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番外1601 三段の魔法槍

 トンネルを進軍する忌むべきもの達は、道中で足止め役として配置されていた仲間と合流し、更に数を増しつつこちらに向かって進んでくる。

 程無くして忌むべきもの達はトンネルを抜けてくるだろう。


 俺とナヴェル、ドルトリウス王、それにパルテニアラという面々で発令所や外部と中継を繋ぎながら封印塔の制御中枢部に移動している。


 中枢部は封印塔の根本の部分だ。中央部を貫く柱の下部に、ぼんやりとした光を放つ翡翠のような質感の球体が嵌っている。これに触れて封印の制御を行うとのことだ。


 発令所は発令所で、各所に命令を下せるように放送用魔道具も用意している。発令所や制御中枢から直接状況を見て全体に状況を知らせたり指示を出せる状態だ。


 中枢に移動した俺達の役目はと言えば――ナヴェルは封印の制御。俺は結界の発動だ。結界発動は俺一人で問題ないが、契約相手と立会人が一緒にいることで更に効果を強化できる。


「敵の今の位置はこのあたり、でしょうか。上下よりも横に広がっていて……要塞から目視できるようになった途端に一気に展開してくると思われます」


 幻術で縮小した立体図を展開し、光の点でおおよその位置と規模を提示する。その規模を見て、ドルトリウス王は目を閉じる。


「攻めるのは危険であったな。通路内部で集合体の潜行と鉢合わせれば、こちらは敵の腹に呑まれてしまうのと変わらなんだ」

「そうですね。足止めを受けている間に忌むべきもの達も反応したでしょうから。まともに攻めたら最低でも通路から抜け出す手前でこちらの潜行を封じられた上で包囲されてしまった可能性もあるかと」


 シーカーで状況は把握していたから集合体が動きを見せれば気付いたろうが、その場合集合体に追われながらの戦闘……或いは包囲される前の強行突破が必要になっていただろう。厳しい状況に置かれながらの戦いになっていたことは間違いない。


 形成が悪ければ転送魔法陣の手札をそこで切って、向こうの警戒度を上げてしまったまま撤退という結果になってしまったかも知れない。シーカーを先に送り込んで慎重に状況を見ていたのは正解だったな。


 そうして状況の推移を見守っていたが……忌むべきもの達の侵攻と接近に伴い、中枢の制御部分の輝きが少しずつ増しているのが見て取れた。それに合わせ、断続的に魔力の波が放射される。最初はゆっくりだったのが段々と間隔も早くなって。

 自然の力に似ているが、波を受けると落ち着かないような感覚が広がる。警戒信号だと、直感的に分かる。


「接近に封印が反応するのですね」

「そうですね。警戒すべき状況が近づいていると知らせてくれます」


 ナヴェルが制御部にそっと触れると断続的に発せられていた警戒信号の波が小規模なものになる。落ち着かない感覚も消えて、単なる魔力の波といった雰囲気になった。落ち着かない状況で細かな作業はできないからだろうが、それでも波の間隔が短くなっているから接近が続いているのは分かる。

 この封印の技術は……便利だな。警戒対象が分かっていればという条件付きだが、応用が利きそうだ。


 要塞はすでに迎撃のための準備も終わり、緊張感と静けさが包んでいた。静けさと言っても、皆怖気づいているわけではなく、戦意を漲らせているが故といった印象だ。こちらの戦力を少なく見せるためでもある。

 外壁や防衛塔に配置された者達は油断なく魔法槍を構え、いつでも迎撃に移れるように備えているな。


 そうしている内に忌むべきもの達の位置を示す光点もどんどん近づいてきて――。


「来るぞ……! 総員備えよ!」


 ドルトリウス王が魔道具を通して各所に声を響かせる。

 要塞にいる全員が見守る中で、それは来た。トンネル周辺の壁面に、じわりとインクを零したかのような黒い染みが生じる。一つ、二つ。あちこちにぽつりぽつりと生まれた黒い染みはすぐに無数になってそれぞれが大きくなる。


 あっという間に壁面全体にコールタールを塗りたくったような有様になって。そこから翼竜や巨大トンボといった古代生物達が噴き上がるかのように飛び出し、中空に飛翔して渦を巻いた。


 変化はトンネル前の地面にも及んでいる。漆黒の沼のように変化したかと思うと、そこから潜行してきた魚竜や古代生物の群れが悠々と泳ぎ始める。


 トンネル周辺に巨大な穴が開いたかのようだ。大小様々な恐竜の群れが暗黒の壁面から勢いよく飛び出し、そのままトリケラトプスやパキケファロサウロスのような比較的大型の恐竜達が、大広間を突っ切るように要塞に向かって突進してくる。


 封印の境界にぶつかるその瞬間――恐竜達が、マジックシールドのような術式を展開する。封印とシールドがぶつかって、空間に青白い火花が散った。それに続くように小型の恐竜や古代生物達が突っ込んできて封印に取りつく。


 青白い光を放つ封印に黒い魔力のラインが走ろうとした、その瞬間に。


「今だ! 放て!」


 ドルトリウス王の号令一下、要塞外壁と左右の防衛塔から狙撃型魔法槍による光弾が一斉射された。

 対する忌むべきもの達は――大きな恐竜がシールドを大きく広げて受け止め、幾重にも爆裂が重なる。侵食する小型と、シールドを張り、巨体で侵食役を守る大型という役割分担だ。

 が、次の光弾が既に放たれている。次弾発射が速いのは射撃班が一つの持ち場に付き3人ついているからだ。初弾を撃った時には二人目が前に出て、十分練った威力の二発目を撃っている。三列目の射撃班も十分に練り上げて、二発目を放った者と交代するように前に出た。

 初弾と二弾目の焼き直しのように三発目の光弾が放たれる。その時にはすでに一人目の魔法槍のチャージも終わっていて――。


「これは――」


 俺としては所謂長篠の三段撃ちを連想してしまう光景であるが。ドルトエルム王国でも遠距離射撃のチャージの速度と威力の両面を補う戦法が考案されていたようだが、地球とルーンガルド間――しかも地底の他種族という違いがあって尚、同じような戦法が登場したというのには驚きと親近感を覚えてしまうな。


 雨あられと降り注ぐ光弾が全て直撃すれば、シールドごと盾役の恐竜を粉砕していただろう。それだけの威力と密度を持った一斉射撃。

 しかし忌むべきもの達も黙って見てはいない。飛行型の忌むべきもの達が即座に反応し、光弾の迎撃に移ったからだ。


 展開する術式の性質が、忌むべきもの達特有のそれではない。封印をすり抜けて飛来する光弾が、ドルトエルムの光弾を迎え撃つ。


 空中で二つの方向から飛来した光弾が、ぶつかり合って爆ぜる。無数の光の華が咲くように中空で爆裂音を響かせる。向こうの光弾は爆発に特化しているようだ。射程には劣るので流れ弾も要塞までは届かないようだが、ドルトエルム側の光弾を撃ち落とし、減衰させるのには向いている。


 こちらが狙撃しているのは盾役と侵食役なので狙いも分かりやすい。迎撃を受けてしまうのは仕方のない事だが――光弾の数も威力もドルトエルムの方が上だ。爆風を貫き、爆圧の余波を免れて、幾条かの光弾は盾役と侵食役に確実に降り注いでいる。


 そのために長距離射撃に特化した人員と魔法槍を揃えている。ナヴェルが見た前回の侵食からドルトリウス王達が考えた対策だ。この最前線にてこれを十全なレベルで行うには本来準備期間が足りなかったから更に後方まで戦線を下げる事が検討されていたが――転送魔法陣があれば間に合う。


 これで忌むべきもの達が退くような動きを見せた場合――結界で分断した上で追撃を仕掛けるのは有効だろう。

 とは言え……環境魔力を吸い上げてまで仕掛けてきたのだ。この程度の迎撃で撤退するなどとは思えないが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣も四股と腹太鼓とヴォイスのトリプルショックウェーブで迎撃している 最終手段は土竜面岩に隠された勇者にフェードインだ
[一言] トリケラトプスや石頭恐竜は攻城兵器として使うのかと思ったらタンクでしたw
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