番外1648 キャンプの夜を
「私達もご相伴に預かって良いとは」
「場所を貸してもらっていますからね。イグナード陛下から大体の人数も聞いておりますし、親善の一環という事で」
「ありがとうございますの!」
エルフと獣人達の集落の人達にもおすそ分けだ。バターチキンカレーはゴーレム達が船内でも大鍋で作っていたので量的には問題ない。この場にいるヴェリーツィオや花畑で働いている面々はともかく、流石に集落の面々が全員で集合というわけにもいかない。大鍋の運搬はゴーレム達が行い、食べ終わったら回収すればいいというわけだ。
というわけで集落の人達にもカレーを渡して、みんなと共に夕食だ。ヴェリーツィオはみんなと一緒に食べる形ではあるが。
母さんやセラフィナが様子を見ていてくれていたオリヴィア達も天幕から外にやってきて、顔を見ながら賑やかなキャンプ風景である。目を覚ましていて、グレイス達の顔が見られて上機嫌な様子のオリヴィア達だ。
「それじゃあ、食事にしようか。今日はみんなも訓練お疲れ様! 後は食事をして、のんびり楽しく過ごそう」
「はーい!」
子供達から元気な声が返ってきたところで夕食だ。子供達が多いので乾杯はないが、そうしたやり取りの後にゴーレム楽団が楽しそうな音楽を奏でてキャンプの夜が始まる。
「これは美味しいですね……!」
「ん。辛さも控えめで人気が出そう」
「いい味だね。よくできてる」
バターチキンカレーを口にしたエレナやシーラがそんな風に言う。
バターのコクとまろやかな風味。各種スパイスの奥深い香りと味が合わさり、食欲をそそる。食材も良く煮込まれており、人参も口に入れると柔らかく崩れる。鶏肉もそれは同じで、皮を残して肉の部分が簡単に解れていくのが分かる。
うん。いい出来だ。班ごとに分かれて作ったがみんなに説明しながら作ったという事もあり、食材は同じだしレシピや過程にも大きな違いがないというのは確認している。他の班でも味は大きくそう変わらないだろう。
「おお……これも美味です」
「素晴らしい……」
俺の呪法による応用型五感リンクにより、ナヴェルやトルビット、フォロス達もカレーの味を楽しむ事ができる。ナヴェルやトルビットが天を仰ぎ、フォロス達が嬉しそうに弾んでいた。
「美味しいですの!」
と、ヴェリーツィオも明るい笑顔を見せている。
テスディロス達、アウリアやクレーネ、アルバートやオフィーリア、イグナード王達とみんなの食も進んでいるようで大変結構な事である。
スープはミネストローネ。サラダはコールスロー。どちらも子供にも食べやすいと思う。酸味があってさっぱりしているので、バターチキンカレーのマイルドな味わいと相性も良いだろう。
ミネストローネとコールスローはスピカとツェベルタが頑張ってくれたのでどちらも良い塩梅だ。トマトの酸味と玉ねぎの風味。小さく切ったベーコンの味と良く合っている。
コールスローはツナも入っていて子供達にも受けが良さそうだ。実際カレーやスープと一緒にコールスローも美味しい美味しいと喜ばれてみんな食が進んでいるようで。
「食後の甘味も用意していますので、少しだけ、お腹に余裕を残しておいてください」
「甘い物は別腹、という言葉もありますね、スピカ」
「確かに。あまり心配はいらない、かも知れませんね、ツェベルタ」
スピカとツェベルタがそう言うとみんなのテンションが上がっていた。そう。スープやサラダだけでなく、そうしたデザートの準備もしてくれていたのだ。というより、こっそりデザートを作成するのがスピカとツェベルタの秘密任務というわけである。
リンズワース家の当主、ロタールから貰ったお土産のドライフルーツも、早速デザートの材料として組み込んでいたりするからな。俺としても楽しみにしている。
デザートの事は伝えたが、子供達も育ちざかりだからな。食欲旺盛でカレーやスープのおかわりをしている者もいる。
武闘派、肉体派の面々は元々結構な量を食べたりするし、実際2杯目、3杯目とイグナード王やイングウェイ、テスディロスやゼルベルといった面々はおかわりを貰っていたりするな。
オルディアやリュドミラからおかわりを受け取って機嫌良さそうにしているイグナード王やゼルベルである。
「どうぞ、姉さん」
「おお。すまぬな!」
アウリアもクレーネにおかわりをよそってもらって上機嫌にそれを受け取っている。
発酵魔法も使えば少しぐらい時間が経っても傷んだりしないし、それぞれが多少のおかわりも可能なぐらいの量を、という見積もりで作ってもらっている。
『ああ……これは美味だ』
『初めて食べる料理ですが……これは良いですね。美味しいです』
水晶板による中継で集落側の様子も見せてもらったが、エルフや獣人達にも好評なようで何よりだ。
そうして賑やかで楽し気な雰囲気の中、夕食も進んでいく。食事が一段落したら少し間を置いてデザートだな。
お茶の準備も平行して進めていく。ゴーレム達が茶器を並べ、お湯を沸かす傍らで、スピカとツェベルタが配膳の準備を行う。
「わあ……」
と、子供達の感動したような声が上がる。
「ありがとう。綺麗なケーキだね」
「お口に合えば、良いのですが」
「気に入っていただけたら、嬉しく思います」
俺も笑って答えるとスピカとツェベルタがそう答える。
カートに乗せてシリウス号から運ばれてきたのは白い生クリームのかかったスタンダードなスポンジケーキではあるが……お土産にもらったドライフルーツをデコレーションのように使って、見た目にも華やかなものである。
みんなの見ている前で丁寧に切り分けて木皿に移し、各々に配っていく。お茶も淹れて、みんなに行き渡ったところでデザートの準備も完了だ。
「それじゃあ、いただこうか」
みんなも待ちきれないといった様子なので、そう言って早速ケーキを口に運んでみる。
ああ……。これは良いな。滑らかな生クリームとふわふわとしたスポンジの柔らかい食感、甘み。デコレーション役を担っているドライフルーツの風味と相まって、上品な味わいである。
「これは――美味しいわね」
「見た目も凝っていて良いものね」
ステファニアの言葉にクラウディアが静かに頷く。こうした反応にスピカとツェベルタも嬉しそうにしていた。そんな二人を見て微笑むグレイス達である。
こうした甘味はやはりお茶とも合うな。食後のデザートという事で満足感がかなりある。
食後は軽く片付けまで済ませてから、のんびりとキャンプの時間を満喫させてもらう。焚火を囲んでイルムヒルトの演奏に合わせ、みんなで歌を歌ったりして。
カードやチェスも持ってきているからな。子供達にもキャンプの夜を楽しく遊んで過ごしてもらえれば俺としても喜ばしい。ケーキは手間がかかってしまうし生ものだから、余分に作り置きという事はできないが、保存が利いて軽く摘まんだりできるお菓子なら他にいくらか用意もあるし、お茶や炭酸飲料を始めとした飲み物もあるからな。
そうやってみんながキャンプの夜を楽しそうに過ごす傍らで、俺達もオリヴィア達を腕に抱いてあやしたりして、平穏な時間を満喫させてもらう。
楽しそうにエーデルワイスをあやすエレナの姿に、ローズマリーは羽扇の向こうで微笑んでいる。俺もルフィナとアイオルトを腕に抱けば両頬を小さな手を伸ばして触れられたりして。こうした反応に思わず頬が緩んでしまうな。
アルバートやオフィーリアとコルネリウス。エスナトゥーラとルクレインも親子での時間を楽しんでいる様子であった。
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