番外1549 長老達のもてなしは
明くる日……。ウィルクラウド家の一室で目を覚ました。
大きな寝台の上でみんなも寝息を立てていて、今は……うん。クラウディアとエレナが隣で眠っている。クラウディアは俺の手を握って安心したような寝顔で……普段大人びた表情が多い分、無防備な寝顔は肉体年齢相応にあどけなさが感じられるな。
エレナもそっと控えめながらもしっかりと抱き着いている感じが可愛らしいな。安らかな寝顔は安心しているように見えて微笑ましさがある。循環錬気をしたまま眠る事が多いので、朝はこうして抱き着かれていたり手を握られていたりということも多いが……今日は魔力の調子もいいな。良い朝だ。
みんなも今はまだ眠っているようで平和なものだ。寝顔を一人一人堪能させてもらう。子供達も……生命反応の輝きは強いもので、今は安らかに眠っているようだな。セラフィナはカドケウス達と一緒に子供達の様子を見守ってくれていたようで、にこにことベビーベッドの縁に座って子供達の寝顔を見ていたが……俺が起きたのに気付くと、みんなを起こさないように笑顔で手を振って朝の挨拶をしてくれた。俺も少し笑って軽く頷く。
家妖精としての本分でもあるそうで、家人の子供を見守るのは幸せを感じる、と言ってくれている。種族的には夜間で活動するのが本来の在り方でもあるので、家人と一緒に暮らしてさえいるなら一人でも平気とのことではあるが……魔法生物組や使い魔の面々も一緒にいるので退屈はしないとのことだ。
家妖精だから体調変化や危機にも気付くようだし、ああして子供達の事を見守ってくれているのは俺としても安心だな。
今日俺達が泊まった場所は……寝台の近くにちょっとしたスペースが用意してあり、人数分のベビーベッドも置かれているし、おむつ替えや授乳といったこともできるようになっている。各種魔道具も設置されていて、結構至れり尽くせりだ。
七家は個々に来客を迎えられる程度には部屋にも余裕があるが、ウィルクラウド家に関しては使っていなかった部屋に手を加えて改装まで行い、俺達でも泊まりやすくしてくれたらしい。
子供達も成長したり、年少組がやがて母親になれば……更に大人数になるしな。
大きな寝台を入れると共に子供達用のスペースもあって、それでもまだ余裕が持たせられているから……これからの事も色々考えて改装してくれたようだ。
お祖父さんとしては泊まりに来ることを楽しみにしてくれているというか、やはり肉親で家族だからというのはあるだろう。
転移門で気軽に行き来できるしな。子供達だけでお祖父さんの家に遊びに行ったり……なんて事も将来的にはあるのだろうか。
そうして寝床に入ったまま温かな気持ちや少し未来の事を想像したりしていると、みんなも起き出してきて。
「うん。おはよう」
「おはようございます、テオ」
「おはよう、テオドール君」
と、みんなとの朝の挨拶から一日が始まるのであった。
身支度を整えて部屋を出ると、居間にはお祖父さんや母さんもいて、お茶を飲みながら談笑していたようだ。
「よく眠れたかの」
「ええ。寝心地も良かったです。子供達のための設備も使いやすかったですし……色々手配してくださって、ありがとうございます」
「ふふ、それは何よりじゃ」
改装された寝室の感想と礼を伝えると、お祖父さんは嬉しそうに微笑み、そんなやり取りに母さんもうんうんと頷いていた。
「子供達用の魔道具は七家のみんなの手作りらしいわね」
「なるほど……。それなら、朝食の席で顔を合わせたらお礼を伝えないとね」
母さんの言葉に俺やみんなも笑って応じる。諸々俺達を迎えるために用意してくれていたわけだ。考えてみればお祖父さんは普段タームウィルズにいるわけだし、許可を出したにせよ改装を実際に進めてくれたのはエミール達という事になるか。魔道具まで手作りしてくれるというのは流石の七家というか。
朝食の席は塔の大食堂で、七家の面々と共に同行してきた面々も集まるという事なので、そこでお礼を伝えていくというのが良いだろう。
というわけで、母さんやお祖父さんとの挨拶も済ませて、みんなで塔の大食堂へと向かうと、そこでは朝食の準備も進められていた。
料理については昨晩に引き続き、シルヴァトリアの宮廷料理長が担当してくれているとのことである。スピカとツェベルタも手伝っていたようだ。
「客として大人しくしていた方が良いのかもとも思ったのですが、やはり落ち着かないので申し出て、手伝いをさせてもらう事にしました」
「私達はこういう仕事をしていれば満足ですので。理解を示していただけるのは、流石魔法王国ですね、スピカ」
「そうですね、ツェベルタ」
スピカとツェベルタはそんな風に言って頷きあっていた。
そうしてみんなとも顔を合わせて、朝の挨拶をしていく。エミール達に魔道具や設備のお礼を言うと「喜んでもらえたのなら気合を入れた甲斐がありました」と笑っていた。実際丁寧に作られていて使いやすいものだったからな。
アルバートがオフィーリアやコルネリウスの関係でフォブレスター侯爵領に行っているから魔道具を頼めないという状況もあったしな。七家の場合、自前で魔道具を作る人材や設備が整っているなら手作りで、となるわけだ。
使ってみた感じでは七家の長老達が作る魔道具は、挙動も素直で使われている術式も安定感や信頼性を重視していたという印象を受けた。アルバートの魔道具もそうだが、丁寧に作られている魔道具は触れてみれば質が分かる。
「子供達に使ってもらうものですからね」
そういった感想も伝えると嬉しそうに長老達も応じていた。
というわけで朝の挨拶も終わったところで食事に移っていく。宮廷料理長の用意した食事はパンとスープ、ウインナーの入ったオムレツ、チーズに、ヨーグルトと……朝なので比較的軽いものではあったが、スープには柔らかく煮込まれた野菜もたっぷり入っていて、子供受けを考えた味付けと、バランスを考えたものであるようだ。
実際子供達は美味しいとにこにこしながら食べていて、反応は良いものだった。
そんな調子で食事や食後の歓談が終わったところで今日の予定についても伝える。
この後はみんなで飛行船に乗って、予定されている観光地に向かって出発だ。
「賢者様達や騎士様達もいっしょ?」
「そうなるね。王様や姫様も一緒だよ」
質問に答えると子供達は顔を見合わせ、嬉しそうな反応を見せる。先程の朝食もそうだが、風呂も寝床の寝心地も良いものだったそうで。塔での滞在を気に入ったからシルヴァトリアへの好感度も上がっているのだろう。アドリアーナ姫や長老達、魔法騎士の面々もそうした子供達の反応に微笑ましそうに目を細めていて、結構な事だ。
そうして王城から学連側にエベルバート王も合流してくる。飛行船に乗ってやってきたのでそちらもなかなか見物だった。
シリウス号とシルヴァトリアの姉妹船とで一緒に移動していくというわけだ。
ヴェルドガルとシルヴァトリアの姉妹船が並んで行動という事で……親善を深め関係の良好さを内外に示す事にも繋がるだろう。
「基本的には後をついていけばいい、というわけですね」
「うむ。そうじゃな。魔法騎士団が先導してくれる」
エベルバート王達の乗る船が道案内をしてくれるので、俺達はついていけば良いというわけだ。どこに行くかも、歓待の内容と同じで伏せられている部分があるからな。
アルファもこくんと頷いて、シルヴァトリアの船に続いてゆっくりと浮上するのであった。