番外1639 森の里の宴
今回はゴーレム楽団も一緒にシリウス号に乗り込んでいる。集落の広場でイルムヒルトのリュートに合わせてゴーレム楽団が演奏を行えば、セラフィナが歌声を響かせて。
精霊達がそれに合わせて踊り……みんなやエルフ達も聴き入ったり一緒に踊ったりと、中々にお祭りのような雰囲気である。
精霊達が上機嫌で踊っているから雰囲気もそれに引っ張られるというか。竈の火の周囲でサラマンダーも輪になって踊っていたりして。
今はまだ野営しているわけではないが、さながらサラマンダー達がキャンプファイアーをしているようというか。
「うふふ。そうですね。スピカさんやツェベルタさんの言った通りの火の強さです」
クレーネが微笑むと、サラマンダー達もこくんと頷きながらも踊りを続ける。サラマンダー達も単に遊んでいるというだけではなく、火の強さを一定に保ってくれているのだ。
火加減を細やかにしなくても安心というか。エルフ達が火を使う場合はこうやってサラマンダー達に手伝ってもらう、というのはよくある事だそうだ。それはそれとしてサラマンダー達が楽しんでいるようではあるが。
「サラマンダーさん達が手伝って下さるのは助かりますね」
「燃やしている時の火加減もそうじゃが……火の維持や後始末をする際もうっかりという事がなくなるからの。残り火や強風で延焼するような事故も防げるのじゃ」
アシュレイが感心して声を上げると、アウリアが付け加えるように説明してくれた。
「料理や後始末だけでなく暖房でも心強そうな気がしますが」
「うむ。冬場は毎年世話になっておるぞ」
笑って言うと、こくんと首を縦に振るアウリアである。
エルフと精霊は普段から身近に接しているからな。精霊達もこうやってエルフに力を貸す事で自分の力を蓄えられるというのはある。
精霊に向けられる感情は信仰に限らず、友情や親愛、信頼といった想いは人それぞれだとは思うが……そうしたポジティブな感情を向け合う事で精霊術師も精霊も、お互いに成長していくというわけだ。
広場に敷布を敷いて、エルフ達と交流できるようにしているが――。同行している子供達とエルフの子供達同士でも一緒に歌を歌ったり談笑したりといった時間を過ごしているな。
「精霊とお話をしたり友達になれるのって、羨ましいなぁ」
「うん。俺達は幻術を重ねてもらわないと、どんな風にしているか見られないし」
「ハーフエルフの中には見えない子もいるけれど、ありがとうって伝えると精霊達も楽しくなって周囲の魔力の感じ方が違ってきたりするって聞いたよ」
「そうそう。慣れてくると見えなくても今の精霊さん達の気持ちや状態が分かったりするし、仲良くなればお願いを聞いてもらったりもしてもらえるらしいよ」
そんなエルフの子供達とのやり取りに、みんな精霊達と友達になれる、と喜んでいるようで。そうした反応に、精霊達もうんうんと目を閉じて首を縦に振ったりしているのが微笑ましい。ナヴェルやトルビット、フォロス達も興味深そうにそんなやり取りを見ているな。
エルフ達の暮らしそのものが精霊達と密接に関係している。俺達も精霊と関わる機会が多いし、氏族達やブレスジェムにもエルフ達の在り方や価値観を肌で感じてもらえたというのは、今後にとっても有意義なものになるだろう。
みんなと共にエルフや精霊達と、歌と演奏を聴きながら談笑したりと、賑やかな時間を過ごさせていると段々と日も暮れてきて――そろそろ宴を開こうという事になった。
土精霊達が広場に机や椅子を運んできたかと思えば、エルフ達もてきぱきと食器を用意したりして。スピカとツェベルタが大鍋の蓋を開ければ食欲をそそる香りが一気に辺りに広がった。
そうして、エルフの里での宴会が始まる。
メインディッシュはまず鹿肉のソテー。集落のエルフが狩ってきたものだが、是非宴会に使って欲しいという事だったので、それならばとタレは醤油ベースで作って集落と俺達との合作という形にさせてもらった。
海産物をふんだんに使ったシーフードパエリア。こちらも香りづけに使っている香辛料やハーブはエルフ達が栽培したり森から採取してきたもので、やはり合作と言えるだろう。
ややスパイシーながらも白身魚や貝、イカ、海老がしっかりと入っていて、海産物ならではの旨味をしっかりと引き出している仕上がりのはずだ。
オニオンスープにサイコロ状に切った自家製ベーコンを入れたもの。エルフの里で新鮮な山菜も提供してくれたのでこちらの持ち寄った野菜と合わせてサラダも用意している。
デザートという事でフルーツを混ぜたゼリーも用意したので楽しんでもらいたいところだ。
「集落で作っているお酒は度数も低くて口当たりも良いものですが……慣れていないと逆に深酒してしまいやすいですから、注意してあげていてください。私達も気を付けますので」
「それは――ありがとうございます」
クレーネの言葉にお礼を返す。
ドワーフの里だったりすると度数の高い火酒だったりするし、種族的に非常にアルコールに強いので子供でも飲酒して問題ないという話であるが。
まあ、今回の宴会に関しては子供達が多いので酒類は控えめだが、エルフ達も気遣ってくれているというのは有難い話ではあるかな。
宴会の最初に少しぐらいはという事で供されるが、その他の飲み物に果実フレーバーの炭酸飲料もあるし、普段飲んでいる茶だけでなく、エルフの里で飲まれているお茶もあるから色々と楽しめるだろう。
それに……深酒が進みすぎてもクリアブラッドの術式や魔道具があれば急性アルコール中毒も対応できるしな。
料理が並ぶとエルフの子供達もそれらに目を輝かせていた。料理が行き渡ったところで、アウリアに乾杯の音頭をとってもらう。
「ふっふ。折角の馳走が冷めてしまっては由々しき事態であるから手短に済ますがの。こうやって帰郷して皆で宴会をする事ができて、嬉しく思っておるよ。儂の友人同士がこうして仲良くしている光景も、実に嬉しい事だ」
そう言ってアウリアが笑みを見せると、周囲から温かい拍手が起こる。
それから杯を掲げると、みんなも倣って杯を掲げた。酒を飲むのにはまだ早い子供達は炭酸飲料だったりするが。
「では――我らの絆と前途を祝して!」
「我らの絆と前途を祝して!」
みんなでその言葉に続いて一息に杯を開ければ、ゴーレム楽団が賑やかな音楽を奏で出し、宴会が始まった。
エルフの作った酒は果実酒だな。クレーネが言っていたようにそれほど強くない酒だが、それだけに子供達が口にした場合についつい進みすぎてしまいそうな味ではある。
エルフの子供達は炭酸飲料を飲んで驚きの表情を見せているな。氏族の子供達もその反応に嬉しそうにしている様子であったから、一先ずは心配いらなさそうだ。
そんなわけで、俺も料理を楽しませてもらう事にした。呪法を利用してパスを作り、一時的な五感リンクを行う事でナヴェルやトルビットにも地上の料理を味わってもらう。
食事用の感覚器を使うやり方でも良いのだが、地底の民はそれで食事をエネルギー源に変換できるわけではないからな。呪法パスの安全性についても迷宮核でのシミュレーションも行っている。
「おお……これは」
「味覚という感覚は初めてですが……これは驚きですな」
「この心地よい風味。これが料理というものですか……!」
ナヴェル達は驚きの声を上げていた。
「ん。パエリアが良い出来。流石」
「ありがとうございます」
「腕によりをかけました」
シーフードパエリアを口にして頷くシーラと、その言葉に応じるスピカとツェベルタである。米を始めて食べるエルフ達も笑顔になっていたから海産物と米、共々気に入ってくれたようだ。
では、このまま宴会を楽しみつつ、エルフ達との交流を深めていくとしよう。