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番外1547 塔への宿泊

 塔の内部の吹き抜けになっている大書庫を見て、子供達は呆気に取られて上の方まで見上げていた。


 この上層が居住区画になっているからな。客室などの設備もそこにあるが、そっちに向かう前に案内していこうというわけだ。魔導書、技術書の類もあるので蔵書まで見せられるわけではないが、それでも塔の大書庫は吹き抜けになっていて立体的な構造をしているだけに、見た目でも圧巻だからな。


「これは……すごいものですね」

「そう言っていただけると、案内した甲斐があるというものです」


 大書庫を見上げて言うサンドラ院長や子供達の感動したような反応に、長老達が笑顔を見せる。

 そうして大書庫や研究用の部屋、魔法の実験用設備といった塔内の設備を見学しながら移動していく。

 子供達を宿泊させるという事で、研究、実験用の部屋はチェックして事前に片付けてある、とのことだ。とはいえ、元々居住スペースでもある塔内にはあまり危険なものを置いていないとのことではあるが。


「研究用の部屋は寧ろ良かったのではないかな」

「我らが記憶を封印した後は多少探りを入れられて……以後は埃を被ったりもしておりましたからな。他人の手で散らかされていたのを見た時は些かうんざりもしましたが」

「元々それなりに歴史もあって年季の入った塔でもありますしな」


 お祖父さんの言葉に長老達が笑って応じる。

 七家それぞれで研究用の部屋を持っているそうだが、実際に見せてもらうと確かに綺麗なものだった。器具や大鍋、机や壁から天井に至るまで手入れが行き届いており、器具と大鍋などは新品のように磨き上げられているし、年季が入っているというような印象は受けない。各々が大切に使っているのだろうというのが伺える。


 個々人用の研究室となると、性質上他者には見せないという事もあって、きちんと気を付けていないと雑然としてしまうしな。

 みんなや子供達に見せられるように俺も習慣づけていきたいな。うん。


 ともあれ、魔術師の研究室等普通は見られるものではないから、重要なメモや試薬等々が片付けられている状態であってもみんな興味津々といった様子だ。

 これは子供達だけでなく、ローズマリーも同じく、設備や資材を真面目に観察して感心したように頷いている。まあ流石に設備や機材も一級品、というのはあるな。


 実験用設備については……七家の歴史的な背景もあって、射撃練習場のような雰囲気がある。というか実際の機能もそうだな。対魔人を想定して研鑽してきた魔術師集団なので本質的なところでは武闘派なのだ。

 大魔法はともかく、照準や誘導については屋内でも十分練習可能だし、実際そうしているのだろう。


「通常の第4階級程度の魔法ならば、的に当てても問題はないように作られておるな。吸収して設備運用と修繕の魔力に回されるというわけじゃ」


 的については――少し遠くに設置されたミスリル銀の柱だな。壁や天井にも術式が施されていて、かなり強固な施設という印象がある。塔内という事を考えれば、おおよそ第4階級までという縛りが入っているのは致し方ないが、実際は第5あたりでも十分に。術によっては第6階級あたりでも耐えられそうだ。


 魔法の射撃練習を実際に試してみては、という話になって、設備に興味を示していたローズマリーが、「ではわたくしが試してみてもいいかしら」と申し出る。


「勿論ですとも」


 と、エミールが応じると、ローズマリーは「では」と一歩前に出て、みんなや子供達が見守る中、マジックサークルを展開する。三つ四つ、五つ六つとマジックスレイブが浮かんで――長老達も「おお」と声を上げた。


「行きなさい」


 軍勢に突撃命令を出すかのように羽扇を振るえば、マジックスレイブが複雑な軌道で柱に向かって飛んでいく。そうして包囲したと思った次の瞬間に、四方八方から時間差を伴う射撃が柱に向かって行われた。魔力弾の威力も収束されていて込められた魔力の規模に比して威力が高められている。


 動き、速度、軌道を複雑に変化させながら魔力弾を撃ち込んだり、マジックスレイブ同士で魔力糸を繋げて、点ではなく線で切り裂くような攻撃を見舞ったりと中々に多彩な攻撃を見せた。


 マジックスレイブの魔力が尽きかけたところで、手を伸ばしたローズマリーが握りこむようなしぐさを見せると、一気に柱に向かって突撃していき、爆発を起こす。なるほど。小規模な魔力でできる効率の良い攻撃だな。それでいて第4階級相当になっているあたりローズマリーの術式の管理は細やかでそつがない。


「良いわね。第4階級という制限があっても、制御を細やかにやればいくらでも魔力が消費できるし、十分な訓練になるわ」


 手ごたえを感じたのかローズマリーが頷く。見た目にも立体的で派手な動きだったからか、子供達も目を輝かせているな。


「見事なものですな」


 頷く七家の長老達と、拍手喝采を送る子供達の反応に、羽扇で口元を覆うローズマリーである。

 ミスリル銀の柱も……問題なく魔力を吸収したようで、結構魔力反応が増している。ちなみに、これ以上魔力を吸えない、という状態になると今度は普通の防御幕を纏う事である程度消費するらしい。その辺も含めて調整してあるのは流石というか。


「研究室もそうだったけれど、良い設備ね」


 クラウディアはそう言って笑みを見せて七家の長老達も「恐縮です」と応じていた。魔法を使える面々も折角の機会だからという事で、実験場を使って射撃を行う。アドリアーナ姫と共にステファニアもそこに参加したりして盛り上がっているな。


 子供達もかなり楽しそうに反応していたしな。シルヴァトリアや七家の塔の見学でもあるから、魔法尽くしというのもコンセプトに沿っていて悪くないだろう。俺も軽くではあるが射撃に参加させてもらう。遠距離攻撃は得意分野ではないけれど、軽い魔法での練習であるなら気軽にできる。


 そんな調子で設備見学が盛り上がりを見せた後で、俺達は塔の上層へと向かった。

 居住区画へは動く通路を使う事になるが……子供達には事前に話をしていたから、みんな静かに移動していた。


「聞いてた廊下だ」

「遊んじゃいけないって言うけど、楽しみだったんだ」


 そんな風に言ったりして子供達は楽しそうではあったので、やはり後で運動公園に招待して遊んでもらうというのが良いだろう。


 来客用の区画も結構広々としていて。例えば騎士団やらの大人数での滞在も想定しているので、訪問してきたみんなで宿泊するにしても不足はなさそうである。手荷物を置いた後、風呂場や就寝前に交流できる談話室等をお祖父さん達が一つ一つ案内していく。


 子供達は結構興奮していてなかなか寝付けなさそうにも見えるがな。まあ、明日動き出す時間を遅めに設定しているのもその辺の旅情を加味してのものか。


「私達はしばらく上層の共有区画でのんびりしておりますから、分からない事や困った事があれば水晶板で連絡をとってくれれば対応いたしますぞ。風呂等の設備も、案内できる者を配置しております」

「ありがとうございます」


 エミールの言葉に笑顔を見せるサンドラ院長である。


「明日の予定については……そうですな。食事をとって少しのんびりしたらまたシリウス号で出発するという事になりますか」

「観光というお話でしたね」


 シルヴァトリア観光についてはエベルバート王や魔法騎士団、七家の長老達も同行して案内もしてくれる。護衛はともかく案内というには豪華な顔ぶれではあるが、それだけシルヴァトリアも歓迎してくれている、ということだろう。


 元々危険はない場所ではあるが、魔法騎士団の別動隊も現地入りして安全確保に努めているという話だ。明日からの観光も楽しみだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣は書庫の結界と抜け毛が理由で入れない
[一言] 何故か夜店の射的を連想してしまいましたw ギャラリーが大勢いる上に子供が含まれていたからかもしれません。 攻撃自体はハマ○ン様っぽい感じだったのですがw
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