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番外1629 アルバート達の平穏は

 アルバートと顔を合わせての話も少し間が空いた。水晶板や通信機でこちらの状況は把握しているが、アルバートに関してはオフィーリアやコルネリウスと共に過ごしてもらっているわけだし、あまりこっちに意識を向けさせてしまうのもどうかと、近況は報告しているが細かい部分の話はしていなかったからな。


「――そうしてワーム達と戦いながら、ルトガーさん達やバイロンを支援しているナヴェルさんと出会ったわけだね」


 崩落と救助に向かった先……地底で起こった事を順番に説明していくと、アルバートは感心したように頷いていた。オフィーリアとルシール、それにコルネリウスも水晶板の向こうに姿を見せているな。


「知られていない地底湖に新種の魔物か……。それだけでも結構な大発見だね」

「そうだね。ドルトエルム王国では既知の情報ではあったんだろうけれど」

「とはいえ、私達の生活圏からは外れておりますから。あまり研究等もされていないというのはあります」


 ナヴェルが教えてくれる。元々ドルトエルムの民が捕食目的で狙われるということもないので、補足説明のようなものは難しい、ということらしい。


 通称等はやはり慣例通りに発見した冒険者達に任される形となるな。冒険者達は地底に招待された際にそのあたりが気になったようで尋ねていたが、ドルトエルムとしては地上の決まり事や文化に干渉するのも違う、というスタンスのようで、俺達が地底を訪れていた時に少し話題に出ている。


「そもそも厳密な発見者という話をするなら私達の国でも今の時代の者ではありませんし」

「うむ。水を差すのも粋ではない。地上の呼び方と地底の呼び方は違っていて当然であるし尊重しあえばよかろう」


 ワームやら地底湖の魔物に対してはそんな風にナヴェルやドルトリウス王は答えていた。まあ、ドルトエルム王国に招待された冒険者達もそれならばという事で、正式名称にドルトエルム側の通称と地上側の呼称を一部取り入れるのが良いのではという事で最終的に決まっていた。尊重というのならそういう形が確かに一番良いな。

 まあ、冒険者達の通称は分かりやすさを重視しているから地底側の呼称を盛り込むのは難しそうな気もするが。


 そういった文化的なところにも話を膨らませつつ、地底での顛末を一つ一つ伝えていくと、アルバートは興味深そうに相槌を打ちながら聞き入っている様子だった。


「うん……。良かった。ブレスジェム達も氏族のみんなみたいにのんびり暮らせると良いね」


 そう言ってアルバートは微笑みつつ目を閉じて言うと、それを聞いたフォロス達もありがとうと言うように弾んでからお辞儀して応じる。ブレスジェム達を撫でたりと、感触を楽しみつつもコミュニケーションを取っているアルバートである。


「そんなわけで、今は長期的な交流で精神面での影響が出ないかを調べているところだね。短期的には今のところ問題が出ていないみたいだし」


 ドルトエルム王国との現状について話をしつつ、その際の工房の役回りについてもアルバートに伝える。実験結果が出るまでは工房としても地底絡みで忙しくなるという事はあるまい。耐熱、耐圧の魔道具にしても交流が本格化しなければまだ必要のないものだし、ドルトエルム王国側でも対策をしてくれているからな。


「というわけで、まだしばらくはゆっくり休めると思うよ」

「うん。ありがとう」


 俺の言葉にマルレーンやオフィーリアも微笑み、アルバートも頷く。

 今後の予定については大きく変わらずといったところだ。工房としてはジョサイア王子とフラヴィア嬢の結婚式、メルヴィン王の引退後の新居関連、ロゼッタとルシールへのお礼であるとか、そういった仕事に向けて動いていく事になるだろう。


「そっちは予定通りとして……ドルトエルム王国に絡んで魔道具を作るならどんなものが良いかは話しておく方が良いのかな。やっぱり色々地上とは違うみたいだし」


 アルバートはそんな風に話題を振ってくる。魔法技師としてその辺は気になるところなのだろう。


「まあ、装飾品はこっちとは少し違うかも知れないね。魔道具を作るにしても素材からして地上と同じ調子ではダメだろうし」


 最低限魔道具自体も高温、高圧に耐える素材でないといけないだろう。装備者本人が守られていても魔道具自体が耐地底環境の仕様になっていないと、ドルトエルムで保管する、という事ができなくなってしまう。

 熱に強い素材でも普通の金属は熱を溜め込むからな。触れた拍子に火傷してしまう危険だってある。魔道具も必ずずっと使用している、というわけではないからな。耐熱の効果があってもいざ使うという段になって触れられないほど高温になっていたら意味がないというか。

 だから……そうだな。火炎系や一部氷雪系、水棲系の魔物素材ならば理想的かも知れない。

 そういった内容を伝えると、アルバートは顎に手をやって納得したように頷く。


「なるほど。普通の素材だと機能はしても取り扱いに注意が必要になるか。道具の保管や管理もだけれど、場合によっては使用の際にも煩わしさがあるっていうのは面倒だもんね」

「そうだね。使えそうな素材は心当たりがあるから、訓練を兼ねて迷宮で確保してくるのはいいかもね。炎熱城塞や氷雪の森程の高難易度の区画じゃなくても確保できるから、将来的にドルトエルム王国訪問に絡んで素材の需要が増えたら、冒険者の新しい定番の依頼に繋がるかも知れないし」


 そうした安定的な需要というのは冒険者にとって結構助かるものなのだ。金銭的な面でもそうだが、同じ区画で継続的に同じ素材を集めればいいというのは……特定区画探索のスペシャリストになって安全マージンも取りやすくなる。特化させ過ぎれば他の場面での対応力は低くなってしまうが、生活の糧として割り切る者も中にはいる。


 これがBFOなら特定素材獲得マラソンのために一時的に特化した装備にしたりするプレイヤーも多いのだが……現実でとなると中々そこまでやるのは難しいところもある。


 ともあれ地上の民が使う魔道具だけでなく、ドルトエルム王国の装飾品の様式を模倣すれば地底の民が地上に出てきた際の魔道具も用意できるだろう。アルバートは興味深そうに頷きながら俺と工房の仕事について話をするのであった。


 と……そんな調子でアルバートと工房の仕事や今後の予定について話し合ったりした。


『ふふ。アルが楽しそうで何よりですわ』

「仕事を離れていたからかな。こういう打ち合わせも久しぶりだからね」


 水晶板の向こうでコルネリウスを腕に抱いて微笑むオフィーリアの言葉に、穏やかに笑って応じるアルバートである。


「オフィーリア様やコルネリウス様もお元気そうで安心しました」

「やはり故郷での静養が良い効果を生んでいるのかしらね」


 アシュレイやステファニアが言えば、オフィーリアも頷く。


『それもありますがテオドール様の循環錬気や、ロゼッタ先生、ルシール先生のお陰でもありますわね。それにわたくしとしては故郷も良いのですがアルやコルネリウスと一緒に、皆様方とのんびりとお話をするのも楽しいですわ。これが日常になっていましたから』


 そんな風に言って微笑むオフィーリアである。コルネリウスもオフィーリアにあやされると水晶板越しに無邪気な笑い声を漏らして。こちらでもフロートポッドに乗った子供達がコルネリウスの笑い声につられるように、嬉しそうな声を響かせていた。

 うむ。アルバートとオフィーリア、それにコルネリウス。一家揃って元気そうで結構なことだ。そのまま雑談をしながらお茶を飲みつつ穏やかな時間が過ぎていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 硬質し肥大化した腹筋により未完成だった筋肉閃光を会得した獣は猪に披露して仕留めていた
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