番外1588 反転の相性
そのままトルビットと武官達の魔法槍での組手であるとか、ナヴェルのドルトエルム式魔法の実演を見せてもらう。
「我らの術式は地底の危険な魔物や環境の利用……。それに……かつての忌むべきもの達に対し、比較的効果が高かったもので構成されておりますな。とはいえ……こちらの防御結界を比較的短時間で破ってきたこともそうですが、変化や進化をした彼らへの効果の程は落ちると予想されますが……」
ナヴェルが解説しながら的に向かって放つ青白い光弾は――地の精霊の力に似ていると思う。ナヴェル達の術式は環境を利用したり自分達の魔力資質をそのまま増幅したり……構成に無理がなく洗練されていて流麗だ。
「その事についてですが……色々と思うところがあります。僕達のできることも伝えておいた方が作戦等も立てやすいし連携もしやすいでしょうし、その辺の検証も兼ねて実演してみましょう」
地上の魔法もそうだが……検証したいのは呪法だ。その事を伝えるとナヴェルは興味深そうに頷くのであった。
「おお……。お話が正しければこの者を構築している術式が我らの源流、という事になりますね」
「ここまでの話から推測すると、ドルトエルム王国の皆さんは、そこから性質が裏返った、という形ではありますが」
即席の呪法生物を構築してそれを浮かせ、ナヴェルやトルビット、水晶板越しではあるがドルトリウス王にも見てもらう。
簡易の呪法生物はいつものようにデフォルメされたドクロといった姿ではあるが、そうしたデザインも地底の面々にはあまり馴染みがないようで、興味深そうにそれを眺めていた。
「なるほど。我らの魔力に対し、呪法生物は何かしら変わった反応干渉が見られるかも知れませんね」
俺の考えている事を察したのか、ナヴェルが頷く。
「軽く試してみましょうか。念のために防壁も構築する形が良さそうですが」
俺とナヴェルに向かい合う形で呪法生物を配置。防壁の隙間から軽く魔力を放射してもらい、こちらも呪法生物に込めた呪力を軽く放射するという方法だ。
「では、よろしくお願いします」
準備ができたところで言うと、ナヴェルが前方に手を翳して魔力を放射する。それに合わせるように呪法生物を動かして打ち合わせ通りに動く。ナヴェルの放射した魔力に大体拮抗する程度に呪力を放つように調整していく、と――。
『おお……』
「これは――」
片眼鏡で観察すれば細かな変化が分かるかと注視していたが、肉眼でも感知することができた。ナヴェルと簡易呪法生物の大体中間あたりで両者の力が干渉しあい、細かな火花が散ったのだ。
やはり……特殊な反応だな。循環魔力と瘴気。或いは加護の力と瘴気の場合でも似ているか。反発しあうような力が働いている、というのが片眼鏡からの情報とウィズの分析結果だ。
それを伝えると、ナヴェル達は納得したように頷いていた。
「祖が自我に目覚める前の事に裏付けが取れた、という形でしょうか」
「そうですね。そして……地底の民はベシュメルク式の呪法に対して耐性が高いかも知れません」
「月と魔人の関係を考えると、やはり反転したり解呪を行う事で干渉しあうというのはあるのだろうな」
俺の返答にテスディロスが納得したように頷く。
もっとも……相性が良いと言ってもそれは術式が互いに効力を発揮しにくく反発するというもので、仮に戦った場合、結局力のぶつかり合いのような形にはなってしまうだろうけれど。
だからこそ……循環錬気のように威力を高める技術が必要だったのかも知れないな。
反転したことで耐性を持つ……と言われてもナヴェル達は少し戸惑っている様子ではあるが。それはそうだ。今現在のベシュメルクは味方の立ち位置なのだし、ベシュメルクに対しては特別恨み辛みがあるわけではない。寧ろ自分達のルーツに繋がるものとして親近感を抱いている部分もあるようだしな。
『ベシュメルクとは……互いにその情報が活用される事のないようにしたいものだな』
家臣達への指示の合間を見つつもこちらの話も聞いていたドルトリウス王が、しみじみと言う。
『そうですね。末長い友好関係を築いていきたいものです』
その言葉にクェンティンが静かに同意する。うむ。
生来の相性について言うなら、ドルトエルムの民と忌むべきもの達とでは、また話が変わってくるだろうな。話を聞く限り地底の民が成立した後に造られた後発の存在だから、ベシュメルク式の呪法とは違ってドルトエルムの民と相性が悪いという印象だ。
忌むべきもの達を生み出した領主とて、ドルトエルムの民に対抗する手段として運用を考えていたようだし、実際結構な損害も与えているようだからな。
一方でドルトエルムの民も比較的効果の高い術式の研究開発を行ったようではあるが、ここにきての学習……或いは進化型や新型、か。厄介そうなのは間違いない。
検証も終わったところでバトルメイジの戦い方や覚醒している氏族達の能力についても伝えていく。
「循環錬気を用いて威力、出力、強度や精度を増強する代わりに射程を犠牲にし、杖術、体術との組み合わせで魔法による近接戦闘を行う、というのが本来の僕の戦い方ですね。最近は射程を伸ばす方法も色々得てはいるのですが」
本来はバロールも射程を補うためのものだし、ジェーラ女王の宝珠も射程距離を伸ばしてくれているな。
「――というわけで俺の能力は再生や身体能力の増強ってとこだ。他の連中に比べると少しばかり地味ではあるかな」
「とは言うがゼルベルはその分体術を磨いているからな」
「近接戦闘と増強というと、俺と近い部分もあるね」
軽く拳を握って赤い魔力の輝きを見せるゼルベルに、テスディロスや俺が答える。
覚醒氏族の面々も自身の特殊能力について実演を交えて説明していった。流石に全力を見せるというわけにもいかないし、向こうとしても実戦でもないのに武人の奥義を見せて欲しいという話はしてこない。
戦い方の傾向、得意とする距離といった部分を共有して作戦を立てやすくするのが目的だから、一先ずはこれで良いだろう。
トルビット達武官としては、テスディロスが細く絞った雷の投げ槍を放ったり、オズグリーヴの薄く広げた煙が訓練用の的を四方八方から殴りつけたり、エスナトゥーラの鞭で打たれた部分が凍り付いたりしている光景にかなり驚いていた。感心しきりといった様子なのは……まあ、覚醒能力に関しては見た目には術式を展開していないからな。魔力資質から特化している分、使う魔力量に比して劇的な現象を起こしている。
術式で再現できなくはないが、まさに特殊能力を発動しているといった印象なので色々と興味深く映るのは、間違いないな。
そうやって交流を兼ねて互いの手の内を情報共有していると、ドルトリウス王も家臣達への指示を終えたようで訓練場に姿を見せた。
「中々有意義な時間になったようで何よりだ。こちらも一先ず対応すべき部分は対応した。万全とは言えぬが、この状況……。速度を以って対応せねば被害が広がる部分も出てきてしまっているからな」
「後は現地に向けて移動していく形でしょうか」
「うむ。前線で時間を稼ぎ、防備を固めて迎え撃つ算段も立てていたが……転送魔法陣や地上の技術による結界のお陰で、対応を変える事ができる。前線での次の戦いが不調に終わっても、安全に撤退し、次に備える事ができるようになった、というべきか」
俺の質問に頷くドルトリウス王である。
人員、物資の輸送に関しては魔法路のお陰でかなり融通が利くようだしな。後は戦力の集中と展開の速度か。
「王としてはやはり客人にはゆっくり寛いでもらいたいところなのだがな。王国をのんびりと案内してやれないのは残念な事ではあるが」
「それについては問題が解決した後の楽しみにさせてもらう」
レアンドル王が笑って応じる。俺達やルトガー、ペトラも笑って頷くとドルトリウス王も魔力のラインを反応させていた。
では……前線に向かって動いていく、ということになるな。
いつも応援いただきありがとうございます!
ご心配おかけしました。
隔日ぐらいのペースであればそれほど無理なく再開できそうですので
しばらくはこのぐらいのペースで続けていければと思っております!




