番外1587 地底の武官達
いつも応援ありがとうございます!
26日、27日の更新についてですが体調不良につき、大事を取ってお休みさせていただけたらと思います。復調したらまた頑張って更新していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします!
詳細は活動報告にて。
兆候を掴んで調査が送られてきたのを、件の領主が察知したところから戦いは始まったらしい。調査団の前に現れた領主が言ったそうだ。
これより地底は新しく生まれ変わる。我らが地底だけでなく地上にも君臨し、大地の支配者となる時が来た、と。
そう高らかに宣言し、地より湧き立つようにそれらが現れたという。領主の作った従属型の魔法生物。それらは不揃いな姿でありながらも様々な生物の特徴を備えていたそうだ。
それらは領主の号令に従い、一糸乱れぬ動きで攻撃を開始したという。調査団達はほぼ全滅。生き残った者達も宣戦布告代わりのメッセンジャーとして見逃されたに過ぎなかった。
挿絵というか、解説図も記録に残っているな。文章だけでなく絵も石板に表示できるというのは面白い。ドルトエルム王国として彼らに対抗していただけに、挿絵も結構精密だ。
「この姿は――」
「何かご存じなのですか?」
俺の反応にナヴェルが尋ねてくる。
「魔界の海洋魔物に特徴が似ているのです」
『ん。ボルケオール達……ファンゴノイド族に魔界で見せてもらった』
『確かに。魔界の海は……我らも脅威は知っているが、これに似た魔物に襲われた記憶もあるな』
俺の言葉を受けてシーラが真剣な表情で言うと、パルテニアラが頷いていた。魔界からの脱出のためにパルテニアラ達も海の調査をした事があるそうだ。海に辿り着いて調査に乗り出した時には海洋魔物達が既に進出していたらしい。
魔界での変質が本格化する前と考えれば……パルテニアラが見た魔物達はルーンガルドにいた頃の姿をまだ色濃く留めていたのではないだろうか。
「我らの中では化石として発見されている魔物の姿、でもあります。魔界の事は存じませんが……一度化石になったものが元に戻ったり、というのもあるのでしょうか?」
「魔界が形作られた際は精霊の力がかなり強く働いていたと思いますし、そういったことが起こっても不思議ではありませんね」
『海洋魔物自体が閉じ込められた環境に耐え得るために自らの身を石化させて乗り切ろうとした、というのも有り得るな』
そうした疑問に俺やパルテニアラが見解を口にすると、ナヴェル達も思案を巡らせているようであった。
戦い方や使ってくる術式も、特徴の出ている魔物に準じる部分があったようだ。戦闘途中で変形したという報告もあるが、内包している因子を表出させて戦う、という印象がある。状況に応じた対応力がある、か。
ナヴェルのあった人型は――そうした性質を持つから学習や研鑽によってより高度になったと見るべきか、それとも元々そうした因子も持っていたのか。
いずれにしても、ベシュメルクや魔界との接点が多い土地で作られたもの、というのは分かる。表出している形質から戦い方や性質も推測できるならば、戦っている際に気を付けるべき部分も分かるな。
『ふむ。見た目から注意すべき点というのも分かってくるか。となると、海洋魔物に関する知識も存外役に立ちそうではあるな』
メギアストラ女王が顎に手をやりながら言う。
『我らだけでは持ちえない視点、情報と技術か……。心強い事だ』
そうしたやり取りを水晶板で見ていたドルトリウス王が、静かに目を閉じる。一先ずは見た目や過去の情報から推察される能力、戦い方の情報共有だな。
ナヴェルの見た人型は姿形も能力も過去に例のなかった変化をしているようで気になるところではあるが。魔界の海洋魔物の……その原型の力も宿しているところまでは確実だ。いずれにしても油断ならない相手であることは間違いないな。
過去の情報共有とその対策は道中でも進めていくという事で皆も同意する。それから今度はドルトエルム式の魔法や地上の魔法、呪法についての基本情報について伝えあっていく。
教本に目を通させてもらった上でナヴェルの話も聞かせてもらうが……ドルトエルムの住人の魔力資質に合わせて作られた技術体系という印象だな。土魔法、火魔法の系統であるとか地脈の利用であるとか、お国柄や環境に合わせた部分が発展しやすいというのは分かる。
地中潜行や地中探知系の術式も発展しているな。
防壁系の術式が充実しているのは、やはり忌むべきもの達を封印し続ける関係上でもあるか。地上も対魔人で結界術が発展した部分はあるしな。
封印塔に用いている術式であるとか、忌むべきもの達の対策とされている術式については詳しく聞いておこう。
「それらの術式の性質を見ておけば、地上の結界術などが機能するかどうかの目安にもなるかなと思います」
『なるほどな』
「では、防壁関連に関してはもう少し詳しく伝えていきましょう」
俺の考えを伝えると、ドルトリウス王が首肯するように頷き、ナヴェルも快く応じてくれた。
重要な術式の情報ではあるのだろうが、忌むべきもの達が対策をしてきた以上は対応しなくてはならないからな。
というわけでドルトエルムの武官達の装備や戦法を見るのも兼ねて訓練所に移動して続きを、という事になった。
防壁関係の術は武官達の戦い方も併せてじっくり検証するという事で、まずはトルビット達の武装について解説してもらう。これは一般兵用のものですが、と前置きしてトルビットは地底王国の魔法武器を手に取る。
「目指している方向はそれほど特別なものではない、と思います。収束した魔力を効率よく展開して維持し、射撃戦でも対応できるように展開した穂先を射出することを可能としています」
トルビットの持つ武器の、浮遊しているパーツが回転を始める。先端から三角錐型の魔力の穂先が伸びた。二度、三度とそれを振るい、真っ直ぐに突き込む。動きが洗練されていて精密だ。数度の刺突が全く正確に同じ距離を進み、同じ速度で引き戻される。これはトルビットが門番として選ばれるぐらいの技量を持つ武官だからなのか、それとも種族的特性故か。
遠く離れたところにある的に腰だめに構えると、先端に展開された魔力の刃が光弾となって放たれて一直線に突き刺さる。十分な速度と勢いで射出できるようだな。
「基本的には誰でも一定以上に通用する武器として扱えるように、という考え方で作られているものではあります。ある程度の技量や実力が伴う場合は、個別に個人に合わせた調整を施したり、特注品を作ったりというのはありますが」
ナヴェルが解説してくれる。
『そうした高品質なものは名工を必要とし素材も希少となるから絶対数も少ないが……。地上の魔術師が使う杖のように、もっと様々な事ができるように作られているものもあるな。もっとも……その場合、扱う側の技量も問われるが』
なるほど。量産機と特注機のような違いはあるが、基本的は遠距離攻撃もできる槍や長柄武器、としての設計というわけだ。射出まで少しの溜めがあるので連射できるというほどではないが、兵士達が集団で使うのならばかなり強いだろうと思われる。
地中潜行の補助をしたり、非殺傷の鎮圧を目的としていたりと、目的や使用場面に応じてのカスタマイズも可能だという。
トルビットの場合は――個人に合わせて調整されたものを使っているとのことだ。
「そちらも興味があるな」
「肩を並べて戦うのですし、見てもらった方が良いでしょうね」
レアンドル王の言葉を受けて、トルビットが自分用の魔法槍を手に取る。こちらは大出力になっていて、槍ではなく極厚、長大な刃――大剣を展開する仕様のようだ。槍としての用途にも使えるよう、短くも展開できるようだが。
「なるほど。大型化しても魔力の刃なら比較的取り回しが良いですからね」
「消耗も大きくなりますが、私の場合はその辺が取り柄ですので」
トルビットが俺にそう応じる。地中潜行の術式も併せれば大型化もあまり問題にならないだろうしな。洞窟内でも好きなように振り回せるし。動きを見る限りトルビットもかなり腕が立ちそうだし、心強いことである。