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番外1626 地底の民と植物園

 王城にてドルトリウス王とその護衛、ナヴェルとトルビットを交え、同盟各国による会談と歓待が行われた。まずは王城セオレムの一角にて腰を落ち着けての会談である。


 まずは、ドルトエルム王国同盟加入の承認からだ。これについては全会一致というか、好意的な意見が相次いでいた。


「ドルトエルム王国の民は善良な気質であるようですし、何より他の地に住まう民に好意的というのは良い事ですね」

「我らに及ばない領域を守り、独自の技術を持っている。何か異変があれば察知できる範囲が広がるし、お互い手の届かない場所を補い、助け合う事もできよう」


 オーレリア女王が静かに微笑むと、イグナード王も目を閉じながら頷くようにして同意する。

 そんな二人の言葉に、各国の面々も賛意を示し、同盟に是非迎えたいという事で結論が出された。まあ、この辺は元々既定路線というか、分かっていたことではある。


 ただ、ドルトエルム王国にとって正式な国交というのは初めての事でもあるから、ドルトリウス王達が幾分か緊張していた、というのは間違いないだろう。

 いきなり世界各国の面々との会談という形でもあるしな。だからこそ、好意的に迎えられて安心した部分もあるようで。


「こうしてドルトエルムの者達が温かく迎えてもらえることを嬉しく思う」


 ドルトリウス王が目を細めて言うと、メギアストラ女王も上機嫌そうに表情を綻ばせた。


「ふっふ。魔界と地底は成り立ちからしても親近感がある。これから先、末永くよろしく頼むぞ」

「こちらこそ」


 そう言って握手を交わすドルトリウス王とメギアストラ女王である。そんなやり取りにレアンドル王が目を細めて好ましそうにしている。

 そうして同盟への加入が確認されたところで、続いて国交や貿易等の話に移っていった。


「それらについてはまだ観測が終わっていないというのもあるな。ドルトエルム王国側としても現時点では貿易に本腰を入れられるという状況でもないとお見受けするが」

「うむ。長期的な影響も調べておけば、今後の交流も安全になる。少し迂遠な事ではあるが」


 レアンドル王が尋ねると、ドルトリウス王が応じる。


「同盟加入の一般への通知もそうだが、書面の取り交わしや実務での下準備、情報交換だけは進めておく、というのが良いのではないかな」


 グロウフォニカのデメトリオ王が言うと、居並ぶ面々も同意する。それに伴い、お互いの需要や供給可能な物品についての情報交換となるが、実際に動くのはまだ先という事で、話も気軽な雰囲気のものになっている。


「鉱物資源は豊富ではあるな。装飾品はともかく、武器や防具についての多くは魔道具扱いになるかと思うが――」


 ドルトリウス王が貿易品になりそうな物品について伝えると、各国の面々も同じように特産品に関する情報交換を行う。

 ドルトエルムの民としては次代の子孫達のためにも色々な素材は欲しいという話だ。様々な素材があると可能性が広がる、というのがドルトリウス王達の弁である。


「とはいえ、地底の高圧や高温に耐えるのが素材として使えるものの最低条件ではあるな」


 という事で、必要としている素材はそこで限定されてくるらしい。食料品などは必要がないので、ドルトエルムとの交易は独特なものになりそうではあるが……今まで脚光を浴びてこなかった物品が必要とされる可能性もある。悪い事ではあるまい。


 そうやって話し合いも一段落したところで、王城にて催し物を見せてもらう。ナヴェル、トルビットに見せた催し物は直近でも行っていたからな。

 温存していた別の動き、演出を織り交ぜたり、騎士団長のミルドレッドや宮廷魔術師のリカード老が試技を行ったりして。剣技や大魔法を発動させて各国の面々から喝采を浴びたりしていた。




 ドルトリウス王達のヴェルドガル王国滞在については料理が必要ない事を除けば各国の王達が集まった時のそれに準じる。

 街中の視察と見学。各種施設の訪問という事で火精温泉や植物園、境界劇場や幻影劇の鑑賞も、今まで同盟加入国が増えた時同様だ。


 火精温泉については、テフラの力が及んでいる温泉という事で、ドルトリウス王達にとってはかなり心地の良い場所であるようだ。

 地底の環境でマグマ溜まりに浸かっているのが日常風景だから、地上の温泉は湯に浸かって温まるような場所という感覚ではないのだろうけれど、それを差し引いても火山の精霊の属性、気配はかなり心地の良い物、という事である。


「さながら……この場所はドルトエルムのような雰囲気を感じるな」

「そうですね。落ち着くと言いますか馴染むと言いますか」


 温泉の大浴槽に身体を落ち着けながらそう言ったのはドルトリウス王とナヴェルだ。高温による魔力回復ではなく、環境魔力の相性の良さによる回復効果が見られる、とのことである。温泉でもプールでも居心地の良さは変わらないという事であるが。


 ブレスジェム達もそれは同じなようで、フォロスも湯に術で浮かんで漂ってくると、心地が良いと音を鳴らして伝えてくる。


「喜んでもらえて何よりです」


 そう笑って答えると、ドルトリウス王達も目を細めて首肯したりしていた。


 遊泳場でもトルビット達やブレスジェム達が軽く泳ぐというか、水に浮かんだりして……エルドレーネ女王やシュンカイ帝といった面々と交流していたりする。

 そこをエイヴリルが観測して、トルビット達の心理面の影響を見る、というのは今も継続して行っているな。

 劇場や植物園を訪れた時も同じようにエイヴリルが精神的影響を見ていく、というのは変わらない。特に幻影劇については地上人の風習を自身がその中にいるように没入して感じる事ができるし、過去の偉人の物語に触れる事になるからな。

 感情が揺り動かされる分、精神的な影響の有無を調べるには絶好の機会でもある。まあ……その分エイヴリルは幻影劇よりそちらに意識を割かねばならないが、当人としては幻影劇も何度かリピートしているので問題ない、とのことで。


「私としては観劇して感想を共有するみたいで、楽しいかも知れないわね」

「観終わったら実際そうした話もしてみたいところですね」


 王城での打ち合わせの際、そんな風に笑い合っていたエイヴリルとトルビットである。

 温泉でのんびりし終わった後に植物園にも足を運んだが、ここはやはり転移港の庭園での反応からしても、ドルトエルムの民にとってはかなり興味深い施設であったようだ。


 各地の植物が持ち込まれて育てられているからな。椰子の樹やバナナ等、南国の植物は本当に初見であるようで。


「南国は植生がかなり違うと聞いていましたが、面白いものですな」


 トルビットが頷く。

 ドルトエルムの面々はフローリアや花妖精、ノーブルリーフ達とも仲良くなっているな。どうも土属性に親和性の高い者同士、魔力の波長が合うようで。にこにことしているフローリアの腕に抱かれて満足げなブレスジェムである。

 逆にブレスジェム達が自身の上に花妖精やノーブルリーフの鉢植えを乗せて浮遊したりといった光景も見られる。仲良くなっているのは良い事だな。うむ。


「地下水田とは面白い」


 稲作を行っている地下水田を見て、ドルトリウス王が感心したような声を上げる。


「地底でも環境構築さえすれば植物の栽培ができるかも知れませんね」

「うむ。ドルトエルム王国にとって未知数の分野ではあるが、可能だという事は記憶に留めておこう」


 俺の言葉に思案を巡らせながら答えるドルトリウス王である。ドルトエルムにとって植物の栽培環境を構築までする必要があるかは……まあ言葉通り未知数で分からない、というのが正直なところだろうな。植物栽培の目的は主に食用、薬用、建材、加工品、それに加えて鑑賞用といったところであるが、基本的にはその大半がドルトエルムの民に必要がないし、環境に不向きだったりするので。


 魔法薬や触媒として有用なものもあるので、それらをドルトエルムが必要とすればまた話も変わってくるが。ともあれそうした技術もあるというのは重要だ。


「もし必要ならば協力は惜しみませんよ」


 と、そんな風にフォルセトは笑って応じるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地底で通常の植物を育てるとなると環境を安定化させるために魔力を多く消費しそうですね。 観賞用となると贅沢品になりそうな予感がします。
[良い点] 温泉の大浴槽に身体を落ち着けながらそう言った二人にバーのグラス流し宛ら桶にポン酒入れたのを渡すシェイカー振ってる獣だった
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