番外1618 目覚めた感情と共に
迎えに行ったゲオルグ達と共に、ユーフェミア達やガブリエラがフォレスタニア城を訪問してくる。
「ふふっ、こんにちは」
「皆様無事に地底から戻って来られて、何よりです」
「ありがとうございます」
ユーフェミアやガブリエラが笑顔で再会の挨拶をしてくる。俺達もベシュメルクの面々を迎えて、笑顔で応じた。
「いらっしゃい」
「みんなで来てくれて嬉しい」
カルセドネとシトリアが揃ってユーフェミア達のところへ駆けていく。カルセドネ達の反応にユーフェミア達も表情を綻ばせているな。
「ふふ。カルセドネちゃんとシトリアちゃんも随分馴染んでいますね」
「良い事です」
ガブリエラとエレナが表情を緩めつつその光景を見ていたりする。ベシュメルクの面々を迎えて再びの自己紹介だ。
エレナとガブリエラは血縁ではないが姉妹のように似ている。この辺はベシュメルクの事情もあるので上澄みだけを伝えるならパルテニアラに仕える封印の巫女同士という事での紹介という形になる。同盟各国の上層部には魔界の事も伝えているという事もあり、今の状況を中継で見ているドルトエルムの面々にはこの辺の事は伝えられるが。
「――とまあ……二人に関しては込み入った事情もあるので対外的なところでは情報を伏せてもらえると助かる」
パルテニアラがそう伝えるが、当のエレナとガブリエラは二人してそうした紹介に微笑んで頷いている。ザナエルクの野心によって生じた経緯がどうであれ、今の肩書や状況を二人が誇らしく思っているという事や、ベシュメルクや魔界……それにフォレスタニアにとっても重要な立ち位置にいる、というのは間違いのない真実だからな。
『なるほど。承知した』
『しかし実際に姉妹のように仲がよろしくていらっしゃるご様子』
ドルトリウス王やナヴェルがそう言うと、二人は静かに笑う。
「そうですね。ガブリエラ様には良くして頂いています」
「ふふ、それは私の方こそですね」
そんなやり取りを交わす二人である。そんなやり取りにブレスジェム達も事情を聞いたからか、縦に弾んで喜んだりしている。
というわけで挨拶がてらエイヴリルがフォロスやブレスジェムと向かい合う。
「能力を使って見てみてもいいかしら?」
エイヴリルが尋ねると、フォロスを始めとしたブレスジェム達が頷く。「それじゃあ」と前置きしてブレスジェム達を見やるエイヴリル。
俺も体外循環錬気でエイヴリル側に影響がでないように安全装置の役割を担いながら能力を行使していく。
「エイヴリル自身は問題なさそうか?」
「ええ。大丈夫みたい」
スティーヴンが尋ねると、エイヴリルが微笑む。共感覚とテレパスの複合がエイヴリルの持つ特殊能力だ。
相手の感情の機微を色として感知したり、テレパス能力でそこに干渉したりといったことができる。
「こっちでも――異常はなさそうだ」
そう伝えるとスティーヴン達は安心したというように笑みを浮かべて頷いていた。
「不思議な色の分布をしているわ。夕焼けの空みたいに少しずつ色が変化していて……。全体で一繋がりになっているみたいだけれど、個々の感情もきちんと読み取れるわね。綺麗で純朴な印象で……見ていて心地が良いわ」
マルレーンのランタンも使って見え方を共有してくれるが……。淡い色が広がっており、個々に近付くとそれぞれの感情の色が濃く見える、といった具合だな。
個人個人としての感情と同時に種族としての感情のようなものを共有しているわけだ。淡い色が全体のもの。濃いものが個々人のものといった具合である。
グラデーションの色合いが綺麗なもので、エイヴリルが心地良いと言った理由も分かる気がする。エイヴリル曰く、明るい感情や優しさだとかそういった感情はやはり綺麗に見えるものらしい。解呪で感情も俺から学んだからか、人の感情に近い色であるというのも間違いないようで。
一先ずブレスジェム達にはエイヴリルの能力も通用するというのが分かったな。元々ユーフェミアとエイヴリルの訪問目的はドルトリウス王やナヴェル達……ドルトエルムの民の心理的な影響を調べる事ではあるが、ブレスジェム達の事を知る上でも役に立つと思うので、これはこれで貴重なデータが取れたと言えよう。
「ブレスジェム達の理解が深まるから助かるよ」
「それなら良かった。薄い色が広がっているというのは……全体に共有されて何となく気持ちが分かるとか、そういった感覚なのだと思うわ。私が能力を使って感覚を伝える場合も似た感じになるもの」
俺がそう言うと、エイヴリルが笑みを見せて解説してくれる。
「同族限定の感覚や情報の共有、というわけね」
ローズマリーの言葉に、ブレスジェム達も身体を曲げるようにして肯定の仕草を見せていた。
個々人の感情の方が色も濃いあたり、個体ごとに独立した性質が増しているわけだ。以前のドルトエルム王国との交戦記録や俺達との戦いの時を見る限りでは個々人の感情は薄かったようなので、これは解呪を経ての変化なのだろう。
そうやって中庭でブレスジェム達の状態を見たり、みんなで談笑したりしていると、王城セオレムから連絡が入った。
『使者としての任も円滑に進みました。ユーフェミア様やエイヴリル様がフォレスタニアにおいでという事であれば、合流してきてはどうかとメルヴィン陛下から提案されまして』
ナヴェルが嬉しそうに言う。国交の話も円満に進行中というわけだ。
ドルトリウス王の来訪に合わせて同盟各国との国交も、という話になるだろう。
『ナヴェル様とトルビット様は、私達がフォレスタニアまで送迎いたしますね』
メルセディアも一緒に水晶板に映って、そう言ってくれる。
「ありがとうございます。では――到着前に入口の塔に移動して、みんなと一緒にお待ちしていますね」
『はい。では後程』
というわけで王城の一角からナヴェル達と共にメルセディアが退出していった。ジョサイア王子が水晶板に顔を覗かせて笑顔でそれを見送る。
『というわけで、ドルトエルム王国との国交も正式に樹立される事になる。彼らの特性上、最初は行き来が制限されてのものになるが、精神的な影響の有無次第でその辺の制限を解除するまでの進行速度も変わってくるだろう』
ジョサイア王子が言う。ドルトエルムとの国交は事前に話をしていた予定通りに、というところだな。
「両国間の友好のために動けるのであれば光栄な事です」
『戦いから帰ってきたばかりなのだし、私に手伝える事があれば遠慮なく言って欲しい。テオドール公やアルバートにはゆっくりしてもらいたいところだからね』
「ありがとうございます、殿下」
一礼すると、ジョサイア王子も笑って応じる。アルバートも新婚旅行中だしな。精神的な影響を抑えるための魔道具が必要になった場合は工房の仕事も増えてしまうから。その辺サポートしてもらえるのは有難い話である。
そんなわけで通信を一旦切り上げてみんなと一緒にフォレスタニア入口の塔へと迎えに行く。街中の案内はナヴェル達にもしたいところであるし。
やがて光と共にメルセディア達、ナヴェルとトルビットがフォレスタニアに姿を見せる。
「おお。お待たせいたしました」
「いえ、僕達も先程到着したところですから」
中継映像で先んじて見ていたが、やはり自分の目で見ると違うという事で、ナヴェルとトルビットは塔の上から湖を見回して声を上げていた。
まず街中と城を案内し、休憩を挟んでからエイヴリルやユーフェミアの能力を活用しての検証という事で進めていきたいところだな。