズマリーに見せてもらったから、ここからは真っ向勝負をする必要もあるまい。





 通常、森を探索する上で厄介になるのは個体数の少ない擬態獣よりエレメントフェイクやヤシガニの方だろうと思われる。

 茂みや、水たまりに潜んだままでいて、こちらが通り過ぎてから挟撃や奇襲をしかけようと動かない者もいた。中々に狡猾というか厄介な動きを見せてくる。地形や自身の性質を利用して待ち構えているというのは炎熱城塞でもやられたな。


 幸い、どちらも探知自体はできるから対処は可能だ。通路での攻撃は散発的で数が少なく、奇襲による手傷が防げるのであればそれでいい。

 位置を把握した状態で先手を取って問答無用で叩き潰すなり、敢えて奇襲を受けてピエトロの分身達がシールドの魔道具で防ぎ、その後の反撃で刈り取るという方法で探索を進めていく。


「奇襲を基本にしているから、数が少なければ地力の差で押し切れるわね」

「そうだね。今のところは問題なく進めていける」


 ステファニアの言葉に頷きつつ、歩みを進めていく。


「いた……。擬態獣だ」


 前方の樹木に再びの擬態獣だ。先程みんなに伝えた通り、今度はこちらからの奇襲だ。ミラージュボディと隠蔽フィールドの併用で間合いを詰める。


 幻影の俺が間合いに踏み込んだ瞬間に。擬態獣が反応して枝葉の尾による斬撃を仕掛けてくるが――それは空振りに終わっていた。


 隠蔽フィールドを解いて無造作に間合いを詰めて、振り抜いた仕草のままで驚愕の表情を見せる擬態獣の、胴体――心臓のある部分を狙って螺旋衝撃波で撃ち抜く。


 擬態獣は身体をくの字に折り曲げて少し吹っ飛び、木立にぶつかって動かなくなった。


「流石ね」

「相手の戦闘能力云々っていうより、生態が擬態をするものだからね」


 どうしてもこちらが間合いを詰めるまでは動かないし、そこを逆にカウンターで狙われると弱いというのはある。


 種が割れていれば現時点では問題なさそうだ。では――引き続き山を目指して進んでいくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 境界公一行に製作者二柱同行で、やっと緊張度下げて進行可能な雰囲気。 調査でない目的の場合、パーティーの熟練度かなり高くないと進めないのでは? てお「管理者変更…
[良い点] ヤシガニには勿論獣が掟破りの椰子の実【中身無し】を投げつけヘイト溜めていた
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