番外1548 賢者達の団欒
氏族、迷宮村、孤児院の子供達を案内し、階下の宿泊客と連絡が取り合える状態である事を確認したら、親戚一同で団欒のできる時間を作る。
同行してきた面々については、中継映像の向こう側ではもう階下の共有スペースから撤収しているな。子供達の引率でもあるから、あまり共有スペースでのんびりしているわけにもいかない、というのはあるのだろう。
『同行してきた子供達は疲れもあるようですし、年少の子達は大部屋で早めに就寝するように動いていますね。体力に余裕のある大きな子達は、各々の客室でカード遊びをしたりすると言っていましたが』
大浴場で風呂に入った後に、警備についてくれている面々がそう連絡してきたのが少し前の事だ。
騎士団などの滞在も想定しての大浴場があるからな。七家の場合は個々人宅用の内風呂もあるけれど。
子供達は旅であちこち移動して、色々見てきた事で興奮していたしな。年少の子供は眠くなるだろうし、年長の子供はまだまだ興奮冷めやらぬ、というところだろうか。風呂から上がったらそれぞれ動いているようだ。年長の子供達も、魔法騎士に対しては格好いいとかそういった尊敬の目が向けられるらしく、尊敬の眼差しで言う事を聞いてくれるので、騎士達としても仕事をしやすい、という話であった。
「わかりました。皆さんも今日は色々ありましたし、普段の任務もありますからね。あまり無理はなさらずに」
『お気遣いありがとうございます』
俺の言葉に、魔法騎士は笑って応じていた。
今はティアーズ達が水晶板の向こうで待機していて、魔法騎士が階下の警備を行い、廊下の巡回などをしていてくれるという状態だな。
共有スペースには時々回ってくるという手順になっているが、音量の調整など、水晶板の管理と操作はティアーズが行っている。なので母さんは中継映像に映らないところに腰を落ち着け、仮面を外している、という状態だな。
グレイス達とフロートポッドを囲んで小さな子供達の様子を見て和気藹々としている。お祖父さん達やヴァレンティナ、七家の面々もそんな様子に表情を綻ばせているが。
「いやあ、この時間を待っていたよ」
「ふふふ。家族みんなで揃って、というわけですね」
そんな風に喜びの声を漏らしている長老達である。七家間での共有スペースはサロンのようになっているというか、役割的にはサロンそのままだからな。ソファに腰を落ち着けてお茶を飲んだりしながらゆっくりと休むというわけだ。
水晶板の向こうは落ち着いているな。
「水晶板の方は、ラヴィーネがアルファと一緒に見てくれるそうです」
アシュレイが五感リンクでラヴィーネ達の意思について教えてくれる。近くまで揃ってやってきて、尻尾をパタパタと振っているラヴィーネとアルファである。そこにアドリアーナ姫の使い魔であるファイアーテイルのフラミアもやってきて、自分も交代で手伝う、と申し出てきてくれる。
「ん。ありがとう。それじゃあ無理しないようにね」
そう言うとラヴィーネとアルファはやはり揃って頷き、アシュレイがにこにことした笑みを見せていた。
「うふふ。私もご一緒させてください」
ラヴィーネとアルファは番だからフラミアは一緒にではなく交代でという事で二人の時間を邪魔しないようにしているが……それならばとフラミアのブラッシングを始めているのがシャルロッテだ。膝の上にブラッシングをして……お互い満足そうにしていて結構な事である。シャルロッテとフラミアを見て、アドリアーナ姫も笑顔で頷いているな。
というわけで水晶板はラヴィーネ達に任せて俺もみんなとのんびりさせてもらう事にした。子供達に旅の疲れがないようにと循環錬気をしたりといった具合だな。
「子供達はどうかしら?」
「今は目が冴えているみたいだけれど……昼間よく眠っていたからかな。その分体調も良いみたいだよ」
ルフィナ、アイオルトと循環錬気をしながらステファニアの質問に答える。子供達の眠ったり起きたりについては、みんなで生活の時間と空間を共有しているからか、それなりに足並みも揃っている。ルフィナとアイオルトに関しては双子だからなのか、特に片方が起きるともう片方も、という事が多いな。
というか、子供達ももう少し時間をかけて循環錬気をすれば、心地良さからか眠ってしまうというのはあるので、ある程度足並みが揃うのはその辺が理由でもあるな。
「寝かしつけにも役立つというのはありがたい事ですね」
と、グレイスが微笑みながら言う。
「俺も子供達と触れ合える時間が増えるのは嬉しいかな」
寝かしつけの役は積極的にやっていきたいところだな。
ともあれ、子供達はみんな体調も良い。初めての遠出だから心配していたところもあったけれど、その分準備は万端にしてきていて、風のフィールドや浄化、発酵魔法の応用といった魔道具に加えてフロートポッドも活用している。それもあって普段通りの元気さ、健康さという印象だ。
もう少し大きくなってきたら過保護になりすぎていないかも気にする必要はあるが、今の段階はまだまだ不安定な部分もあるからな。
指先を握ってきた時であるとかふとした時の尻尾の先に感じる力の強さとか、意外なほどに力強くて命の逞しさのようなものも感じるが、それでも可愛らしい力の強さではあるので、まだまだ注視しておかなければなるまい。
子供達の循環錬気が終わったらみんなやエリオット、カミラにも続いて循環錬気を行っていく。復調して外出許可も出ているが、こういうのは普段から小まめにやっておくのが大事だからな。
「みんなも……この分なら大丈夫そうだね」
「ん。体調の良さは割と自覚がある」
循環錬気の結果を伝えると、力こぶを見せるような仕草をするシーラである。それを見てイルムヒルトが楽しそうに肩を震わせたり、マルレーンがこくこくと頷いたりしていた。
「皆仲も良さそうで喜ばしい事ですな」
「本当に」
と、俺達のやり取りを見て長老達は笑顔になっていた。境界公家も安泰ですなと、我が事のように喜んでくれている。
「七家の方は……最近はどうなのかしら?」
母さんが尋ねると、長老達も頷いて応じる。
「魔人達との和解と共存が前に進んだことで、心情的な部分での変化はあるかもしれませんな」
「確かに。魔法の研鑽をしていた一番の理由がそれですからね。有事に対応できるよう腕前も鍛えつつ、もっと生活に根付いた方向に進めていくのがいいのではないかと……そんな話をしていますよ」
「そういう意味でも余興の練習は良いものでしたな」
長老達はそう言ってしみじみと頷きあう。魔人達の解呪が終わり、七家にも変化が求められる、か。
「アルバート殿下とお話をする機会を設けてみるのも良い刺激になるかも知れませんね。あの方はずっとそういう命題を真剣に考えてきた方ですから」
「アルバート王子は確かにそうじゃな」
エリオットが言うと、お祖父さんも同意し、長老達も興味を示していた。そうだな……。アルバートは確かに。目立たないようにしていたが、それでも社会のためには貢献したいという思いが強くて魔法技師を目指したわけだし。
誰でも使えるような兵器の類はあまり作りたくない、生活の役に立つものは積極的に開発したい。そんな方針も、俺とアルバートの共通の見解だからな。
平和になってからどうするか。そのために技術をどう使うか。そういった部分では有意義な話ができると思う。
そうして、みんなやお祖父さん達、エリオット達も交えてのんびり話をしながら、夜は更けていくのであった。




