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番外1647 焚火を囲んで

 行儀よく並んだ班の子供達が「よろしくお願いします!」と声を揃えて言って、俺から浄化の術式を受け、嬉しそうに班の仲間達と共に戻っていく。


「はいどうぞ」


 と、アシュレイも治癒術式を用いて手指に傷のある子供達を治療していた。治療が終わったら改めて浄化の術式をかければ安心だ。

 子供達がこうやって慕ってくれているというのは良い事ではあるかな。班ごとに纏めて浄化や治癒の術式をかけてもらうだけでもテンションを上げてくれるというのは微笑ましい事だが。


 一通り術式もかけ終わったところで早速料理に移っていく。


「では、始めましょうか」

「まずは米を炊くことと――それから食材を洗ってから皮を剥いて……種類ごとに手頃な大きさに切っていくところからですね」


 グレイスとアシュレイがそんな風に言いつつ、みんなの前で実際に料理をして手順を実演していく。

 スピカとツェベルタに関しては――現在はシリウス号の船内で別の作業中だ。


「子供達の、反応を見るのが楽しみですね、ツェベルタ」

「腕の見せ所です、スピカ」


 俺の提案を受けて、そんな風にやる気を見せて作業に移っていた二人である。


 ともあれ、そんなこともあって船外で料理の実演をするのはグレイス達だ。

 年少組が包丁を使って食材の皮を剥いたり切ったりを担当。年長組は食材を洗ったりという役割分担になる。逆の方が適正でスムーズだとは思うが、これは訓練だからな。


 迷宮村、孤児院、氏族共に料理は独り立ちのために必要なものだ。野外活動と違って日常の生活の中であるものだから、普段から教えていたりする。だから年長組は調理道具もしっかり扱えるというわけだ。

 ここで年少組に怪我をしない包丁の使い方を実践してもらうというわけだな。年長組も危なかったら指導に回ってくれるようだし、怪我をしないようにフォローに回りつつ進めていこう。


「こうやってお米を研いでいくの。研いだ後の水は――そうね。二回目からは汚れも落ちて綺麗だからこの樽に溜めていってね」


 ただ、米に関してはまだあまり出回っていない食材なので、ステファニアが米研ぎの実演をして見せる。研ぎ汁は洗浄や洗顔であるとか、色々利用できる。汲んできた水を無駄にするのも勿体ないしな。一回目の研ぎ汁はまあ、米の表面についている埃等も混ざっているので再利用しない方が無難だ。


 一回目の研ぎ汁に関しても捨てるより浄化してこちらも綺麗な水として再利用する。花畑の予定地なので土壌に影響は出ないようにしたいしな。


 そうした説明をすると子供達は素直に頷き、ヴェリーツィオもにこにことしていた。


「土壌にも気を遣ってくれるのは嬉しいですの」

「ここも花畑になる予定ですからね」


 ヴェリーツィオに笑って答える。

 そんなわけで、みんな仲良く並んで料理の実演である。マルレーンが笑顔で人参を切って見せると、子供達もそれに倣って同じように人参を切る。

 テスディロス達、アルバートやオフィーリア、イグナード王にアウリアとクレーネも。それぞれに料理を進めていく。同時に、子供達に分からない部分があったらアドバイスしてくれるという役回りも担ってくれた。


 とはいえ、カレー自体は香辛料のブレンドを除けばそう特殊な工程もない。カレー等作り方にバリエーションはあるし品質を追求すれば奥も深いけれど、それでもある程度の料理経験者にとって工程そのものは難しいものではない。年少組の子供達が丁寧に食材を切ったら年長の子供達が下拵えを進めてと、中々に順調だ。


 さてさて。今日用意した食材で作るのはバターチキンカレーである。

 何度かカレーは饗しているが、バターチキンをここにいる面々と一緒に、というのは初めてだしな。気に入ってもらえたら良いのだが。




 やがてカレー作りの工程も一通り進んでいく。食材の準備ができたら頃合いを見て各種スパイスも投入し、食材と合わせて炒めたり火を通してカレーのベースを作り、最後に弱火で煮込む……というわけだ。


 段々と炒める際の油の匂い、煮込まれるカレーや米の炊けてくる匂いが周囲に漂い始める。


「美味しそう……」

「お腹空いてきたよ……」


 子供達もお腹を鳴らしながらも、鍋と火を交代で見守っているという状態だ。


「しっかりと子供達を見ていてくれるから引率側としても安心して見ていられるわね」


 ローズマリーが羽扇の向こうで頷きながらそんな風に言う。視線の先には年少の子が鍋をゆっくりかき混ぜているという光景だ。


「そうだね。ティアーズや働き蜂達だけじゃなくて、精霊達も担当の子供と一緒に見守ってくれているから」


 そうした状況もあって、年少の子が見張り担当になっても料理の状態、火の扱い、共に安心である。


 火起こしや水汲み、薪集めに料理と、色々作業もしていたので段々日も傾いてくる。

 俺も……料理の出来上がる前に焚火台でキャンプファイアーの準備をしておいた。日が落ちたら点火して光源の確保ができるようにするわけだが、サラマンダーも点火を心待ちにしているのか、それとも料理に火を使っているからテンションが上がっているのか、焚火台の周囲で輪になって踊っているな。何やら謎の儀式っぽくなっているが……。


 そんな調子で時間も過ぎていき、良い頃合いになった。一旦竈の番をティアーズ達に替わってもらい、キャンプファイアーに点火をするという事でみんなが周囲に集まる。

 初夏でもエインフェウスはタームウィルズより結構北にあるからな。日が落ちるとまだ肌寒くなる日もあるとのことで。キャンプファイアーを少し遠巻きに囲んで食事にすれば丁度良いだろう。


「それじゃあ点火するよ。それなりに大きな火になるからあまり近付き過ぎないようにね」


 と、注意を伝えるとみんなや子供達、動物組もこくこく頷く。


 キャンプファイアーにウロボロスを掲げるようにして、マジックサークルを展開する。弾けるようにきらきらとした光が一旦散ってから、焚火台の中に舞い落ちるようにして吸い込まれていく。

 すると光に触れた部分から薪が一気に燃え上がって、周囲から歓声が上がった。まあ……キャンプファイアーは暖を取ったり料理に使ったりというより親睦の象徴としての意味合いが強いからな。こうした演出も悪くないだろう。


 キャンプファイアーに点火されるのを待っていたというように、近くに停泊しているシリウス号の甲板からスピカとツェベルタが顔を覗かせる。メダルゴーレム達と鍋を運んできたのだ。


 シリウス号の船内にて、スープやサラダといったカレー以外の献立を用意してくれていたというわけだ。用意したものは他にもあるが……まだここには持ってきていないな。


「そろそろ頃合いかな。食事にしようか」


 そう言うとグレイス達も頷く。


「ふふ。皆お待ちかねという様子だものね」

「ん。待ってた」


 クラウディアが子供達の期待に満ちた表情を見てくすくすと笑えば、シーラもそんな風に言って。マルレーンもにこにこしながらそんなやり取りに首肯する。


 米の方も……水の分量や時間、火加減も良く、どの班も特に失敗はしていないな。カレーの仕上がり具合も同様だ。細かい差異はあるが問題はなさそうに見える。班ごとに分かれ木皿にカレーライスを盛りつけ、スピカとツェベルタがあちこち回ってスープやサラダも人数分渡していく。


「よし……。それじゃみんなでキャンプファイアーの周囲に腰を落ち着けて食事といこうか」


 全員にカレーとスープ、サラダが行き渡ったのを見計らってそう言うと子供達から「はーい!」と元気の良い声が返ってくるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣はカレー用に野生のガゼルをマッスルドライバーでしとめラッコたちから強奪した貝も使い二種類も作るようだ
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >米の磨ぎ汁 戦闘「真っ先に浮かぶのが大根の下茹で。 逆にこれ以外の活用法がすぐに出ないのが困りもの」 しーら「鰤大根は子供に教える。絶対にだ」キリッ >バタ…
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