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番外1641 姉妹と共に

「私達も船内の案内を手伝うね……!」


 アウリア一家が向かう前に、明るい笑顔でクレーネ達に申し出るユイにアピラシアもこくんと頷く。


「おお。よろしく頼むぞ」

「ありがとうございます、ユイさん、アピラシアさん」


 アウリアとクレーネもそう応じて、一家は連れ立ってシリウス号へと向かっていった。


「皆さんも明日、明るくなってから船内見学というのを考えています。今からですと暗いし子供も多いので少し危ないですし」

「明るくなった後なら、空から周囲の遊覧も良いかも知れないわね」


 俺やクラウディアが言うと集落の面々も「おお……」と期待に満ちた表情になっていた。


 明日の移動距離は比較的短いので、出発時間は少し遅めでも大丈夫だしな。


 そうやって夜も更けていき、俺達もシリウス号に戻って船室にて一夜を明かす。アピラシアやティアーズ達の報告と中継では船内の子供達も床についたし、エルフの子供達もきちんと各々の家に帰ったようだ。

 うちの子供達も船室に備え付けたベビーベッドですやすやと寝息を立てていて……循環錬気も行ったが体調等に問題はなさそうだ。セラフィナがベビーベッドの端に腰かけて嬉しそうに微笑んで様子を見てくれているので夜間も安心感がある。


 というわけで俺達も風呂に入って寝台で横になりつつ、みんなと一緒に循環錬気を行いながら身体を休める。


「ん。森も綺麗だし住民も親切だし、良いところ」

「歌や演奏も好きな人が多かったものね」


 シーラの言葉に、イルムヒルトも宴席を思い出したのか楽しそうに笑う。一緒に楽器を演奏したり合唱したりと楽しんでいたからな。


「精霊達も元気で環境魔力が良いからね。エルフ達が住んでいるからこその良い環境なんだと思う」


 環境魔力が良いのもエルフと精霊の関係ありきのものだから……例えば他の種族が住みやすいように森を拓いたらまた話は変わってしまうだろう。


「その辺の性質に対しては……例えば本にして周知しておいた方が王国側とエルフ達、お互いにとって将来的にも良いかも知れないね」

「それは――いいお考えですね」


 アシュレイが明るい声で答えるとマルレーンもにこにこしながら首を縦に振って同意していた。

 良好な関係と環境の維持。治山治水のノウハウ蓄積に自然環境と資源の確保と、お互い良い事尽くめという気がする。精霊を経由して自然環境の異常をいち早く察知できたりもするしな。


 それに……他種族について調べ、色々と上手くいくように書物にして纏める、というのは実際良い案かも知れない。迷宮管理者代行としても領主としても、仕事に合致する内容ではあるしな。


 そんなことを考えながらも隣に身体を横たえるローズマリー、ステファニアと手を繋いで、循環錬気を行っていく。


「ん……。お風呂上がりだから心地良さが増すわね」


 そんなローズマリーの声。俺も少し笑って頷き、風呂上がりの柔らかい香りに包まれながらも目を閉じれば、循環錬気による温かさと共に眠気もやってきて。意識をそれに委ねれば、すぐに眠りに落ちていくのであった。




 そうして一夜が明けた。

 甲板の上は眺めがいい。高所から集落や周辺の森を見る事ができるので、そこでみんなで朝食を取るのはどうかと、昨晩の内に提案してみたところ、エルフ達も「それは嬉しいですな。是非」と喜んでくれた。


 朝食については――スピカとツェベルタが仕込んでくれているので後は甲板に椅子とテーブルを並べるか敷布を敷けばいつでもというところだ。


 氏族や迷宮村、孤児院とエルフ達とで子供も多いが、転落防止にアピラシアの働き蜂達が一人一人の担当についてくれるのでそこは安心である。


 昨日に引き続き、飲料用の水瓶を甲板まで土精霊が運んできてくれる。エルフ達が食器を並べて、朝食の準備を手伝ってくれるのも昨日と同様だ。


 アウリアも家族と共に談笑しながらやってきて、甲板で楽しそうに準備を手伝っていた。家族団欒の時間をたっぷりとれたようで何よりだ。


 やがて朝食の準備も終わり、朝霧に少し霞んだ森を眺めながらの食事となった。

 森の朝は街中では感じる事のない爽やかな空気だ。


 朝食はサンドイッチにオムレツ、ウインナーに野菜スープ。サラダ。ヨーグルトにフルーツを入れたデザートと朝らしいメニューだな。

 サンドイッチはツナやハム、鳥肉やチーズにレタス等を挟んで割とバリエーション豊かだ。


「ああ、これは美味しいな」


 野菜スープが良い塩梅だ。俺達は加護があるからいいが、初夏とはいえ朝の森は少し肌寒さを感じるぐらいの気温である。内側から温まるような身体に沁みる味というか。味付けも胡椒が利いていて、野菜の甘味を良い具合に引き出しているな。


「ありがとうございます」

「お気に召していただけて、嬉しく思います」


 俺がスープを口にして零した言葉に、スピカとツェベルタは微笑んで一礼する。昨晩の宴会での料理に引き続き、スピカとツェベルタの料理は好評であった。


 朝食が終わった後は少し休憩を挟んでから船内見学、そのまま周囲の空からの遊覧といった予定だ。


「これは、船内外にお互いの声を届かせるものなのよ。ね、ティール」


 ステファニアが子供達に楽しそうに説明すると、それを受けてティールが伝声管に一声鳴いてみせる。


「少しぐらいなら使っても大丈夫だよ」


 俺も笑って許可を出すとエルフの子供達も伝声管を使って船内外の他の場所を見て回っていた両親や友人に呼び掛け、楽しそうに伝声管を通してのやり取りをしていた。


 見学の後――遊覧しての空からの眺めも、エルフ達にとっては新鮮なものだったようだ。


「ああ……。空からの眺めは素晴らしいですね」

「森が綺麗ですな……。生まれ故郷の良さを再確認できたような気がしますぞ」


 樹上での行動も得意だから高所に慣れている分、高所からの眺めに感動するような声を漏らすエルフ達に、氏族の面々や風精霊達はその眺めが普通だからか、うんうんと頷いていたりして。中々に微笑ましい事である。


 船内見学も遊覧も、エルフ達に楽しんでもらえたようで何よりだ。

 そうした交流を経てから、予定通りエインフェウス側に向かって出発していく事となるが……クレーネももう少しアウリアと一緒に行動したいという事で、アウリアと一緒に野営に向かいたいと希望を申し出てきた。


「その……久しぶりに姉さんに会ったので名残惜しいな、と。食料等は不足のないようにしますので、野営に一緒に参加はできないでしょうか?」

「儂からもお願いしたい……というより儂から野営の参加を提案したのじゃがな」

「構いませんよ。食料や水も多少余裕を持たせていますから」


 笑って答えると、クレーネもアウリアと笑顔を向け合っていた。妹として大切に思っている、姉として慕っている、というのが伝わってくるな。

 年齢が逆転して見える第一印象と違って、こうやって話をしているときちんと姉妹らしく接しているというのが分かる。姉妹仲がかなり良いという事も。


 ともあれ野営の参加者が一人増えた形だな。帰りにもう一度アウリアの故郷に立ち寄ってクレーネを送っていく事になるが……まあ、それはみんなに無事に帰ってきたという事を伝える意味合いにもなるし丁度良いのではないだろうか。


「エルフ達同士で情勢が伝わり、交流も深まれば互いにとって安心でしょうしな」

「うむ。それも利点よな」


 イングウェイの言葉にイグナード王も頷く。野営地に選んだ近辺のエインフェウス側の集落にも挨拶をしていく予定だからな。その際アウリアとクレーネが同行していれば向こうとしても安心感があるだろう。


「では――道中お気を付けください」


 そうして集落のエルフ達から見送られて、俺達はエインフェウス側へ向かって出発するのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] エルフの集落はひとつではなかった訳ですね。 とてつもなく広い森林地帯なんだなと想像をかき立てられました。
[良い点] 畜ペンは猿叫の練習代わりにした、伝声管に出すのを 被害者は獣である
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >「明るくなった後なら、空から周囲の遊覧も良いかも知れないわね」 戦闘「すみません、宇宙(そら)と見間違えました。 実際宇宙に昇れますから。 『めぐりあい宇宙…
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