表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2415/2811

番外1628 地底への帰還

 滞在中の幻影劇に関しては、ドルトエルムの面々からどれもかなり好評だった。

 アンゼルフ王の話についてはドルトエルム王国の地上に位置するから地理的にも興味を引くのはよくわかる。2部、3部に関してもアンゼルフ王の結婚も含めた周囲の人間模様もあったしな。

 そうした地上人の風習、心理というのも地底の民からするとかなり興味深いものであるというのは間違いない。


 初代獣王の話も大森林の様子であるとか地上の動物であるとか、ドルトエルムの民にとっては興味深い内容だろうしな。

 森の主と初代獣王の交流、関係性もかなり面白がっていた様子だ。


 草原の王ユウと聖王カイエンの話については――これは目新しさよりも二人の王の友情や絆の話でもある。ドルトエルムの皆もそうした価値観は大事にしていて共感できるものという事で、劇が終わった後もしばらく感じ入っていた様子だ。

 ラストシーンでの二人の再会にしても演出では終わらず冥府でも実際に再会していて……友情が変わらず続いているのを確認できたからな。俺としてもあのラストについてはそうなって欲しいという願いを込めてのものだったから嬉しく思っている。


「いやはや……どのお話も楽しませていただきました」

「全くです。お話も大変面白いものでしたし、地上の暮らしや色々な地方を見たいと思っておりましたから、北方や東国に触れる事ができて幸運と申しますか、ありがたい事です」

「物語の中に没入できるというのは確かに新鮮であったな。我も過去の偉大な王達の足跡に触れる事ができて、大変満足している」


 ナヴェルやトルビットの言葉に、目を細めて答えるドルトリウス王である。


「それは良かったです」


 笑って答えて、各国の現在と今の王との関係性等も話をしていく。レアンドル王が直系の子孫というのは知られているが、少し離れた国になるとドルトエルム王国もそこまで情報収集はしていないからな。ベシュメルクは近隣ではあったが秘密主義だったからあまり情報が出てこなかったようではある。


「――ですから、シュンカイ陛下やゲンライ老、レイメイさんは聖王の同門という事になりますね。エインフェウスの場合は獣王の継承が今も伝統として続いていますよ」


 月とシルヴァトリア、ハルバロニスの話やグロウフォニカのサンダリオ卿の話だとか……幻影劇の題材にしたいものは他にも色々あるのだけれど……一般に対しては秘密にしなければならない事や敢えて広めない方が良い事というのもあるからな。

 内容としては伝え残したい側面もあるのだが……身内で信頼関係を築いてから少数に話を伝えるという方が、当人達としても幻影劇にするよりも良いだろうし。


 ともあれ、幻影劇を気に入ってもらえたのは良い事だ。エイヴリルの話では不穏な兆候はなさそうとのことだし、長期的な影響もこのまま出ないで進んでいってくれると良いな。

 その他にも運動公園だとか冒険者ギルドだとか、地底にはなかった施設に案内したが、ドルトエルムの面々はあれこれと質問をしたり感心したように声を上げたり、終始楽しんでくれていたようだ。




 そうして――ドルトリウス王は数日間滞在した後でドルトエルム王国へと戻る事となった。


 みんなで転移港へと見送りに向かう。

 ナヴェルとトルビットに関しては予定通り、このままドルトエルム王国の大使とその護衛としてヴェルドガル王国に残る。フォロスも外の世界の事を学習して交流を深めるという事で、当分は外で過ごす事になるだろう。


 ナヴェル達への精神的な面での影響等も見ていくので、エイヴリル達のフォレスタニアへの訪問回数も増えるな。まあ、ずっとベシュメルクを留守にしているわけにもいかないという事もあって、一旦戻る形になるが。


 カルセドネとシトリアも……一緒に転移港に見送りに足を運んで、スティーヴン達に話しかけている。


「気を付けて帰ってね」

「次の訪問、待ってるから」

「ああ。そんなに日を置いたりはしないが、二人も元気でな」

「また会いましょう」


 そんな風に伝えるカルセドネとシトリアに、スティーヴンも頭を撫で、ユーフェミア達が軽く抱擁したりと、別れを惜しんでいる。


「ふふ。子供達が嬉しそうで、微笑ましい事です」

「本当に。平和になって良かった」


 ガブリエラがそれを見て表情を綻ばせれば、エレナも頷く。


「転移門での移動なので危険はないと思いますが、お身体に気を付けて」

「自由に旅行もできるようになりましたし……今度は私達からもドルトエルム王国を見に行きたいですね」


 そうしてスティーヴン達の挨拶も一段落したところで、ドルトリウス王達にも別れの挨拶をする。俺の言葉に続いて、ユーフェミアがそう伝える。


「うむ。いつでも歓迎しよう。安全性を高め、地上の民が安心して遊びに来られるように準備をして待っておるぞ」


 ドルトリウス王も嬉しそうに応じる。一般の交流はまだ先でも、もう地底の存在を知っている面々なら問題はないからな。精神的影響が出た時は出た時で、術式等の補助をしていく予定だし。


 と、そうしていると、転移港から人が現れる。フォブレスター侯爵領に通じる転移門だ。光に包まれて姿を見せたのはアルバートである。

 まだフォブレスター侯爵領に滞在を続ける予定のアルバートであるが、戻ってきたら工房でもドルトエルムに関連した仕事をする事になるだろうからな。


 精神的影響を抑えるための魔道具を作るかどうかは未定だが、高圧高温の地下環境への防備の魔道具はこちらからドルトエルム側に訪問する場合必要となる。その為にアルバートもドルトエルム王国に挨拶をしておきたいという事で、転移港での見送りに合わせて顔を見せた形だ。マルレーンが兄の登場ににこにこと微笑むとアルバートもにっこりと笑う。それからドルトリウス王達のところへ行って一礼する。


「お初にお目にかかります。アルバート=ヴェルドガルと申します」

「おお。アルバート殿。テオドール殿より話は聞き及んでいる」


 アルバートが挨拶と自己紹介をすると、ドルトリウス王達も笑顔で応じて握手を交わしていた。


「テオ君も久しぶり……って言うほどには間は空いていないけれど。ともかく無事で良かった」

「ん。ありがとう」


 と、俺も笑って応じる。アルバートとは工房でちょくちょく顔を合わせるから、その関係で日数が空くと久しぶりと感じてしまう部分はあるかな。


 ともあれアルバートとドルトエルムの面々も和やかな雰囲気の中で挨拶も完了といったところだ。


「今後もよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」


 ナヴェルが一礼すれば、アルバートも朗らかな笑顔で応じていた。そうした光景を見届けて、ドルトリウス王も静かに頷く。


「では――我らも戻るとしよう。地上の滞在は実に楽しかった」

「それは何よりです。またお会いしましょう」

「うむ」


 改めてドルトリウス王と握手を交わし――そうして護衛の面々達と共に転移門を用いてドルトエルムへと帰っていく。ガブリエラやスティーヴン達もベシュメルクへと移動する。光に包まれて姿が見えなくなったところで水晶板に視線を移すと、ドルトエルムとベシュメルクに、それぞれ姿を見せた。


 それを見届けたところで頷く。人が減って少し名残惜しいような、物寂しい空気にもなったが。気を取り直して少し迎賓館へ移動して話をする、という流れになった。アルバートとも顔を合わせたし、近況を聞いたり今後の予定についても話をしておきたいところだ。

 まあ、オフィーリアとコルネリウスの状況についてはロゼッタやルシールから母子共に元気であると聞いているから安心なのだけれど。


 というわけで、転移港の迎賓館にみんなで移動し、お茶を飲みながら話をする事となったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 幻影劇も史実に基づいたものだけでなく完全なフィクションをラインナップに増やせば面白いかも? ネタしだいでは、こちらの世界にもオタ文化が広まりそうな気はしますw
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >一般に対しては秘密にしなければならない事や敢えて広めない方が良い事というのもあるからな。 土竜は隠れて泣いている。 てお「内容を修正すれば、サンダリオ卿の話…
[良い点] 獣は獣王の系譜では無いのは当然だが、獣は耳を塞いで現実拒否した
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ