番外1631 エルフ達の森は
『エインフェウス王国の南部か。その近辺ならば多少は知っておるぞ』
南部にエルフの集落があるという話も出たために通信機で連絡を取ってみると、アウリアからはそんな内容の返信があった。
アウリアは顔が広いからな。バハルザード王国の冒険者ギルドにも伝手があるぐらいだし。ヴェルドガル王国もエインフェウス側に面する北東部の森林地帯にエルフが住んでいるから、その辺詳しいのではないかと聞いてみたのだが、やはり知っている場所であるとのことだ。
詳しく話を聞いてみたいと伝えると、アウリアもギルドの仕事が一段落したらフォレスタニアに向かうと伝えてきた。
暫くしてからアウリアがフォレスタニアの居城にやってくる。
「大空洞で騒動があったと聞いておったが、皆元気そうで何よりじゃな」
「戦いの際に、アウリアさん達の祈りも届いているのは感じられましたよ。ありがとうございました」
その言葉に笑って礼を伝えると、アウリアも嬉しそうな表情を見せる。
そのまま通信室に案内し、茶を飲みながら話をすることとなった。通信室は人が集まるということもあり、サロンや応接室を兼ねている。
中庭の様子も分かるし遊戯室、育児用の部屋や水回り等も近くに配置してある。子供の様子を見ながらも寛いで話をするのには色々と都合のいい造りになっていたりする。ティアーズ達も待機しているのでセキュリティ周りもばっちりだしな。
というわけで通信室にて、少し腰を落ち着けて話をする。お茶を飲みながらアウリアが話を聞かせてくれた。
「儂もヴェルドガル北東部に広がる森の出身じゃからな。故郷を出てからあちこち旅をしたものじゃが……エインフェウスと隣接する一帯には何度か足を運んでおる。やはりエルフ同士じゃから、訪問する先としてはお手軽じゃし、同郷の者との血縁関係もあったからのう」
アウリアは懐かしそうな表情で言う。
「なるほど。それなら訪問先として安心ですね」
「うむ。あの辺のエルフは獣人族との交流もあって外部に対しても寛容じゃし、気候も穏やかで良いところじゃぞ」
「滅多なことはなさそうですが……予定が合うのであればアウリアさんも同行するというのは如何でしょうか?」
もしかするとアウリアにとっては里帰りや旧交を温める事になるかも知れないし。そう思って提案してみると……アウリアは明るい笑顔で頷いた。
「おお。それは楽しそうじゃな。故郷の皆にも会えるやも知れん」
「アウリア様の故郷……見てみたいですね」
「ん。興味がある」
グレイスやシーラが言うとみんなも興味があるのかうんうんと首を縦に振る。
「暮らしていた頃は退屈に感じて外を見たくて旅に出たのじゃがな。まあ、良いところじゃよ」
そんな風に言うアウリアは目を細める。あちこち旅をしてタームウィルズの冒険者ギルドのギルド長に落ち着いたからこその結論だろうか。
エルフ達が暮らす集落なり里なりというのは、かなり時間の流れが緩やかに感じるものらしい。別の種族と一緒に暮らしているエインフェウスではそうでもないようだが。その辺は長命であるからこそだろう。
「ギルド長が故郷から出た経緯は興味があります」
母さんがそんな風に言う。母さんは冒険者時代にアウリアとも割と交流があったようだからな。
「うむ。当時は精霊術師としての修行を積んでおってな。先程言った通り、里でののんびりとした暮らしに少々退屈をしていたが……風の精霊達に外の世界の楽しさを伝えられて興味があったから、というのもあるな」
なるほど。アウリア自身のフレンドリーな性格もあるのだろうが……あまり変化のないエルフの里の中にあって、外の世界に興味を持ったのは風の精霊の影響か。風の精霊は自由な気質だし、確かにアウリアとは相性が良さそうだ。
風の精霊側が一緒に旅をしたいと考えても何ら不思議ではないというか。
「仲間達には心配されたものじゃが、結果的に見分を広められ、様々な精霊達とも契約を結ぶこともできた。外に出て良かったと思っておるよ」
「結果という話ならヴェルドガル王国や冒険者と、エルフの友好関係にも貢献しているものね」
「それは確かに」
ローズマリーが納得したように言ったので、俺も同意する。
アウリアはタームウィルズの冒険者ギルドの長として長年親しまれているし、国からも冒険者からも信頼が厚い。
ベリーネやヘザーの話では時々職場を抜け出して買い食いをしているという事もあるようだが……だとしても私腹を肥やすというような汚職はしないし、精霊を残しているので何か起これば抜け出していても戻ってくるらしい。
その上で精霊使いの力が必要ならば自ら現場に出たりするからな。少しぐらいの書類仕事の脱走はご愛敬というところか。
普段はその見た目からも名物ギルド長といった様子だが実際は信頼度が高いのだ。
同郷のエルフ達も、そんな風にアウリアが活躍しているから色々と安心して暮らせる面があるのではないだろうか。
「ふっふ。それは里の者達にも言われたことがあるのう。気兼ねなくギルド長としての仕事を続けられるよう、応援の言葉として言ってくれたところはあるとは思うのじゃが」
「同郷の方に応援されているというのは嬉しい事ですね」
エレナがにっこりと笑うと、マルレーンも笑顔でこくこくと頷く。
アウリアも同郷や旧知のエルフ達と会えるという事もあり同行希望という事で……ヘザーやベリーネを始めとしたギルド職員達にも連絡を取る。
「――というわけなのじゃが。少しばかり儂も里帰りと道案内をしたいと思っておってな」
『問題ないのでは、と思います。迷宮の状況や冒険者達も落ち着いていますから』
『そうですねぇ。いざとなれば境界公のお力で戻って来られるようですし、非常時でも問題はないかなと』
アウリアが尋ねると、中継映像の向こうでヘザーとベリーネはそんな風に答えて、他のギルド職員達も同意を示していた。
『まあ……今溜まっている書類等は出発までに片付けておいていただきたいところですが』
「うむっ。善処しよう」
笑顔を見せるアウリアの返答にギルド職員達も笑う。
『返答は頼りない感じがしますが、この様子なら大丈夫そうですね』
『やる気になりさえすれば仕事は結構早いですからね』
『普段からなら尚良いのですが』
「むう……」
と、ギルド職員達とアウリアがそんなやり取りをして、明るい笑い声が通信室に響いていた。
そんなわけでエルフ達との仲介役も兼ねてアウリアも同行する事も決定した。
イグナード王やオルディア達が教えてくれたエインフェウス南部の情報と併せて出発の日時に調整を加え、アウリアの里帰りの含めた予定を組んでいく。
「天幕や防寒具も私が領主だった時の備えがあるから問題ないわね」
ステファニアが笑みを見せる。そうだな。ステファニアが直轄領を持っていた頃の備品がフォレスタニアに持ち込まれているから野営にはそれを使わせてもらう。
天幕設営や野営時の子供達の学習や訓練にもなるから問題あるまい。大人数にも対応できるし、シリウス号もあるので備えは万全と言える。
後は食料品や医療品、魔道具といった物資の備えか。キャンプに向かう人員の人数、内訳と日程に合わせ、不足や不備のないようにしておきたいところだ。
当日の料理に関しては任せて欲しいとスピカとツェベルタが気合を入れていた。グレイスもそんな二人に「私も手伝います」と伝えると、スピカ達も「では、よろしくお願いします」と応じる。
氏族の子供達も一緒なので林間学校的な雰囲気もあるが……俺としても楽しみになってきたな。