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229 新しい体制

 マリーこと、変装したローズマリーと共に王城へ向かう。報告はローズマリーからするということだったが、俺が同席していないというわけにもいかないので。

 サロンでメルヴィン王と面会し、今回の顛末を話して聞かせる。


「……そうか。ヘルフリートがな」


 メルヴィン王は目を閉じて呟くように言う。


「とはいえ、この話は父上の賛同を得られねば意味のないものですが」


 ローズマリーの言葉に、メルヴィン王は頷くと俺に向き直る。


「テオドール。ローズマリーとそちは……それで良いのだな?」


 俺の目を見て尋ねてくる。それは念を押すというか覚悟を問う意図があるように感じられた。


「問題ありません。今までのことも、これからのことも引き受けます」


 メルヴィン王を見ながら、はっきり答えると、メルヴィン王は頷く。


「あい分かった。ローズマリーの今の状況は、元を問えば余の不明でもある。そなたに託したとはいえ、協力は惜しまぬ」

「ありがとうございます」


 俺が頭を下げるとメルヴィン王はふと笑みを浮かべ、弛緩した空気が流れた。


「それにしても。同じ相手に2人も王族を降嫁とは、前代未聞でしょうね」


 冗談めかしたローズマリーの言葉に、メルヴィン王は苦笑する。


「かも知れぬな。しかし功績に見合ったものではある。だが、歯に衣を着せずに言えばな、親としては安心した部分もあるのだ。そなたへの恩賞と見る者もいようが、余はそう考えてはおらぬぞ」


 まあ……王家とは元々親戚付き合いみたいなものだし。ローズマリーの降嫁に関しては色々な見方があるだろうが、実情とはまた別だ。メルヴィン王の言葉は確かに聞いた。それで十分だ。




 さて。婚約者が5人になって……夜眠る際のローテーションにしろ隣に廻ってくる間隔が割合空いてしまうようになった。

 そこで俺と彼女達の間で今後のことについて話し合いが行われ、取り決めというか新しい体制を決定。早速今日から実行に移すわけだ。


 グレイスの吸血反動解消と、アシュレイとクラウディアへの循環錬気は、しっかりと行わなければならない。婚約者は可能な限り平等にという部分もある。

 なので、家に帰ってきてから夕食後には和室で両隣に2人。入浴時に1人。それから就寝前に寝室で両隣を2人という形で、それぞれの場所で日替わりに1人ずつずれるようにローテーションすることで、1人1回は十分な時間を取れるようにするというわけだ。


 ローズマリーは初日なので今日は就寝時にということで、まず和室にてマルレーンとクラウディアの2人と一緒に触れ合う時間を取る。

 クラウディアが隣に寄り添い、マルレーンが俺に抱きかかえられる形。マルレーンは元々巫女見習い。相性の良い2人だ。マルレーンはなかなかにご機嫌である。


「ふふ……」


 クラウディアがマルレーンの髪を撫で、マルレーンがそれに笑みを返す。そうやって微笑み合う様子は見た目には仲の良い姉妹なのだろうが、こういう時のクラウディアは重ねた年月相応の表情を覗かせることがある。つまり……母さんと同じような笑みというか……。だから2人は姉妹というより母娘という印象があった。

 

 クラウディアの循環錬気にマルレーンも交え、3人で魔力を循環させる。2人の身体は小さく細く、体重を預けられても全然重くない。

 こちらを見たマルレーンが、何かに気付いたらしくクラウディアの袖をちょいちょいと引っ張る。


「ん? どうしたの、マルレーン」


 マルレーンの指す方向に目をやり、クラウディアは「ああ」と納得したような声を上げた。マルレーンの示したのは俺の耳のあたりのようで。

 マルレーンは立ち上がると、耳かき棒を持ってきた。


「んん。なるほど」

「そうね。それじゃあ一緒にしましょうか。テオドール、膝の上に頭を置いてくれるかしら?」


 マルレーンはクラウディアの言葉にこくこくと頷く。クラウディアは自分の膝をぽんぽんと叩く。勧められるままクラウディアの太腿に頭を乗せる。

 クラウディアに膝枕してもらって、ゆっくりと耳掃除をしてもらう。


「痛くない?」

「……大丈夫。丁度良い力加減で」


 クラウディアはマルレーンにも見せていたような落ち着いた笑みで丁寧に耳をかいてくれる。隣に寝転がったマルレーンは無邪気な笑みで、掃除した耳を更に綺麗にしようと、優しく息を吹きかけてくる。どうにもくすぐったくて仕方ない。


「ああ。思い出したわ」


 その光景を見ていたイルムヒルトが言う。


「ん、何を?」

「昔、クラウディア様に寝かしつけられたこともあったかなって。小さな頃の記憶って、とてもおぼろげなんだけれど」

「迷宮村の、小さな子供の世話もしたこともあるわね」


 そうか。まあ女神としての背景と言うか。クラウディアの微笑みが母さんのそれを連想させるのは、やはりそういうところに起因しているものなんだろうな。




 風呂の時間までゆっくりとマルレーンとクラウディアの2人と過ごした。

 そして入浴。順番に関しては俺からは口出ししていないが、まず、アシュレイと一緒にということになったようだ。


「失礼します」


 浴室に入ってきたアシュレイは……水着姿ではなく、白い衣服を身に着けていた。

 月神殿の巫女や神官達が精神修養の水行の時に用いる衣服だ。俺は神官用の。アシュレイは巫女用の修養服を着ている。

 温泉施設で用いる湯着の候補はないかと探していた時に、儀式場に詰めていた巫女が候補として提示してくれたものだ。パーティーメンバーの分だけ譲ってもらっているのである。


 形状を説明するなら巫女のほうは肩と背中を露出したワンピースというか。古代ギリシャの女性達が身に着けていた衣服に近い。あれは確か……キトンという名称だったかな? まあ……白くて清楚な印象のある服だ。アシュレイにはよく似合っていると思う。


 使い勝手が良ければそのまま採用になるはずだったが、やや裾の丈が長すぎて泳ぐのには不適ということで、湯着にするにはもう少し形状を工夫しなければいけなかった。

 温泉で販売する正式な湯着は、裾のすぼまったキュロットスカートのような形ということで注文している。今アシュレイが身に着けているのは神殿の巫女が使う衣服そのままである。


「では、お背中をお流ししますね」


 アシュレイはサボナツリーの石鹸を手ぬぐいで泡立てて、ゆっくりと背中を擦ってくれる。


「終わったら俺もアシュレイの背中を洗うよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、お願いしますね」


 俺もアシュレイにしてもらったのと同様にアシュレイの背中を手ぬぐいで洗う。


「それでその……身体を洗いますので」


 と、少し気恥ずかしそうにアシュレイが言う。


「じゃあ、その間に髪を洗って……それが終わったら湯船に浸かっているから」

「はい……」


 頬を赤らめてアシュレイが頷く。やはりサボナツリーの樹液から作られた洗髪剤で髪を洗い、身体もしっかり洗ってから湯船に浸かっていると、しばらくしてからアシュレイが湯船に入ってきた。


「お待たせしました」


 アシュレイが浴槽を歩いて、隣まで近付いてくる。

 ……巫女の修養服は白なので、水に濡れると色々刺激的な光景になってしまうのだが……まあ、そこは修養服というか。胸などの部位は布地が二重になっているらしく、それなりにしっかりと防御されている。

 それでも太腿などは布がぴったりと張り付いて衣服の下の肌色を見せているのだが……。うん。あまり考えるのはよそう。


「それじゃあ、こっちに」

「はい」


 アシュレイを胸に抱きよせて湯船の中で循環錬気を行う。心地良さそうに小さく吐息を漏らす。目を閉じると、肩に手を回して身体を預けてくる。

 彼女の濡れた髪に指を差し込み、軽く頬を撫でる。


「ん……」


 そのまま循環錬気を続けているとアシュレイは心地良さと風呂の温かさからか、寝息を立て始めてしまった。時間が取れるようにとぬるめの風呂にしているのでのぼせたりはしないだろうが、風呂で眠るのはあまり良くないと聞いたことがある。

 アシュレイも割と貴族の勉強や魔法の勉強ということで、夜遅くまで俺の暗号解読に付き合って自分の勉強を頑張っていたりすることがあるからな。訓練や迷宮探索もあるし疲れているのかも知れない。


「アシュレイ?」

「ん……あ、ごめんなさい。眠ってしまっていましたか?」


 小さく声をかけると、薄く眼を開ける。


「少し疲れているのかな」

「いえ……。テオドール様に循環錬気をしてもらっている時って、すごく安心できるんです。それで目を閉じていたら、うとうとしてしまって。小さかった時のことを思い出すと言いますか……」

「……そっか」


 アシュレイに向かって微笑みを返す。5人だから風呂は1人ずつとなったが……。うん。ゆっくり時間を使って循環錬気を行うことにしよう。




 アシュレイとの入浴を終えて風呂を出る。主寝室で眠るまでの間、それぞれの時間を過ごす。俺の場合は母さんの手記の解読を続けるわけだ。カードをするのもいいし、刺繍や勉強に時間を使ってもいい。俺の手が塞がっているが、思い思いに過ごせる時間でもある。


「……っと」


 軽く背伸びをしてから立ち上がる。


「お休みですか?」

「うん。そろそろ眠くなってきたかな」


 グレイスが尋ねてくる。眠るにあたり、今日両脇に着くのはグレイスとローズマリーとなるわけだ。

 寝台は6人で眠るためにさすがに手狭になってきている。なので木魔法を用いて更に大きなサイズに改造してあるので、みんなで横になっても余裕を持って眠れる仕様だ。


「んー。それじゃそろそろ私達も部屋に戻る」


 シーラが言う。クラウディア、イルムヒルト、セラフィナという面子でカードを楽しんでいたようだ。


「おやすみね、テオドール」


 と、セラフィナ。


「うん。おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 シーラ、イルムヒルト、セラフィナが部屋を出ていった。

 寝台に身体を横たえる。みんなも寝台に上がってきた。全員夜着姿というのは、なかなかこう、眼福だ。入浴後なので石鹸と洗髪剤の香りが鼻孔をくすぐる。

 アシュレイとクラウディアはマルレーンを挟んで横に。マルレーンはアシュレイ、クラウディアに囲まれて随分と嬉しそうだ。

 ……で、そうなると当然、グレイスとローズマリーが添い寝する形で横に来るわけだ。


「何というか、こう……。誰かと同衾というのはおかしな感じね……。反動解消と循環錬気のために始めたのだったかしら?」


 ネグリジェ姿のローズマリーはやや落ち着かない様子だ。


「まあ、そうだね」

「慣れると楽しいですよ」


 グレイスはくすくすと笑い、そっと頬を肩に寄せてくる。


「……そんなものかしらね」


 それを見たローズマリーも身体を寄せてきた。

 年上の2人だからというか……色々と刺激が強かったりする。ローズマリーはスタイルが良いのだが、グレイスもその……去年より大きくなっているんだよな。何がとは言わないが。

 そんな柔らかな感触を両側に感じながら消灯。循環錬気を始めると、隣のローズマリーが僅か身体を揺らした。心臓の鼓動が少しだけ速くなっているようだ。

 寝ている間に身じろぎしたローズマリーの手が、俺の手に触れる。僅かにローズマリーの身体が反応する。その手を軽く握ったが、ローズマリーはそれを振りほどかなかった。


 このままグレイスとローズマリーと。一緒に、眠るまで循環錬気を続けることにしよう。

 両側の温かさと柔らかさは意識すると眠れなくなるので、あまり考えないことにする。そう……。温泉だ。温泉のことを考えよう。

 ともかく。もう少しで全部の魔道具が揃って、温泉の整備も終わる。そうすればようやくお披露目である。挨拶の口上やら段取りをしっかり考えておかないとな。

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[気になる点] ローズマリーまで嫁にする必要ある?さすがに節操無さすぎに感じる。
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