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番外1597 人を模した異形

 ナヴェルが見せてくれた資料では曰く――忌むべきもの達は決まった姿形を持たない。内側に内包する因子を発現させ、あたかも別の生き物かのように振る舞う。因子を発現させていない間は不定形であるらしい。


 忌むべきもの達の集合体から分離し、一度完全に何かの生き物の形を取った場合、再形成には多少の時間がかかるが、分離した個体を撃破しても一部は完全に滅ぼす事が出来ず、果実の残滓が液状化して大樹に戻ったように、本隊……或いは本体とも言うべき集合体と合流してしまうという。


「……資料にはない形態だな。集合体が忌むべきもの達を直接形成するのは知られているが……環境魔力を吸い上げている、か」

「攻めてこないからと、防備ばかり固めているのも問題がありそうですね」


 ドルトエルム側が想定していたよりも、戦力を急速に増強できる可能性が出てきた。こうして話をしている間にも果実が落ちて更なる忌むべきもの達が生じている。


『防備を固めていると強力になり、かといって攻めれば攻め手側が得てして不利になる……厄介なものだわ』


 ステファニアがかぶりを振る。そうだな。一般的には守る側が有利とされているし。軍勢を以って忌むべきもの達を攻めるなら、占拠されたトンネルを抜けていかなければならないが……向こうから攻めてくる動きを見せる公算が高い。


「そうだね。こっちから攻めなきゃならない状況も想定はしていたけれど……ただ、環境魔力を大量に消費している点を見るに、向こうから攻めてくるんじゃないかと思う。封印塔の対抗手段が作られた以上はドルトエルム王国が対応策を打ち出す前に攻め落とせるだけ攻め落としたいだろうからね」


 ともあれ、相手が想定以上の短期間での戦力増強ができることが分かったからには、それを前提とした対策を考える必要がある。


 巨木以外の部分に目を向ければ……封印塔破壊の影響で崩れた要塞のあちこちに忌むべきもの達がいるのが見て取れる。地面を海に見立てたかのように潜行する海竜。崩れた外壁の上に兵士のように佇む翼竜達。古代の生物達が空をゆっくりとした速度で飛行し、あちこちに大きなシダ植物のようなものまで生えている。

 地底とは思えない、異様な光景だ。生態系めいたものを形成しているのにそれら生物群のどれもが一つの目的に沿って、軍隊のように動いている。


「要塞内部の崩落していない部分にも多数の忌むべきもの達の反応を確認しています。もう少し全体を見て配置を確認できれば、攻めるための準備をしているのか、守ろうとしているのかの判別もつくと思います」

「うむ……。迎撃と緊急脱出の態勢が整っている以上、方針を決めるのはそのあたりの情報を分析してからでもよいだろう」


 ドルトリウス王が同意するように言う。そうだな。忌むべきもの達がドルトエルム側の予想を超える速度で増強しているのと同じように、こちらが地底と地上で共闘体制に入っているのは忌むべきもの達にとっての想定外ではあるだろうし。


 まずは……敵の配置を見てここからの動きに推測を入れることだが――。


『ん。テオドール。木の上の方』


 シーラが水晶板を見て言う。視線を巡らせていたシーカーの視界の端――巨樹の上の方に、他とは異なるシルエットの姿が見えた。


「あれです……。私が遭遇したのは」


 ナヴェルが緊張感を持った声で言う。ナヴェルの遭遇した、人型の忌むべきもの達……。

 その、上半身だ。巨樹の幹に半身を埋めた状態でそこにそれがいた。


 人型と言っても、それは頭部や手足といった全体的なフォルムの話だ。地上人の因子を発現させているわけではない。


 後方に迫り出した二本の角。緑色に輝く二つの目。細く長い腕。

 腰も細い。脊椎そのものというような、細い胴体部。半面、肩や胸あたりは鎧を纏っているような装甲状のパーツが見られて……完全に戦闘を目的としたフォルムだ。背中にも翼のような器官を保有している。


 人と呼ぶよりは悪魔といった方がしっくり来る姿ではある。ただ……その魔力は間違いなく忌むべきもの達のもので……今は活動していないにも関わらず相当な反応を宿しているようだ。

 しかも少しずつではあるが環境魔力を吸い上げているのか、反応が増大しているのが分かる。


「相当なものだと信号を送ってきていますね……。直に感じたわけではありませんが、他の忌むべきもの達と比べても別格、別種ではないかと」

「……尋常ではない、というのは水晶板越しでも伝わってくる。よく奴と対峙し、生きて情報を持ち帰ってきてくれた」


 俺の言葉を受けてドルトリウス王がナヴェルに言った。


「ありがとうございます。恐らくは……テオドール公がいなければ帰る前に命を落としていたでしょうが、私も伝える事ができて良かったと思っています」


 ナヴェルは緊張感を持った表情で応じる。それから俺に改めて一礼してきた。俺も少し笑ってそれに応え、それから口を開く。


「ここで言える事としては……封印された区画内部の環境魔力を吸い上げているのなら、彼らに使える資源は一先ず限定されている、という事でしょうか。封印塔への対策を編み出したにしても、一度攻勢を凌がれたら苦境に陥ると思います」


 封印された区画内の環境魔力が時間を経て回復するにしても、一時的に枯渇に近い状態になってしまうはずだ。


『だとするなら……総力を結集させているのではないかしらね』


 クラウディアが眉根を寄せる。


「そうだね。後方に負けた場合の保険として後詰めを残している事は考えられるけれど……大多数はここに結集しているんじゃないかな。つまり……あの広い空間を埋めるような巨樹は集合体が前線側にやってきて、変身したものなんじゃないかと思う」


 封印から完全に解放されて自由に資源を使えるならまだしも、限られた資源を活かすならばそうした方がいいしな。


「一度劣勢になった側が巻き返すならば、中々安全策でとは参りますまい」

「封印区画から逃げられてしまったら非常に拙いですが……あちらも負けたら苦境という点では同じという事になりますか」

「大部分が結集しているという推測は納得だな」


 オズグリーヴがそう言うと、オルディアやゼルベルも同意する。


 ともあれ……巨木から同族を増殖させているというこの状況だ。決戦が近いのだとしても今すぐに動き出すというわけではあるまい。

 巨樹と一体化している人型も……今のところは力を集めているだけで動きは見せないようだしな。


 そのままシーカーを操作し、広場や要塞の下部から魔力反応で敵陣の配置を探っていく。


 忌むべきもの達は……要塞内部のトンネル付近に集められているな。崩れた壁や瓦礫をそのままにしているのは、守りを固めるつもりがないのか、それとも要塞を防衛拠点として利用するつもりがないのか。いずれにせよ戦力の大部分は俺達のいる側に集中して向いているという印象だ。


 待機している忌むべきもの達は微動だにしない。攻めるつもりなのか、このまま守りを固めるつもりなのかは断言しきれないが……少なくとも他のところに戦力を割くつもりはないように見えるな。


「となると……向こうの戦力拡充が明らかになった分、それも加味してこちらも準備を進め、その上で攻め手に打って出る、というのが良いか」

「或いはその準備中に忌むべきもの達が攻めに転じるかも知れませんが、守る上での備えと戦力は拡充されていますからね」


 ドルトリウス王の言葉にそう答える。

 こちらはまだ拡充する余力があるが、封印区画内の環境魔力には限界がある。こちらが守りに回った場合の対策と備えは一先ず済んでいるという事を考えればそういう事になるか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 兵器製造形態はデビ○ガン○ムでイメージしましたw
[良い点] 木の下の方 獣がマーキングして注意をひいていた
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >向こうから攻めてくる動きを見せる公算が高い。 戦闘「旦那様が好む形でない電撃作戦の準備中、というイメージが」 >巨樹の幹に半身を埋めた状態でそこにそれがいた…
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