番外1615 王達との対面
王城セオレムをゆっくりと眺めながらも、飛行船は造船所に向かって進んでいく。
王城もそうだが、タームウィルズが近付いてくると街並みや海も視界に入ってきて……そのどれもがドルトエルムの民にとっては見慣れないものだ。
俺達が地底に訪れた時とは反対の状態だな。
「ふふ。あれが海よ」
イルムヒルトが傍らのフロートポッドに寝かされているロメリアをあやしながらブレスジェム達に伝えると、ブレスジェム達も細かく弾んで応じる。テンションの高さが傍目からも見える印象だな。
『光が煌めいて――美しいものですね』
『うむ……。海も地底では望むべくもないものであるからな』
ナヴェルとドルトリウス王が言う。街中の人々も見える距離まで進むと、人々の営みやこちらに向かって手を振ってくる子供達の姿も見て取れる。街の子供達の様子はドルトエルムの面々から見ても微笑ましいようで、顔の部分に映る表情を綻ばせたり、目を細めたりといった反応を示していた。
飛行船は造船所に向かってゆっくりと進んで……やがて台座の上にゆっくりと下降していく。そのまま停泊させたところで、ブレスジェム達に伝える。
「到着だね。ようこそヴェルドガル王国王都、タームウィルズへ」
そう言うとモニターの向こうでフォロスもこくんと頷いて応じる。
さてさて。ではこの後はメルヴィン王やジョサイア王子と話をしてくるか。ブレスジェムを紹介しつつ今回の顛末を話している内にドラフデニア側からもレアンドル王、ドルトエルムの面々がこちらで合流できるようになるだろうし。
「それから、皆さんもフォレスタニアで休めるように手筈を整えてあります。旅の疲れを癒していって下さいね」
「それは有難いのう」
「久しぶりに酒でも酌み交わすか」
ゲンライ老が表情を綻ばせると、レイメイがそんな風に提案し、二人で揃ってにかっと笑っていた。楽しそうで結構なことだ。ドルトエルムでは流石に酒の用意は無かったしな。
「それじゃあ、みんなも先に戻ってのんびりしていて大丈夫だよ」
ブレスジェム達は紹介も兼ねて同行することになるが。俺の言葉を受けてローズマリーが頷く。
「子供達の事は任せて頂戴」
「うん。少しいってくる」
ローズマリーにそう答えるとみんなも頷く。
「ん。いってらっしゃい」
「お帰りをお待ちしていますね」
シーラやアシュレイがそんな風に言ってくれる。
では、飛行船から降りて王城に移動していくとしよう。
飛行船から降りると、王城からも騎士団の護衛と迎えが来ていた。メルセディアが「ご無事で何よりです」と一礼してくる。
「ありがとうございます」
礼を言うとメルセディアも笑顔を見せる。俺とみんなの護衛班に分かれて動くとのことだ。
テスディロス達を始め、コルリスやアンバー。アルファやアピラシア、マクスウェル達も、家までの護衛を一緒に行うと伝えてきてくれた。頼もしい事である。
そんなわけで各々馬車に乗り込んで移動していく。ブレスジェム達は車窓から街の様子を眺めているな。中継のためにシーカーも一緒に車窓に並んで外を見ているから、何やらほのぼのとした光景になっている。ブレスジェム達は自意識に目覚めたばかりで見るもの聞くもの全てが珍しいという状態だろうし、なんとなく電車に乗って窓の外を見ている子供達といったイメージだ。
『おお。これが地上の街の風景なのだな』
中継映像を見ているドルトリウス王やナヴェル達も感心したような声を漏らしている。空から見た時とはまた風景や雰囲気が違うから楽しんでもらえたら良いのだが。
そうして俺とブレスジェム達を乗せた馬車は王城に到着する。
メルヴィン王とジョサイア王子は迎賓館で俺達の到着を待ってくれていて、馬車から降りると笑顔で迎えてくれた。
「おお。テオドール。そなたも同行した者達も無事で何よりだ」
「地底での思わぬ事件には驚かされたが、私達は地底の民も歓迎すると伝えておこう」
「中継映像越しではあるが……ドルトエルム王国からの来訪と面会も楽しみにしている」
俺や同行してきたブレスジェム、それから水晶板越しにドルトリウス王、ナヴェルやトルビット、フォロスに、メルヴィン王とジョサイア王子がそう伝える。
俺と一緒にいるブレスジェム達が弾んで感謝の意を示すと、メルヴィン王達は表情を綻ばせていた。
『これは歓迎の言葉を嬉しく思う。我も直接顔を合わせて話をするのを楽しみにしている』
ドルトリウス王もそう答える。到着しての挨拶や自己紹介も済ませ、迎賓館に場所を移す。俺から今回の一件についての報告を行うためだ。
というわけで、お茶が行き渡ったところで今回の一件についての報告を行っていく。水晶板で情報共有しているとは言っても、二人もずっと水晶板に注視しているわけではなかっただろうしな。報告というのはやはり必要だ。
「――そうして、僕達はワームに襲われているルトガー卿と合流して共に戦い……これらを撃退しました。そこで初めてナヴェルさんと出会った形ですね」
救出作戦から話をしていく。その後、ナヴェルの身体の不調を取り除いたことであるとか、話をしてドルトエルムに向かったことと、順を追って続ける。
俺の見解や印象を交えての話は興味深いのか、メルヴィン王やジョサイア王子も時折質問をして、それに対する補足説明をしながら報告は進んでいった。
ブレスジェム達については未知数な部分は多いのだが、循環錬気や魔力資質から見ると危険な性質ではないだろうという見解についてははっきり伝えておく。
「フォロスやブレスジェム達は、解呪による変質によって精霊に近い種族に変じたというのは循環錬気によって確認しましたので間違いはないかと。あの場に満ちていた祈りの力も……大きな影響を与えているようですね」
そう言うと、ブレスジェム達もお辞儀をするように身体を変形させた。
「ブレスジェム達は可愛らしいものだね」
ジョサイア王子が表情を綻ばせて握手を求めると、ブレスジェム達も変形し丸い手を作って応じる。
「良い感触だと言われて気になっていたが……確かにそうだね」
と、笑うジョサイア王子である。メルヴィン王も頷いてブレスジェムを軽く撫でたりしているが。うん……。メルヴィン王もジョサイア王子もブレスジェム達に好意的な様子だな。
それに……こういうところはやはりメルヴィン王やジョサイア王子もステファニアやアルバートと似たようなところがあるというか。
「ドルトリウス陛下もブレスジェム達の受け入れを積極的に呼びかけて下さっているようではありますが、フォレスタニアで受け入れる――或いはブレスジェム達の体調を見て、地熱や適切な環境魔力が必要な場合は迷宮の一部区画で受け入れる、という案に関しては如何でしょうか?」
「うむ。それに関してはどちらの場合も問題ない。ドルトエルム王国の情勢や国交とも繋がる話ではあるが……こちらについては、ドルトリウス王やナヴェル殿達と顔を合わせてから話を進めるのがよかろうな」
では、ブレスジェム達の受け入れも決定という事になるな。許可が出たという事もあって、お礼を言うようにこの場にいるブレスジェム達とモニターの向こうのフォロス達がお辞儀をする。
さて。そうやって報告を進めていると、ドラフデニア王国側でも話が終わったようだ。
『転移門でそちらへ向かうとしよう』
「お待ちしています」
予定通りレアンドル王と共にナヴェル達もこちらにやってくる、というわけだ。転移港への迎えも既に手配済みとのことである。