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番外1583 封印と禁忌

「我らは子を成す際に素材を必要とするが、それもある程度は決まってくる。親達の素養と、必要とされる好相性の素材によっても、子の性質が決まってくるわけだ。そんな中でも禁忌というものがあってな」

「禁忌……ですか」


 字面の剣呑さにペトラがやや強張った表情で尋ねる。そう、だな。この流れで話をするという事は、この事も事件に関わっているのだろうが。


「親の産み出す中枢の片割れに素材を近付けると、こう……ぼんやりとした輝きを放つのです。相性のいい素材は、こう。良くない素材はこう……ですな」


 ナヴェルが魔力の輝きを手の中に宿して、輝き方の再現をしてくれる。


「この輝き方によって相性が分かるわけだ。必要とされるのは天然の鉱物であったり、或いは合成した物質であったり、特定の魔物の素材や魔石であったりと様々だが……親の形質の組み合わせによって概ね必要とされるものや相性のいいもの、というのも分かっている」

「当人達の望みによって自分達の姿に似せたり、こんな子に育って欲しいと願いを込めたりするのです。全く望み通りにとは参りませんが……それだけに親としては一生を費やして心を預けられる相手と素材を見出すに足る、大切な行いとされておりますね」


 なるほどな。ここまでの情報から考えると、相手選びや素材の厳選等は、かなり重要視というか、神聖視されているのではないだろうか。

 文官型、武官型と色々な姿を見たけれど、その中でも共通する部分はあった。あれらの姿も恐らくは長い歴史の中で形質変化や素材の模索の中で枝分かれして定着してきたものなのだろうし、自由意志や在り方は彼らの種族としての誇りなのだろう。


「ですが……危険な素材もあるのです。親の形質に関わらず負の輝きを放つと言いますか。地に閉じ込められた狂暴な魔物の素材や魔石、化石は選んではならない。これらに関する研究も認められておりません」


 ナヴェルがそう言って魔法で再現してくれるが……負の輝きというのは紫色の靄だったりして……毒々しさや禍々しさが目立つ。

 確かに「相性が良くない」といってナヴェルが再現してくれたものの輝き方と比べても全く違う。禁忌とされる理由もわかるな。


「そして中枢に後天的に手を加えて形質を変えようとするという研究もな。これらの禁忌に触れようとした者がいたのだ」


 ドルトリウス王はかぶりを振るように、目を閉じて少し身体を揺らした。


「地方領主であった彼の者は……地上への侵攻を唱えた。我らは自らの形を自らの力で創造していくことのできる優れた種族であり……よって地上を支配する権利を有する、などと煽ってな。種族の者達と反目した後に秘密裡に進めていた禁忌の研究を用いて、隷属型の魔法生物を作り出して反乱を起こした。いつの世、どこであれ野心家というのは始末に負えぬものだな」


 ……そうだな。ドルトリウス王の言葉は俺達の先程の話……イシュトルムの反乱やザナエルクの陰謀にも絡んだものであるのだろう。

 禁忌の力を使っての隷属型魔法生物の創造、か。


「激しい戦いの果てに彼の者は討伐され、反乱は鎮圧されました。……が、負の遺産は残ってしまったのです」

「忌むべき者達――。彼の産み出した魔法生物は彼が討伐された後に制御を離れ……害をなすようになった。沈静化や共存の道も模索しましたが、結局のところそれらが功を奏することはなく……時間をかけて連中の支配域を削り、一つ所に押し込めるように封印を施していったのです」


 使者やトルビットが補足説明をしてくれる。禁忌によって生み出された魔法生物とその反乱か。中枢……根本や本質に手を加えようとするのならば、彼らの成り立ちを考えるなら魔法よりも呪法の方が適しているのだとは思うが……。


「しばらくは安定していたのだがな。最奥の封印に急速に綻びが生じているという報告が上がったのが……地上の時間にすれば5日程前であった。我らはもしもの事態に備えて退避と迎撃態勢を整えつつ、封印の状態を確認するために動いたというわけだ。ナヴェル。そなた達の見たものの報告を、今一度」

「はい」


 ナヴェルはドルトリウス王の言葉に一礼する。報告を受けてナヴェル達は精鋭からなる調査隊を結成。現地に向かったそうだ。

 幾重かの封印塔が存在し、忌むべきもの達を限定された土地に押し込めている、というものらしい。つまりは、最初の封印が破られても次の封印が。それが陥落しても次の封印があるために軍を動員した迎撃や対応が間に合う、というわけだ。


「可能ならば封印の再構築を図るつもりでいたのですが。正直当初の予想や私の想像を絶するものでした」


 ナヴェルはそう言って目を閉じる。結界の再構築に着手しようとしたものの、内側からの圧力が生じていてうまくいかなかった、と語る。


「そうして、結界が破られたから施設が破壊されてあの地震が起こった、と」

「そういう事ですな。維持ができないと分かった場合、人的被害は出さず、最前線を放棄して次の迎撃に備えるというのも防衛計画の内でしたから。とはいえ……結界の破壊と侵攻の速度がこちらの予想を超えていたのも事実。それに何より……塔が破壊された後に出てきたもの達の、性質はともかく、その姿も記録されていた姿とは違ったものでした」


 ルトガーの言葉にナヴェルはそう言ってかぶりを振る。


「人型をしていました。私は殿を務めていましたが連中は我らの姿を感知し、真っ直ぐに突っ込んできたのです」

「我らがそうであるように、忌むべきもの達も……年月と共にまた変化をしたという事なのだろう。或いは彼のものら独自の……学習や研究、研鑽によるものか」


 ナヴェルの言葉にドルトリウス王が答える。我らがそうであるように、か。

 自由意志を重んじているのに自分達が生み出したものとの対話ができず、共存のできない敵対的な存在を生み出してしまったというのは……彼らにとっては俺達が想像するよりも辛いものなのだろう。だからこそ、余計に地上との接触は慎重になるし、大事にしたいと思っているというのは想像に難くない。


 反乱してしまった者への恐怖というのは彼ら自身が一番よく知っているし、こちらにそう思われたくはないのだろう。


「私は不覚を取って一撃を受けてしまいましたが……撤退に関しては上手くいったようで何よりです。魔法路への侵入ができなかった事や簡易路の遮断はこの目で確認していますから」

「うむ。それも良くやってくれたと改めて伝えておく。他の調査隊はナヴェルの献身のお陰で無事に撤退してきたのを確認している」


 魔法路は封印ができてから作られた技術であり、忌むべきもの達はそれらに乗る技術、情報を持っていないということらしい。

 当然、後発の技術であることと安全性を鑑みて封印されたエリアにも魔法路は通じていない。だが緊急事態故に簡易の魔法路を構築して退避し、撤退時にそれも遮断したそうだ。

 地脈に接続するための簡易魔法路構築は結構な高等技術で、ナヴェルが派遣されたのも結界塔関連や防御術の他に、そういう技術を持つから、という事らしい。


 ナヴェルの術者としての技量はかなりのものと推測していたが、やはり地底王国でも有数の術者なようで。


 ともあれ許可のないものは魔法路に侵入できないという安全対策も……忌むべきもの達の存在を念頭においたものだろうな。


 それに、俺達の見解を聞きたいというのも納得だ。自分達の中枢に後天的に手を加えるのを禁忌としているならば、源流となったと思われる技術――呪法に精通している術者の意見は貴重なものだろう。忌むべきもの達への対策にも成り得るからな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  呼称するなら、【禁呪生物】になるのかな。某少年の冒険譚に登場する禁呪法による金属生命体みたいな。
[良い点] 獣は誓った食料である鉱物でお茶目する奴等は 泣いても百烈爪を止めないと
[一言] 今度の敵は禁忌の進化を遂げた悪の呪法生物といったところでしょうか。 そのせいか蠱毒的なイメージが湧いてきました。 何にせよ、かなり厄介そうです。
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