番外1598 戦いの予感と共に
「では――シーカーは動きがあるまでこのままこの場所に残って、監視を続けていきたいと思います」
これからのシーカーの方針について俺が言うと一同頷いていた。
更に奥……反乱を起こした領主の本拠地であった場所も気になるところではあるが、そちらに続く道には忌むべきもの達も警戒をしていないのか配置をしていない。
それを見る限りでは……奥地からの更なる援軍が出てくるだとか状況に変化があるまでは後回しで良いだろう。
総力戦のつもりで忌むべきもの達が動いているならば、まだ奥地に残っているとしても戦況を有利に進められる。次の戦いで勝つ事ができれば、という前提での話ではあるが。
そうやって話しているところに通信が入った。
『ベシュメルクの安全にも関係しているからな。護衛の任務もあるから全員では向かう事はできないが、国内情勢は安定しているからな。都合をつけたので俺は合流しよう』
ベシュメルクからの通信で……そう言ってきたのはスティーヴンだ。イーリスやレドリック、エイヴリルやユーフェミアといった面々も一緒だな。ガブリエラと共に笑顔で挨拶をしてくる。
スティーヴン達の普段の任務というのは主にガブリエラやマルブランシュ侯爵の護衛ではあるな。その辺はユーフェミア達がしっかりついていれば安心ではある。
「スティーヴンが来てくれるのは心強いね」
そう応じると、カルセドネやシトリアもモニターの向こうでこくこくと頷いていた。
衝撃波を使うスティーヴンは多対一でも強いからな。人型のみしか確認されていないとはいえ、呪法生物のような存在を叩き込める忌むべきもの達に対しても心強い。
反面、エイヴリルやユーフェミアあたりはあまり忌むべきものには近付けない方が良いかも知れない。忌むべきもの達は精神構造や目的が通常の生き物とは異なるからだ。共感覚やテレパス系の能力者であるエイヴリル達に変な影響が出ても困る。
その辺のことを伝えると、ユーフェミア達は微笑みを見せていた。
『ふふ、心配してくれてありがとう』
『精神面での押し合いになった時は能力での後押しもあるけれど、未知の存在だものね』
そう言って頷きあう二人である。
『儂らも合流しよう。地下潜行を助ける宝貝もあるしのう』
『仙術が効果的であれば助けにもなれるからな』
そう言うのはホウ国の仙人、ゲンライ老とヒタカの鬼であるレイメイだ。地下潜行の魔道具は――ショウエン一味が保有していた宝貝だな。俺は自前で地下潜行可能だし、仙気を扱えなければ宝貝も使えないから、今死蔵しておくのは如何にももったいないとそんな風にゲンライは笑っていた。
更なる救援は有難い事だ。仙術や符術に精通した二人ならば近接戦闘しなくて済むのは勿論、本人がいないポイントを符術で守る事も出来る。
ともあれ相手に未知の部分が多いから白兵戦よりも遠距離戦できる面々主体でまず様子見というのが良い、というのは間違いない。少数精鋭であれば糧食や設備などの面でも大きな影響は出ないしな。
「ともあれ解析も進めていますし、人型が複数体確認されないのならあれの相手は僕がしたいと考えています。ナヴェルさんが撃ち込まれた術の性質から考えても、対抗術式を行使しながら近接戦闘に対応できないと、まともに戦うのは難しそうですから」
何より人型の忌むべきものは、ドルトエルムの民に対抗する手札を持っていて、特化している、というのが分かる。恐らく他の技術を持つ者が相対した方が対応しやすかろう。
「複数体いた場合は、私も抑えに加わりましょう。近接戦闘をせずとも足止めや遅延などでの対応はできると思います」
オズグリーヴがそう申し出てくれた。オズグリーヴが本気で防御に回る形なら……そう易々とは突破できまい。
「ああ。頼りにしている」
『私達も祈りで祝福を行うわ。まだ断言はできないけれど、呪法のような攻撃は防げるかもしれないわね』
クラウディアが言うと、マルレーンも真剣な表情でこくこくと頷く。
「人型への対処については忍びない事だが、我もまた当事国の王として戦いの場に立つと改めて伝えておこう。通常の忌むべきもの達に対しては我らも経験を積んでいる故にな」
ドルトリウス王は国王として戦場に出る決意を新たにしているな。この辺は最初からそのつもりのようだが、ディフェンスフィールド等も含め、各々の動きに柔軟性を持たせつつもみんなをしっかりと守れるようにしておきたいな。
「今回は未知数の部分が多いようですが……私達と忌むべきもの達との今までの戦い方の変遷についてもお伝えしてあります」
ナヴェルが言う。今までのドルトエルムと忌むべきもの達の戦いでは忌むべきもの達もしっかりと学習して戦い方を変えてきたと文献――石板の記録には残っていたからな。
今までは陣形であるとか戦法であるとか……そういった部分での変化であって、確認されていない新種の出現や封印の侵食まではなかったようだが。
ともあれ今までの対策の張り合いを参考にさせてもらうというのは理に適っているだろう。
「我がどんな戦い方をするといった情報は、王都でもまだ伝えておらなんだな。人が増えるのであれば、合流してからその辺も含めて改めて作戦について話し合いをしておきたい」
そうだな。合流する面々は現在、転移港からフォレスタニアへと移動中だ。糧食等は当人達も国元から持ってくるとのことである。住環境を整えるための魔道具は余分に用意してあるという事だから、その辺も問題はあるまい。
そうしていると、スティーヴンやゲンライ老、レイメイからも連絡が入った。
『到着した』
と、スティーヴン達が伝えてくる。
『ああ。転送をよろしく頼む』
「わかりました。では、魔法陣の中で待機していてください。転送はすぐにできますので」
では――合流して互いの紹介をしつつ更に作戦会議をしていくとしよう。
転送魔法陣による合流とその後の紹介については特に問題も起こらず、滞りなく進んだ。ベシュメルクや東国での出来事、出会いなどについて伝えていく。
「祖の系譜に連なるベシュメルクもですが……東国の妖怪や付喪神、それにホウ国の邪精霊については私達や忌むべきもの達の成りたちや在り方にも共通しそうな部分があって、興味深いお話ですね」
と、トルビットが新たに合流した面々の話を聞いて頷く。
「妖怪や付喪神は元々精霊に近い存在ですからね」
「西方の精霊達と妖怪が違うのは……妖怪は人の業に密接に繋がっているという点か。地底についても、古代呪法王国の営みを元としているというのならそこは共通しているのかもな」
レイメイが興味深そうに頷いていた。
邪精霊、悪魔と分類される存在も業というか、人に関わろうとする傾向があるな。
「呪法や危険な妖怪、邪精霊に近いという事は俺達の技術、知識も通用する部分がありそうだな」
「スティーヴン殿の能力や、儂らの扱う仙術や仙気が効果的だと良いのですがな」
スティーヴンの言葉にゲンライ老が頷く。
というわけで王都の訓練場にてそうしたように、各々の能力を少し見せた上で役割、作戦について話をしていく。こちらから攻めた場合とここで守りに回る場合、どちらにおいても対応できるように役割分担と作戦を決めていくわけだ。
ともあれ、敵方の増強を視野に入れた上で攻めに転じるならば、もう少しドルトエルム王国側の準備も必要になってしまう。
忌むべきもの達の配置を見ても決戦が近づいているのは間違いないので、ティアーズ達にモニター映像の監視をしてもらいつつ、しっかりと休息を挟んで対応できるようにしていくとしよう。