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番外1542 北国の秘湯から

 というわけで湯浴み着に着替え、温泉と山小屋を使わせてもらう。脱衣所から出ればそこは男湯、女湯に分かれており、女性陣も間仕切りの向こうで入浴を始めたようだ。


「そっちは大丈夫?」

「問題ありませんよ。子供達も大丈夫そうです」

「ん。ヴィオ達もフロートポッドでのんびりしてる」

「日当たりもいいし風魔法もかかっているから暖かそうだわ」


 声をかけるとグレイスやシーラ、イルムヒルトからそうした返答がある。間仕切りの上からアピラシアが顔を出してこくんと頷き、小さな子供達は働き蜂達で見ていると伝えてきた。


「一応こっちでも把握できるようにしておくね。視覚情報だけは切断しておくけれど」


 バロールがサイズを合わせるように変形したウィズを被った状態で、女湯側に飛んでいく。気温、湿度、体温に脈箔といったデータをモニターしつつ、フロートポッド周りで何かあれば対応するというわけだ。湯浴み着を使っているとはいえ俺達以外の人達もいるしな。

 グレイス達にものんびり入浴して寛いでもらいたい。ウィズとバロールには後で交代して魔力補給しつつ休んでもらうのが良いだろう。


「ふふ、ありがとうテオドール」

「ありがとうございます」


 その辺のことを伝えるとステファニア達やカミラがお礼の言葉を返してくれた。


「私としても安心ですね」


 エリオットも三角帽子を被って向こう側に飛んでいくバロールを見て言う。オリヴィア達のお風呂については、生まれた時期が違うので一緒に入っていいかどうかはまちまちだ。外出と同じように生後一か月ぐらいもすれば沐浴は大丈夫になってくるとは言うが、どちらにせよ体温調整もまだまだなので大人と一緒の時間だけ入っているというわけにもいかないし、時期が早すぎると臍の緒から雑菌が入る事例もあるようだ。この辺は文献で調べたりロゼッタやルシールと話をして調べたことでもあるな。


 一緒に入浴といったイベントは楽しみにしているが、まだ大事を取らないとな。小さな子供達は各々細やかに沐浴なりをしていく、というのが良い。浄化の術式でも清潔は保てるし、迷宮村や氏族、孤児院の子供達も小さければその辺は同じだ。


 折角の火精温泉の源泉でもあるので浄化魔法と併用して沐浴や清拭はしておきたいと思う。ともあれ女湯の方も大丈夫そうというか、心地よさそうに入浴している雰囲気が向こうからも伝わってくるので、俺も今はのんびりと入浴を楽しませてもらおう。


 というわけで、軽く流してから湯に浸かる。


「ああ。これは良いな。火精温泉の源泉、か」


 テスディロスも湯に浸かって心地良さそうに空を見上げる。


 テフラ山の源泉ということで良質な魔力も豊富で湯の心地よさが増しているというのはあるな。加えて周囲の環境が良い。

 山の中腹から見える景色は、陸地と海を丁度良く望める。空も高く青く、すっきりとした新緑の草原と森が裾野に広がっていて、海が陽光を受けてきらめき……直轄地の街並みも見ることができて、何とも清々しい景色だ。加えて、山の中なので空気も良いし。


「景色も綺麗だし最高だね」

「うむ。孫達と来ることができて満足じゃな」


 そう言って笑うお祖父さんである。母さんやシャルロッテも楽しそうに頷いている、と、バロールとウィズが教えてくれた。うむ。


「ふっふ。気に入ってもらえたならば何よりだ。我もここから見える景色は気に入っていてな。人々の営みが見えるところ等は好きだぞ」


 俺の感想に、テフラが間仕切りの向こうから笑って応じてくれる。


「テフラ様に見守られているというのは心強くもありますし、領主の娘として身が引き締まります」


 ロミーナがそんな風に答えていた。

 同行してきた子供達も景色に見入ったり、話を受けて思うところがあるのか、感じ入ったりしているようだ。温泉の心地良さも相まって、テフラ山と精霊テフラの恩恵の説得力というかなんというか。


 そうしているとスピカとツェベルタが、それぞれ男湯、女湯に飲み物を持ってきてくれる。テフラ山の水を用いて、果実で風味を付けた炭酸水ということで、柑橘系の爽やかな味わいが良い感じだ。子供達も「美味しい!」といいつつ飲み干してまた温泉に浸かり、景色を見て楽しんでいるようであった。ザンドリウスも、年相応の笑顔を見せるようなことが増えていたりするな。他の子供達と街の方を指さしてあれこれと話をしている。




 そうやって温泉を堪能した後は山小屋の設備を借りて、みんなと共に子供達に沐浴させたり、バロールとウィズに魔力補給をしたりといった、ゆったりとした時間を過ごさせてもらった。


 魔力の質の良さは子供達も感じているのか、割合上機嫌という印象だな。エリオットとカミラも一緒にヴェルナーの身体を清拭したりして、甲斐甲斐しくお世話をしているという感じで微笑ましいものを見せてもらった。


 もっとも……エリオット達もまた、俺達の様子を見て微笑ましそうにしていたから、外から見たら同じような印象を受けるものなのかも知れない。




 そうした時間をテフラ山で過ごした後は、ジルボルト侯爵家に護衛をしてくれたエルマー達を送っていく。


「お世話になりました。テフラ山も山の施設も、とても良いものでした」

「気に入っていただけたようで何よりです」

「ふっふっふ。また遊びに来ると良い。我も火精温泉のお陰で調子が良いし、テオドール達が山に来てくれると尚の事でな」


 一礼するジルボルト侯爵と、上機嫌なテフラである。


「確かに、テフラの魔力も増大している感じがするね」


 侯爵領の人達から信仰の力が向けられたというのはあるだろうか。いずれにしてもテフラの調子も上がっているというのなら何よりだ。


 そうやってまた遊びに来るという約束をして、俺達はジルボルト侯爵家の人達やテフラ、エルマー達といった面々に見送られてシリウス号に乗り込む。子供達もジルボルト侯爵領の人達に好感を抱いたようで、甲板からお辞儀をしたりお礼をいったりして船に乗り込んでいく。そうした光景にサンドラ院長を始めとした孤児院の職員達も微笑ましげな様子だ。


「では――出発しようと思います」

「はい。道中お気をつけて」


 ジルボルト侯爵達に一礼し、今度は侯爵の方からも遊びに来て欲しいと伝えると「是非」と侯爵は笑っていた。諜報部隊がある関係で色々国外との接触には気を遣っている、という事らしいからな。相手が俺の場合は調整もしやすいのでありがたい、ということである。


 そうして挨拶と共に点呼や安全確認も終わったところでアルファを見て頷くと、シリウス号がゆっくりと浮上を始める。

 侯爵家の人達、テフラや領民の人達に甲板から手を振って、王都に向かう針路で船が進み始める。


 子供達はジルボルト侯爵領やテフラ山が気に入ったようで、見送ってくれる侯爵家の人達や領民達に名残惜しそうにしていた。


「やはり王都でもしっかりと準備を整えていて正解だったわね」

「そうですな。陛下やエミール達もかなり気合を入れておるようですが」


 そんな子供達の反応を受けてアドリアーナ姫とお祖父さんは頷きあっていたりするが。そうだな。王家と七家に魔法騎士団まで動いているし、歓待について俺はノータッチなのでどうなる事やらというところであるが。


 そんなアドリアーナ姫の様子を見てステファニアや母さんもにこにことしていたりする。まあ、何はともあれまずは王都への道行きである。街道沿いに低空、低速で進むので滅多なことはないと思うが、道中の安全確保はしっかりとしていきたいところだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かまくらに焼石置いてサウナ満喫していた獣
[一言] サブタイトルが、世界○車窓からっぽい感じがして思わずニヤリとしましたw 湯上がりの炭酸飲料に対抗して湯船につかりながらのお酒……は子供連れだと難しいですねw
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