表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2420/2811

番外1633 森を守る代官家

 艦橋や船内に、イルムヒルトの奏でるリュートの音色とグレイス達や母さん、セラフィナの歌声が流れる。艦橋や船内にオリヴィア達やコルネリウス、ルクレイン達と小さな子がいるので子守りの意味合いもあっての事だが、船外の風景やよく晴れた天候と相まって、長閑ながらも明るくて楽しい雰囲気だ。


 子供達も泣き出すようなことはなく、にこにこと笑顔を見せて、あやされるとキャッキャと声を上げて喜んでいる様子だな。


「いやはや、可愛らしいものじゃな」

「今日は特に機嫌が良いようね。遠出で普段と違うから少し心配していたのだけれど」


 アウリアがロメリアの髪を撫で、ローズマリーがアイオルトをあやしながらも微笑ましそうに目を細める。そんな光景にイグナード王も静かに頷いていた。


「ん。みんな一緒だから安心」


 シーラが言うと、マルレーンもにこにこしながら頷く。うむ。

 艦橋も船内も明るく和やかな雰囲気だ。こぼれても大丈夫な温度の飲み物や焼き菓子も楽しみつつ、音楽や景色を楽しませてもらう。


 船は景色をある程度眺められるような、ゆったりとした速度で進んでいる。北東へ向かう街道上空を進んでいる形だな。よく晴れた天気と空からの風景もあって良い旅になりそうな予感がするというか。


「ヴェルドガル王国の北東部は、どういった場所なのでしょうか?」


 エレナが尋ねると、アルバートが頷いて答える。


「森が広がっているしエルフも多いから、そんなに開拓は進んでいないね。というより、森を住環境として好んでいる民が多いから開拓を進めないっていうのが王国の方針でもあるけれど」

「タームウィルズに次いでエルフや獣人族が多い地域だね」


 と、俺からも補足説明を入れる。まあ、ヴェルドガル王国はどこの領地でも割と自由に暮らしているけれど。

 その中でも北東部はそういう気風が強いという事だ。


 この辺はエインフェウス王国と国境が近いという事もあって、国としてはあちらとの摩擦を減らす意味合いがあるし、住人としても暮らしやすいのだろう。

 エインフェウス王国は元々自主独立の気風が強かったから、ヴェルドガル王国側としても国交は限定的であったが……関係性を良好に保っておきたいという方針であったし、実際関係も悪くはないのだ。


 北東部がそうであるから、ブロデリック侯爵領あたりも獣人族、エルフ、ドワーフは比較的多かったりするな。特に、ブロデリック侯爵領は鉱山で有名なのでドワーフには人気があったりする。


 更に東に行けば……ベシュメルクやドラフデニア側に入ってきて、ドミニクの出身地――ハーピー達の集落のある地域になるか。このへんは高い山もあって国境が曖昧な土地であったりするが……今だと周辺国――つまりヴェルドガル、ベシュメルク、ドラフデニア、エインフェウス共々にハーピー達の治めている土地という扱いになっているな。海の民と同じで生活圏や利害がぶつかる事も少ないので、良好な関係が将来的にも続いていってくれると喜ばしい。


 大まかな地形図の幻影を出して解説をすると、艦橋にいるみんなも感心したように頷いていた。


「アウリア様の故郷も楽しみですわ」

「期待に沿えるかは分からぬが、皆気の良い者達じゃな」


 オフィーリアの言葉に、アウリアが楽しそうに答える。森自体も、エルフの集落が近くにあるという事で精霊の加護が強く、恵みも豊富だという話だ。

 ヴェルドガル王国、エインフェウス王国共に他民族に寛容な国風だから、北東部のエルフ達も結構開放的な気質をしているとのことであるし。


「とはいえ、いきなりシリウス号で向かうと驚かせてしまうやも知れぬ。故郷が近づいてきたら先行して事情を説明してくるとしよう」

「分かりました。基本的に道沿いに進んでいきますので、頃合いになったら教えて下さい」

「うむ」


 シリウス号も段々と森の深い方へと進んでいく。段々と平野部や開けた場所がなくなっていき、森の中に進むような道が増えてきた。

 街道や街はきちんと整備されているから、最初から森と共に開発を想定されている地方だと言える。街の周辺に植林されている場所と伐採中の場所が空から見るときちんと分かれていたりするな。森の維持と材木の確保といった森の管理もしっかりやっているのだろう。


「北東部の森林地帯を治めているリンズワース家は、エルフとの血縁もあって一族との付き合いも長くてな。当然ながら森の保全や管理、エルフの風習等にも造詣が深いというわけじゃな」


 アウリアが言う。北東部は王家の直轄地だ。歴代の代官を務めているリンズワース家についてはエルフ達を多く領地に抱えている分権限が大きく、王家ともエルフとも繋がりも強い。その分、中央の政治には関わらないという独自の立ち位置を築いている。


「現在の当主も祖母がエルフと聞いているね」

「そうですわね。エルフの特徴が結構出ていらっしゃるという話ですわ」


 アルバートとオフィーリアも頷く。なるほどな。

 ハーフエルフやクォーターはエルフ程寿命が長いわけではないからな。老いは遅いが寿命自体は普通の地上人とそこまで極端には変わらず……およそ1.5倍から2倍ぐらいだそうな。


 リンズワース家もエルフ達側もバランスを考えているというのはあるそうで。エルフは森と独自の生活様式が守られているなら政治方針に口出しはしない。エルフが長命なため、血縁で外戚が多くなってしまうというのはその辺で調整しているわけだ。

 ハーフエルフの寿命もそこそこだしな。ずっと権力が移行しないという状況にはならないというのもあるが……その辺は月の民の血を引いていたり、循環錬気で老いが緩やかになったりしそうな俺達も先人として将来的に参考にすべき点ではある。


 リンズワース家の裁量が代官としては比較的大きいのも、そのあたりの線引きが守られているからこそではある。エインフェウス王国との国境に隣接しているということもあり、繊細な立ち回りと高いモラルを求められる部分もあるからこそ、という部分もあるが。

 こうした先人がいるから俺とグレイス、シーラやイルムヒルト。それにヘルフリート王子とカティアといった、貴族と異種族間の結婚も道筋がつきやすいというのもある。勿論、月女神の教義も下地として大きいのだが。


「リンズワース家にはメルヴィン陛下が連絡をして下さっていますから、アウリアさんの故郷へ進む前に挨拶をしていく予定です」

「うむ。久しぶりじゃから楽しみじゃな」

「立場上距離を置くように気を付けてはいるが、面識もある。挨拶していけるのは喜ばしい事だ」


 俺の言葉にアウリアが言うと、イグナード王も相好を崩して答える。

 リンズワース家としてはイグナード王と、というよりはエインフェウスとの関係に気を遣う必要があるからな。国境も接しているし、エルフも国境を跨いで二国間で部族間に血縁があったりなかったりするので、舵取りは結構大変というか気苦労も多そうだ。


 その辺については次代の獣王継承を目指しているイングウェイも他人事ではないのか、顎に手をやって静かに頷いていた。イングウェイの修行は獣王を目指すという事で武芸のみに留まらないからな。書物も読んで色々と勉強している姿も目にしている。


 そうやって北東部に関連する話をしながら進んでいけば……やがて森の中にリンズワース家のある森の都が見えてくる。

 エインフェウスの王都とは違い森と一体化しているというわけではないが、周辺は豊かな自然に囲まれているな。森の中にある街は……家々が赤やオレンジ色の明るい色合いの屋根で、森の緑と相まって映えるというか。明るくて良い雰囲気の街並みだ。


 中央に見える建物が――代官の屋敷だな。では、まずはリンズワース家に挨拶をしていくとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 腹太鼓封印された獣はタップダンス&パーカッションと云う最新鋭の響きで注目をされようとしていたが、格好が不審過ぎて捕まった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ