番外1585 地上と地底の間に
方針もある程度固まり、それに沿って動いていくこととなった。改めてドルトリウス王とみんなとで自己紹介をしあう。
みんなからの自己紹介を受けた後で、ドルトリウス王も自己紹介をしてから少し動きを見せる。
「ふふ。少し伝えるのが遅れてしまったな」
ドルトリウス王は浮遊しながら窓際に向かうと、そこからバルコニーに出る。城の外の景色を見せるようにして言った。
「ようこそ、ドルトエルム地底王国へ。このような有事ではあるが、この国と地底の民を預かる王として、新たなる地上の友を歓迎しよう」
「感謝する。地底の王よ」
「ありがとうございます、ドルトリウス陛下」
そうやり取りを交わすと、ナヴェルやトルビット達、同行している面々と水晶板の向こうでも拍手が起きたりしていた。
ドルトエルムか。王の名と国名に似た部分があるな。代々こうなのか、ドルトリウス王がちなんだ名前なのかは分からないが。
「私もようやく言えますね。皆様をこうして王都に案内する役割を担えて、嬉しく思います」
拍手が落ち着いたところでナヴェルが言うと、ルトガーが頷く。
「俺も、ナヴェル殿と今後も交流ができそうで嬉しく思っている」
「ふふ。よろしくお願いします」
そうして握手を交わす二人である。ルトガーとナヴェルに関しては、互いに感謝し合っているように見えるな。レアンドル王もその光景に静かに頷いていたが、ナヴェルやトルビット達から握手を求められて笑顔で応じていた。
「テオドール公もよろしくお願いします」
「こちらこそ。こうやって知り合う事ができて、嬉しいですよ」
俺とも握手を交わして、ナヴェル達は楽しそうだ。トルビット達もみんなと共に握手を合わす。
「うむ。我もよろしく頼むぞ」
ドルトリウス王も頷いて、球体を変形させて握手を交わすと……改めての挨拶もひと段落といったところだ。こうしたやり取りにモニターの向こうのみんなも微笑ましそうにしていた。母さんとシーラ、マルレーンが一緒にうんうんと頷いたりしていて、それを見ているグレイスがオリヴィアを腕に抱いてにこにこしていたりと、あちらもほのぼのと和んでいる様子だな。うむ。
「では、早速動いていきましょうか」
「……すまぬな。平時であるならば国内を案内したいところなのだが」
「いえ。そうしたお気持ちは嬉しく思います。お互いの国への訪問や観光は……事態が解決してからの楽しみという事にさせてもらいましょう」
そう応じるとドルトリウス王達は目を細めて頷いていた。地上人とは違う姿ではあるが、表情の作り方や仕草が似ているのは、本能的に落ち着く部分があってそういったものを取り込んだからだろう。
頻繁に地上の情報収集をしているわけではないようであるが、本能的な部分と地上の相手に応対する際の事を想定しているのとで、色々と研究している感はある。ぎこちない部分はないので、すっかり馴染んで定着しているのか、或いは元々感情表現も共通した部分があるのかも知れないが。
こちらとしても意思疎通がしやすくて結構な事だ。俺達の表情や仕草も向こうに伝わるという事だしな。
ドルトリウス王がトルビットや使者に指示を出す。
「まず王城の主だった者達に、地上人が正式な客人となった旨を通達するように。協力に当たる武官達にも、段階的に情報の解禁もしていく予定だと伝えよ。民には確認が取れて問題がなさそうなら順次情報を解禁していく。ナヴェルは……そうだな。我が転送魔法陣を構築する部屋を見繕うので、その旨を通達し、魔法陣を守る人員を配備してほしい」
「はっ」
「承知しました」
ドルトリウス王の命を受けて、彼らが各々動く。トルビットと使者はすぐに動けるので、近くに控えていた武官にも声をかけて早速動いていった。
段階的な情報解禁というのは、例の本能による自由意志への影響部分の確認か。
「個人差についてなのですが……封印術を用いればそうした本能的な部分の制限もできるかも知れませんよ」
『種族特性を封印するというわけですね。私もダンピーラですが、普段この指輪で吸血衝動や強い腕力等を日常生活に適するように抑える事ができています』
グレイスの場合は力と種族特性が直結しているからな。特性を封印することで力も制限される部分があるが……地底の民の場合はどうなるだろうか。多少は検証する必要があるな。その辺も含めて説明すると、ドルトリウス王は思案しながらも頷いていた。
「問題が起こらないのであれば、本能的な部分が色濃く残っている者がいたとしても気軽に地上との交流ができるようになるな」
「首尾よくいった場合は理想的ですね」
ドルトリウス王とナヴェルは頷きあう。そのままドルトリウス王は城の一角に案内をしてくれた。
「では、早速通達と魔法陣の防衛役の人選をしたいと思います」
「うむ。そちらは任せた」
ナヴェルは一礼して退出していく。では、俺の方は魔法陣構築に移らせてもらおう。魔法の鞄から物資を取り出して魔法陣を描き、崩れないように魔石粉を固着化させていく。ドルトリウス王は「おお……。これが地上の魔法技術か……」と興味深そうにそれを見守っていたが。王都に地上から物資、人員を送るためのもの、前線とペアリングして王都から転送するためのもの。二つの魔法陣を構築する。
地上からの転送魔法陣についてはこれで一先ず機能するな。早速地上にいるバイロンに連絡を取って、転送魔法陣の機能チェックを行う。
その際、ナヴェルの仲間達との接触が順調に進んだ事も伝える。
「――というわけで、ドルトリウス陛下に歓迎してもらえたから、その点は心配いらないかな。このまま、ドルトリウス陛下、レアンドル陛下やルトガー卿と共に、揺れの原因の解決に向かう予定になっている」
『それは……良かったです。ナヴェル殿との友好関係が築けたというのは、安心しました』
バイロンはそう言って目を閉じていた。バイロンからすればナヴェルはルトガーや訓練生達の命の恩人でもあるしな。ドラフデニアに行ってからというもの、寝食を共にして一緒に訓練してきた者達なのだ。バイロンがナヴェルに対して恩義を感じている、というのは間違いないだろう。
「物資の中継や連絡役はそのまま続けてもらえると助かる。連絡が回って各国の足並みが揃ってくれば、大空洞の入り口も中継地兼後方拠点の役割として重要になってくると思うし」
場合によっては地底から避難するのに地上の拠点を使ったり、というのもあるかも知れない。忌むべきもの達へのこれからの対策と、その成果次第だな。
『分かりました。私にできることならば』
バイロンは気合の入った表情で頷いていた。そうして物資を転送したりと、きちんと動作確認をしていく。それを見届けてドルトリウス王が頷いた。
「どうやら良さそうだな。我らも現地への出発にあたり、準備を進める。それが済んだら出発か。足並みが揃わずとも、水晶板で調整できるし、転送魔法陣である程度融通というか帳尻が合わせられるのは……正直非常に有難い」
「こちらとしても魔法路があるので色々動きやすいですね。前線までは直接迎えませんが、輸送も楽ですし、魔物等の心配をしなくていいというのは有難いものです」
「うむ。魔法路で行けるところまでは安全と伝えておこう」
そうやって転送の確認をしたりドルトリウス王と話をしているとナヴェルやトルビット達も戻ってきた。
「では、我も動くとしよう。出発までの間は、地上人でも休めるように手筈を整えておこう。その間に過去の資料を見たり、技術交流をしたりといった時間もとれるのではないかな」
「そうですね。私も封印塔に向かう前に資料を見ていましたので、色々とお見せできるかと」
「うむ。では頼んだぞ」
「はっ」
ドルトリウス王の言葉にナヴェル達も頷くのであった。