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番外1541 火精の源泉

 まずジルボルト侯爵直轄地の街中を通り、少し観光をしてからテフラ山へ向かう、ということになった。

 テスディロス達とエルマー達が護衛として周囲を固めてくれている。


 侯爵領直轄地の家々は北国ということもあってか、カラフルな見た目をしている。そういうところも相まって明るい雰囲気があるな。

 沿道や家々から人々もお辞儀をしたり手を振ったりと挨拶をしてくれる。今回は街中の見学もあるので俺達が見学するルートは少し人の往来が規制されてはいる。子供が多いので、ここは防犯上の理由からだな。


「日の光や色彩を家々の中に取り入れたいのでしょうな。冬は陸も海も雪と氷に閉ざされて些か殺風景になってしまいますので」


 ジルボルト侯爵がそんな風に教えてくれる。確かに、日当たりの良くなる方向に大きな窓も配置しているのが伺える。


「シルヴァトリアにとってみれば海の玄関でもあるわ。明るい雰囲気で迎えたい、という気持ちもあるのかも知れないわね」

「そう仰っている方も実際にいらっしゃいましたよ」


 アドリアーナ姫の言葉に、ロミーナが笑顔で応じる。そうした解説に子供達も感心している様子だ。

 色彩豊かな街並みは、特に氏族の子供達にとってはいい刺激になっているように見えるな。

 ロミーナも領民達も、ジルボルト侯爵領にそうした想いを込めたり、来訪者を歓迎したいという気持ちを向けてくれている、と。そうした話を聞けるあたり、ジルボルト侯爵やロミーナも領民達から慕われているのだろうと思う。


「王都はこの街に比べると色彩も統一感がありますが、あちらは冬場でも街中は雪が融けるように設備が整えられていますからな」

「歴史のある街並みを見てもらいたい、というような話を聞いたことはあります」


 ジルボルト侯爵が言うと、シャルロッテが応じる。お祖父さん達もそんな言葉にうんうんと頷いていた。母さんも仮面越しではあるが穏やかに微笑んで、そうした解説に熱心に耳を傾けている子供達を見守っている、という印象だ。


「オルトランド伯爵とテオドール公はこの街で初めて顔を合わせたという話でしたな」

「そうですね。あの頃はまだ魔法生物で支配を受けている時期で、テオドール公と戦いになったものの、助けていただきました」


 オズグリーヴの言葉にエリオットが答える。その頃はエリオットとしての記憶も戻っておらず……ベネディクトと名乗っていた時期だな。


「ふふ、あの時は大変でしたね。無事で良かったです」


 アシュレイがにこにことしながら懐かしそうに言うと、カミラもしみじみと同意し、サフィールも声を上げる。

 エリオットのその頃については知らないという面々もいるので、戦いになったと聞いて驚いたりもしていたな。

 エリオットとは普段仲良くしているから、そういった場面しか知らないとそういう反応になるのも分かる。


 港を見学しつつも戦いになった経緯やその時の状況を詳しく話をしていく。子供達は真面目に耳を傾けてくれるので話甲斐があるというか。


「支配を受けていてもアシュレイの呼びかけは届いていましたし……だから解除もできたと思っていますよ」


 俺の言葉にエリオットも感じ入るように目を閉じて首肯していた。

 子供達が向けてくる視線が中々にくすぐったくはあるが。

 そうして話をしながらも街中や港の見学をしていき……シリウス号もアルファが動かしてきて港で合流する。


 ここからシリウス号に乗ってテフラ山に向かうわけだ。しっかり点呼をして船に乗り込む。俺やエリオット、ジルボルト侯爵、テフラといった面々と共に、甲板から領民に姿を見せつつ移動していこう。


 点呼も済ませ、船内へ移動する面々が腰を落ち着けたのを確認したところでアルファが一声吠える。ゆっくりとシリウス号が移動を開始し始めた。


 街中の移動中は少し規制していたが、今度は見えるように移動していくのでも問題ない。通達もされているようで、家々の窓、屋上から手を振って挨拶してくれる領民達である。


 こちらからも挨拶を返しつつ、直轄地の上空を少し巡回してから、ゆっくりとした速度でテフラ山へと向かう。


「うむ。歓迎するぞ」


 テフラはにこにこと上機嫌な様子だ。水晶板の向こうでティエーラやコルティエーラ、ジオグランタに四大精霊王、フローリアといった高位精霊の面々がそんなテフラの様子に微笑んでいたりして。精霊同士仲が良くて結構な事だ。


 中腹の温泉に向かう前に、まずはテフラ山を見ようということで山体を眺めつつ山頂付近へと向かう。山頂付近はまだ冠雪しているが標高の低い場所は緑に覆われていて、綺麗で長閑なものだ。

 温泉のある中腹付近も少し肌寒いと思うので、小さな子は風魔法のフィールドでしっかり防御しておきたいところである。温泉に入る面々はまあ……入浴するので問題はないかな。


 火口をのぞき込んで子供達も盛り上がっている。サンドラ院長やエスナトゥーラといった引率役の面々も子供達の無邪気な姿に微笑んだりしているな。


 テフラ山周辺から山頂まで空からの遊覧を楽しんで、それから中腹の温泉へと向かった。

 露天風呂を整備したということだが――男女別に分かれて間仕切りも作られているし、広々とした小屋も隣接していて、結構使いやすそうだ。


「侯爵家が歓待に使ったりもしていますから、それなりの規模でも対応できるようになっています。要人の護衛の方々や家臣団といった層が利用するのも想定していますので」


 ロミーナが教えてくれる。なるほどな。シリウス号と合わせれば諸々問題もなさそうだ。


「子供達には船内で着替えてもらってもいいかな。温泉から船に戻るときに身体が冷えないように水分を飛ばしたりすれば問題なさそうだし」


 その間に少し小屋を見せてもらって、俺も色々な状況に対応できるようにしておこう。

 というわけで話も纏まり、各々湯浴み着に着替えたり温泉に入る準備を進める。


 ロミーナに小屋や温泉を先んじて案内してもらったが……そうだな。設備としては立派なものだと思う。トイレも複数あるし、厨房や食堂も広々としていて、やはり大人数で使うことを想定している。温泉に繋がる通路は男女別に分かれていて、その先に脱衣所も完備してあるな。


 大浴場は地形を活かして作られたという印象だ。山小屋というよりはテフラ山に滞在するための施設、だろうか。俺達はシリウス号に乗っているから気軽に立ち寄れるが、徒歩なら普通に登山だからな。

 侯爵家はここから山頂を目指して移動して領地の無事を祈ったりもしたし、精霊テフラに祈りを捧げる民間の催しに利用してもらったりということもしていたのだという。


 温泉は街にも引かれているが、この辺はテフラ山の恵みの最たるものでもあるしな。

 ここの温泉については魔道具による温度調整は施しているらしい。子供達が来るので若干低めの温度にしているとのことではあるが……うん。じっくりと温まるには程よい温度だと思う。


「良いですね。魔力が豊富ですし。火精温泉が源泉に似ている、というべきなのでしょうが」

「ふふ。気に入っていただけたようで何よりです」


 俺の言葉にロミーナも微笑む。というわけで問題はなさそうだ。スピカやツェベルタも小屋側に降りて厨房などの設備を確認していた。置いてあるものは今日使えるようにと侯爵が用意してくれたものとのことだ。


「頃合いを見て飲み物を持っていきましょう、ツェベルタ」

「そうですね、スピカ」


 そう言って頷きあう二人である。うん。テフラ自身も女性陣と一緒に温泉を楽しむつもりのようだしな。俺もみんなとの温泉を楽しませてもらうとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回のロミーナ嬢はツアー旅行のバスガイド的なイメージだなと思ってしまいましたw 乗っているのはバスではなく空飛ぶ船ですがw
[良い点] 獣も町をねり歩き中頭上にミラーボールを回転させていた
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