番外1652 お礼の品作りに向けて
花畑から森林地帯へと。シリウス号は比較的ゆっくりとした速度で進んでいく。急ぎの旅でもないからな。子供達にも思い出を振り返りながら進んでもらえればというところだ。
森に点在するエルフや獣人達の集落から、シリウス号を見かけると手を振ってきたりと挨拶をしてくれる。光の点滅で挨拶を返しながら進めば、森に住まう面々は楽しそうにしていた。その反応を見ているみんなも喜んでいる。
「野営、楽しかったね……!」
景色や森の住民達の反応を見ながらも腕の中に抱いたフォロスに話しかけているユイである。どうやらユイは今回の旅でフォロスやブレスジェム達とも仲良くなったようだ。
アウリアやクレーネ、ナヴェルとトルビット、フォロス達と一緒にチェスやカードで遊んだ、と言っていたから、キャンプ中に交流していたのだろう。スライムがチェスやカード遊びに興じるというのも中々変わった光景ではあるが……フォロス達も寿命が長そうだし、お互いにとっていい友人になってくれそうな気がする。屈託も裏表もないユイは、初めて外の世界を見るフォロス達の友人としては打ってつけとも言えるから。
そんな風に話しかけられたフォロスは縦に弾むようにしてユイの言葉に応じて、ナヴェルとトルビットもうんうんと頷いている。
ほのぼのとしたやり取りであるが、旅の思い出を振り返っているのは子供達も同じなようで。訓練は年少の子には難しい部分もあったが、厳しいものではなかったから概ね楽しかったと受け取ってもらえているようだ。
まずは楽しんでもらわないとモチベーションもなくなってしまうからな。テスディロス達の事と言い、新たな知己が増えたことと言い、今回の旅で得られたものは結構多かったのではないだろうか。
そうこうしていると、スピカが艦橋に昼食を運んできてくれる。今度の昼食は船内での食事だ。
「貰った蜂蜜を使っても良い、という事でしたので、少し献立を変えて照り焼きにしてみました」
『蜂蜜を料理にも使ってみました。お口に合えば、幸いです』
とのことだ。スピカはまず艦橋担当で、ツェベルタは船内をゴーレム達と回って配膳に向かっている。
照り焼きチキンという事で、パリッとした皮に中はジューシーという仕上がりだ。米と味噌汁。付け合わせにサラダ。定食風の昼食だな。
『美味しい……!』
「うむ。これは美味じゃな!」
と、子供達とアウリア。かなり好評な様子で、みんなもパリッとした食感と照り焼きの味に喜んでいる様子であった。そんな反応にスピカとツェベルタも嬉しそうに頷いている。というか、風味も良いな。かなり良質な蜂蜜のようで……今後は継続して購入を検討したいところだ。
そうして……昼食を食べながらもハーピー達と出会った山岳地帯も通り過ぎて、ヴェルドガル側へと入っていく。
このままアウリアの故郷に向かい、クレーネを送ってから帰途につくというわけだ。ヴェルドガル側でも点在するエルフの集落からの挨拶に、光の点滅を返しながら森の上空を進んでいく。
やがて、シリウス号はアウリアの故郷に到着する。俺達が戻ってきたことに気付いて笑顔で迎えてくれる集落の住民達だ。
集落の近くにシリウス号を停泊させ、集落への挨拶と、クレーネの見送りに出ていく。
「姉さんと一緒に過ごせる時間がたっぷり取れて、楽しかったです」
「ふっふ」
クレーネの言葉に、アウリアが楽しそうに笑う。クレーネもアウリアと一緒に楽しそうに野営の準備や料理をしていたからな。満足してもらえたのなら良い事だ。
「それは何よりです。タームウィルズやフォレスタニアに足を運ぶ機会があれば、歓迎しますよ」
「はい。是非」
「アウリアの普段の暮らしや、過ごしている街も見てみたいですからね」
「職場もだね」
と、クレーネとアウリアの両親が顔を見合わせて笑うと、アウリアはうんうんと腕組みをしつつ頷いていた。
アウリアもまた、久しぶりの里帰りであったから少し名残惜しそうにしてはいたが家族や集落の人達と「また帰ってくるからの!」と元気に挨拶をして回っている。兎の獣人ともいつの間にか仲良くなっていて、親しげに言葉を交わしているのは人柄と言えるだろう。
「あまり湿っぽくならないのはギルド長らしいわね」
母さんはそんなアウリアの様子に仮面の下で柔らかい笑みを見せていた。
そんなわけでアウリアの故郷の人達から見送られ、再びシリウス号に乗り込んで移動していく。ヴェルドガル北東部の代官であるロタールにも無事帰還したという旨、しっかりと伝えてから帰る、というわけだ。
アウリアの故郷から少し森を移動し、リンズワース家のある森の中の町へ向かった。
ロタールにも俺達が帰ってきたと伝えると、無事を喜んでくれた。ドライフルーツもお菓子作りに使って好評だったと伝えておく。この辺はキャンプのお土産という事でロタールへのお返しとして残してある。
「おお。見た目にも華やかなものですな。このように甘味として活用する、というわけですか」
ロタールはトッピングにドライフルーツを使ったケーキを見ると笑顔になっていた。その言葉にスピカとツェベルタが一礼する。
「直前まで発酵魔法での管理と低温での保存をしていたので状態は良いですが、常温ではあまり長持ちはしないのでお気を付けください」
「分かりました。早めに頂くことにしましょう」
そうやってロタールに挨拶をし、ケーキを渡したら再度タームウィルズに向けて出発だ。子供達もロタールにありがとうございましたと声を揃えて挨拶をし、そうして再びシリウス号での移動を開始する。
もうヴェルドガル側に入っているという事もあって、孤児院の年少の子供達にはリラックスしている雰囲気が伺えるな。エインフェウス王国は友邦だしイグナード王も同行しているとはいえ、やはり国内か国外では心持ちも多少は違ってくるという事なのだろう。
迷宮村の子供達はもう迷宮外に出る事も慣れているのであまり気負った感はなく、氏族の子供達はその辺、元が流浪の暮らしでもあったためかほとんど気にしていないようではあるな。
ともあれ、和やかな雰囲気の中で森の風景を楽しみながらもシリウス号は進んでいく。後はタームウィルズまで向かうだけの気楽な旅だ。イルムヒルトがリュートを奏で、セラフィナと一緒に船内各所で子供達も合唱したりと、賑やかな雰囲気の中でタームウィルズに向かって移動していくのであった。
ゆったりとした飛行速度ではあったが、滞りなく船は進んでいく。帰路は順調で特に道中問題も起こらず……やがて遠くにセオレムの尖塔が見えてくる。
「セオレムも見えてきたね。もうすぐ到着するから下船の準備をしておいてね。忘れ物のないように」
と、伝声管を使って船内全域に伝えると、子供達も頷き下船の準備を始める。子供達には前に鞄も作ったから、それらに荷物を入れて嬉しそうに眺めていたりして、微笑ましい光景だな。鞄も大切に使ってもらえるのが伺えるので俺としても喜ばしい。
「いやあ。帰ってきたねえ」
「ふふ。コルネリウスとの新しい生活ですわね」
アルバートが言うと、コルネリウスを腕に抱いたオフィーリアも微笑む。明日からぼちぼち工房の仕事に戻っていくとのことではある。今日のところは親子水入らずでのんびりするそうだが、移動中も多少明日からの仕事の話を俺としていた。やはりというか、主にロゼッタとルシールへの礼に関する内容だな。これはアルバート達も関係のある事なので、グレイス達やオフィーリアも話に加わって楽しそうにしていた。
ロゼッタもルシールも……医術、治癒術といった仕事に関わるものを送れば喜ぶとは思うが、それはそれとして魔道具以外のものも感謝の気持ちとして送っても良いのではないかと、そういった話にもなっているな。