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番外1637 エルフ達の知恵

「クレーネと申します。姉さんからはいつもお世話になっているとお手紙で聞いていますよ。お会いできて嬉しいです」


 クレーネはそう言って微笑むとぺこりとお辞儀してくる。アウリアの両親も一緒に一礼と自己紹介をしてきた。

 アウリアの両親については――当然ながら二人ともクレーネよりも少し年上な印象があるな。父親の方は顎髭を整えていて貫禄があるが……それでもエルフは年齢差が出にくいので、兄弟姉妹と言われても納得できる程度ではある。

 母の方はアウリアとクレーネに似ているから余計に姉妹感があるというか。


「初めまして。僕もお会いできて嬉しく思っています。ギルド長から普段お世話になっているのは、こちらの方こそですね」

「遠路遥々ようこそいらっしゃいました」

「ゆっくりしていって下さい。精霊達も……とても喜んで歓迎しているようです」


 俺がそう答えると集落のエルフ達も微笑み、温かく歓迎してくれた。


「本当に。境界公はとても大きな精霊の加護を受けていらっしゃるようだ」


 目を細めるエルフ達である。ティエーラ達の加護もあるからな。

 同行している面々と集落の主だった者達とで、改めて挨拶をし合う。

 今日は一日ここで滞在して、明日改めてエインフェウス側に向かって出発していく予定となっているな。


「人数が多いですが、滞在自体はシリウス号もありますので。いきなりの訪問ではありますし、皆さんの負担にはならないようにしますね」

「ふうむ。子供も多いですし、その方が境界公殿としても安心ではありますか。私達としても歓迎したいので宴席は設けたいところですな」


 俺の言葉に集落の長は言った。


「では、互いの食材を持ち寄って料理を作り、夕食時に宴会というのはどうでしょう」

「おお、それは良いですな。是非」


 それならば食材の消費にしても抑えられるし、互いの料理を楽しむ事で交流にもなる。野営用に楽器類も持ち込んでいるので宴席もきっと盛り上がるだろう。

 というか、最初からこうするつもりでアウリアの故郷の規模に合わせた食材を用意してきているからな。いきなり訪問する以上は、というわけだ。


 というわけで滞在中の予定も決まりである。


「儂は皆と久しぶりに会ったし今晩は実家に泊まろうと思っておるよ」

「家族水入らずか。良い事だね」


 アルバートが言うと母さんや氏族の面々もうんうんと頷いたりしている。

 ともあれ、エルフ達と交流しながら夕食の準備を進めていくというのが良さそうだ。


「色々対応できるように食材を持ち込んでいますので、献立も合わせられますよ」

「では……備蓄を見て決めていきましょうか」


 食材を突き合わせて今晩の献立を決めるという事で、集落内部を案内してもらいつつ料理を進めていくという事で話も纏まる。


「では、差し支えなければ案内役は私が。貯蔵庫の管理にも関わっていますし」


 クレーネがにこにことしながら自身の胸のあたりに手をやって言う。集落の狩人も、狩ってきた獲物があるのでそれを使って欲しいと申し出てくれた。


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

「ありがとう……!」


 子供達が声を合わせたり、カルセドネ、シトリアやユイと、それぞれにお礼の言葉を口にしたりすると、クレーネ達も微笑ましそうにしながらこくんと頷く。


 というわけでクレーネはアウリアと共に楽しそうに集落内部を先導してくれた。

 集落の住民が集会にも使っている屋敷と、それに面した広場。村長の家やアウリアの生家。アウリアの生家はこじんまりとした綺麗な家で、童話に出てきそうな雰囲気がある。妖精に近しいと言われるような、アウリアが住んでいたと言われたら納得でもあるかな。


 集落内とその周囲には菜園や果樹園、花畑などもある。

 ここで採取できる果実や山菜、薬草類は街に持っていくと結構な値段もつくそうだ。エルフのいる場所には精霊達も沢山集まるし、精霊の動きが活発なら自然の恵みも質、量共に向上するからな。


 薬草を加工して軟膏や粉薬、丸薬も作ったりしているそうで。基本的には魔法薬の類ではなく、傷の治療と痛み止め、解熱剤等々、生活に役立つものが多いようだ。


「エルフの作る薬は薬効が高いと評判がいいわね。やはり素材が精霊達の力を多く受けているからかしら」


 ローズマリーもそう言って興味を示すと、クレーネが答える。


「私達も栽培されている植物の世話はします。精霊達が喜んでくれて、調和がとれるようにするぐらいで……私達にしてみるとずっと続けてきた事なので、それほど特別な事をしている感覚はないのですが」


 とのことだ。実際、精霊達はそうしたエルフ達との関わりもあって活発であったりするが。茅葺屋根の上に精霊達が座ってこちらに手を振ってきたり、建物の影から顔だけ覗かせていたりと、エルフの集落は精霊達も含めて賑やかで明るい雰囲気である。


 マルレーンからランタンを借りてそうした様子を可視化すると、子供達と共に精霊達も喜んでいた。子供達と手を振り合ったりして、盛り上がっている様子だ。そんな嬉しそうな光景にエルフの子供達も興味を示しているな。

 まだ案内の途中なので一緒に遊べるというわけではないが、滞在中にお互い仲良くなれそうな雰囲気ではある。


 年少の子供達はエルフの子供達が興味を示してきているのを見て、少しそわそわとしているのが見て取れる。それを見て微笑ましそうにしているのが大人達とザンドリウスやリュドミラといった年長の子供達だ。


 カルセドネやシトリア、ユイはそんな様子を見てにこにことしているな。精霊達も嬉しそうで環境魔力も良好だからか、オリヴィア達もグレイス達の腕の中で上機嫌だ。


 そんな和やかな雰囲気の中で集落を案内してもらう。エルフの集落、といってもそう特別なことはない。精霊が多いのは確かに人の村といった拠点との違いではあるが、基本的には長閑な村といった雰囲気である。


「まあ、エルフの集落と言っても王国の村々とそれほどは変わらぬであろう。これはヴェルドガル王国との歴史も長いから、相互に影響を受けている部分もある」


 アウリアが解説してくれる。どちらかというと精霊達の活発さと周囲の森が豊かな部分がエルフの集落ならではという気がするな。

 森の恵みを活用しての暮らしだし、完全に自然に任せているとエルフ達の言うところで「均衡が崩れる」こともあるそうで。森が平穏で資源も維持できるようにしているのがエルフ達の知恵であり、文化的な部分でもあるのだろう。


 この辺は治山治水、林業に絡んだ内容として、エルフ達からヴェルドガル王国に限らず齎された知識だとも聞いたことがある。

 そうしたエルフの知恵についても話が及ぶと、クレーネが笑って補足説明をしてくれる。


「その辺も私達の知恵というより、精霊達との関わりの結果ですね。調和や均衡が崩れないように様々な精霊の様子を見て森と接しますから。狩猟や採集、栽培に関しても同じですね」

「なるほど……」


 中々に興味深い話だ。精霊の均衡が保たれていれば環境も維持されるというのは道理ではある。その辺が崩れれば災害だって起こるだろう。それは自然や精霊にとっては当たり前の帰結だが、周囲に住む者にとっては文字通りの災難なのだから。

 それに……邪精霊が力をつけたりしたら、災厄と呼んで差し支えない被害だって出るし。普段から精霊の声を聞いて小さなことから積み重ねておけば安心ではあるな。


 そうして……俺達は案内を受けつつ集落を一周してきて、クレーネの管理している貯蔵庫へとやってきたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に。境界公にはとても大きなモグラが庇護を受けていらっしゃるようだ
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