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番外1611 地底王国の市場

 みんなで準備をしてから王城の外へと移動する。マグマクリケットに牽かれる大型の車はオープンタイプだ。何台かのクリケット車に分乗して街中を移動していくというわけだな。


 というわけでクリケット車に乗る。俺とレアンドル王、それにドルトリウス王は同じクリケット車だな。それから、グレイス達と子供達も。フォロスもブレスジェム代表という事で一緒のクリケット車だ。クリケット車自体に魔道具が組み込んであるという事で、ナヴェルやトルビットがその維持や警備に当たってくれる。


 ナヴェル自身は俺達のクリケット車に子供達がいるので、そこを中心に行動できるようにと、近くについてくれる。

 加護もあるので一時的に魔道具が切れても子供達は勿論、みんなも大丈夫ではあるが。


 カストルムやコルリス、アンバーといった面々は身体が大きいという事もあってクリケット車には乗れないが、トルビット達と連携して護衛役に回ってくれるとのことだ。


「では――よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「はい。お任せください」


 ナヴェルとトルビットが応じて、それぞれが乗り込んだところで移動していく事となった。地底の内部空間に高層の塔が立ち並んでいるのがドルトエルム王都の特徴だ。


 バイロンや冒険者達は地底の王都を直に見るのは勿論初めてなので、目の前の光景に目を瞬かせている様子であった。


 塔の高所と高所を繋ぐ橋もあちこちかかっていているな。そうした塔のあちこち、橋の欄干や沿道にドルトエルムの民が詰めかけている。

 俺達がクリケット車で大通りを進むと、あちこちから歓声が上がって、手を振ってくるのが見えた。


「おお――あれが地上の英雄殿達……」

「ドラフデニアの国王と、ヴェルドガル王国の大魔術師殿、それにベシュメルク王国や……遠方からも加勢に来てくださったそうですよ」

「それはまた。ドラフデニア王国とベシュメルク王国、ヴェルドガル王国は距離的にも近いですし、それらの国々と良い関係を築けるというのは喜ばしい事ですな」


 と、そんな声も聞こえてくる。そうだな。近隣諸国といい関係で交流が始まるというのは喜ばしい。見える範囲で皆一様に喜んでくれているのは間違いない。


「これはまた……すごい歓迎ぶりですね」

「地上との交流はまだ制限付きとはいえ、順を追って確認がなされれば解禁されていく形でもあるからな。地上の民との共闘やその結果は勿論、その事もあって皆相当喜んでいるようだ」


 俺の言葉に上機嫌な様子で答えるドルトリウス王。

 なるほどな。まだ念のために心理的な影響がないかについての追跡調査もしていくわけだが……その点で問題が見られなければ民間での交流も、という形になっていくだろう。影響がある場合でも封印術を使っていけば民間交流も可能だとは思うので、そこは協力していきたいところだ。


「ああして見えている高所の橋は、クリケット車でそのまま移動できるのです」

「それは眺めも相当なものであろうな」


 ナヴェルの言葉にレアンドル王も顎に手をやって笑顔を見せる。


「今から向かう場所でもありますね」


 トルビットが言う。その言葉通り、俺達を乗せたクリケット車の車列は塔の外周を螺旋状に登りながら高所へと移動していった。塔の外周を回りながらの移動なので、街の様子がどの方向も一望できる。俺達を乗せた車列が見える位置関係に来たところで住民達が大盛り上がりになって手を振ってきたりして。魔力で輝く石を手にしているものもいる。それを大きく振って歓迎の意を示しているな。


 俺としては何やらサイリウムを振っているように見えてしまう部分もあるのだが……地上で言えば家の前に手作りの飾りをつけたり花を飾ったり、といったような感覚かも知れない。


「あの光はなんでしょうか。時折振っている方を見かけますが」

「あれは幸運の石と呼ばれる石の輝きでな。歓迎やその者の無事を祈ったりといった……まあ我らにとっての縁起物といったところか。魔力を込めると光るというのもあって、色と強さ次第で照明に使われたりもしておるが」

「発色にムラがあると言いますか、照明には適さないものが、ああして縁起物になるわけですね」


 ペトラが尋ねると、ドルトリウス王とナヴェルが疑問に答えてくれる。なるほど。地下世界だけあって鉱物資源は豊富のようだしな。ムラというのは光らせている間に色合いが薄くなったり濃くなったりしてしまって一定にはならないもの、という事だろう。ぼんやりとしたりはっきりとした色合いになったり、変化がまちまちだ。


「確かに……。照明には向いていないという事ですが、その分色合いも様々で綺麗ですね」

「ん。色の種類も多くて、ブレスジェム達に似てる気もする」


 アシュレイがにこにこと微笑み、シーラが頷いてそう言うと、ブレスジェム達もその言葉が嬉しいのか、弾んで喜びを示す。子供達もまた幸運の石の輝きが気になるようで、クリケット車の上からその光が振られる方に視線を向けたりしているようだ。


 そうしている間にもクリケット車は進んでいく。


「私達が向かっているのは、地上で言えば市場のようなものですな。各々店を開いて様々な品を扱う場所となっております」

「それは面白そうだな」


 ナヴェルの言葉にゲンライが楽しそうに笑う。そうして到着したのは一本の塔の上層部だ。この内部に様々な店が入っているとのことで。


 内部に入ってみると、広々とした空間に様々な露天が並んでいた。外から見ていた印象ではデパートだったが、実際は店舗というよりは誰でも参加できるようにというコンセプトらしく、ナヴェルの言っていたように屋内市場というのが正しい。


 この辺りはドルトエルムの民にとって食料等の生活必需品が比較的少ないというのもあり、何かを売買するのが必須なわけではない、という事情もあるだろう。


 並んでいる店も、資材や武器防具に装飾品、書籍……ならぬ石板も扱っていたりして。地底の文化や生活にダイレクトに触れられる場所でもあるので中々興味深いな。色々と見て回っていくとしよう。




 地底の市場は思った通りというか、かなり面白い場所だった。魔法武器に魔法防具、採掘用の工具に様々な効果を持たせた装飾品も並んでいる。


 扱っている装飾品はどれも見事なものだ。物作りを生業としているドルトエルムの民は――それが自己表現の手段でもあるそうで、皆職人としてかなりの腕を持っている様子だ。地底で採掘できる宝石、金属類の加工、冶金技術も高いのが伺えるな。


「これは見事なものね」


 ローズマリーが頷く。店主達は俺達が姿を見せると少し恐縮していたが、地上の民にも興味があったようで、色々と話をしたがったりもして。


「地上人の皆様と今後交流することになるかも知れないという事情もありますので……それに合わせた品々を作ってみるのも良さそうですね」


 そんな風に言うのは装飾品を扱っている店の店主だ。

 そうだな。地上との交流という事になれば貿易の機会も増えるだろう。なのでこちらも髪飾り、イヤリングにネックレス、指輪に腕輪であるとか、そうした地上の装飾品の種類や一般的なサイズについて模型を作って解説すると、店主達は興味深そうに頷いていた。


 鎧兜や靴といった装備品もドルトエルムの技術で作ったものは品質が良さそうだ。そうした地上の民の装備品についても解説しつつ模型を作って説明をする。


「と言っても、僕達と共通した部分もありますので、あまり解説はいらないかも知れませんが」

「いやいや、そんなことはありませんぞ」

「左様。交易品として見るならばある程度用意できている方が買いやすいというのはあるでしょうし、地上の方々は私達ほど体格差がありませんからな」


 一般的な大きさや調整の仕方というのは有難いということらしい。ドルトエルムの民は人体に近い部分はあっても体格差や形状がまちまちなのでどうしても個々人に合わせた特注品が多くなるということらしいからな。


「そういう事でしたら、これらの模型はお譲りします」


 と、そんな風に言うと店主達はかなり喜んでいた。戦いのお礼も込めて俺達に一品ずつ好きなものを進呈するとのことで。これは役得だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地底の市場はオープンスペースになったショッピングモール的な感じでイメージしました。
[気になる点] ドラフデニア王国とベシュメルク王国、ヴェルドガル王国は距離的にも近いですし 地上と交流ないはずなのに詳しいな
[一言]  男「幸運の石、ですか。……なんだか持ってるとこう…腕を左右に大きく振って舞いたくなりま(首筋に軽い衝撃)ッ!?(気絶)」  てす「異国の地で珍妙な踊りを披露しようとするんじゃない」  て…
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