番外1537 シリウス号と社会見学
オルトランド伯爵領へ向かって、海沿いの道を低めの速度と高度で移動していく。旅行でもあるから道中の景色も楽しませてもらっている。
シリウス号に乗っている子供達は孤児院、迷宮村と氏族共々混ざって交流しつつ、目を輝かせて水晶板を見て楽しんでくれているようだ。
外の中継映像にしても何枚か水晶板を用意して連ねて、前方、左右といった調子で景色を見られるようにしてあるからな。
『あっ、騎士と冒険者の人達……!』
子供の一人が陸地側のモニターを指さして声を上げると、そちらのモニターに注目が集まる。
その声の通り、騎士と冒険者達が連れ立って、街道から森へと向かっている様子を見て取る事ができた。拡大してみると、和やかに談笑しているような雰囲気もあり、そこまで緊張感はない。装備はしっかりしているが森で動きやすいもので……。そうだな。魔物対策をしてきているといった感じだ。
「あの感じなら、通常の巡回と魔物の討伐……ゴブリンあたりを退治しにいくのかもね。装備品も森に入るのを想定してる」
「ん。腰の山刀で枝葉を払ったりしながら森を進んだり探したりする」
俺達から説明をすると子供達はふんふんと頷いていた。
『フォブレスター侯爵領の騎士達だね』
『テオドール公の仰る通り、通常の巡回任務なのでご心配には及びませんわ』
その様子を見ていたアルバートとオフィーリアが、そんな風に教えてくれた。
なるほどな。今回はフォブレスター侯爵のところには立ち寄らないが、領地を横切っているからな。侯爵達にも挨拶させてもらったが、こうやって領地内の解説もしてもらえるのはありがたい。
氏族の子達もだが、孤児院の子達は騎士や兵士、冒険者といった仕事を希望する者も一定数いるからな。参考になる話ではあるだろう。無邪気に楽しんでいる様子の子もいれば、真剣な表情で耳を傾けている子もいるようだ。
モニターの向こうで騎士と冒険者達もこちらが飛行している事に気付いたようで、笑顔で敬礼したりしていた。少し距離があるが律儀な事だ。
映像を拡大できるこちらと違って、あちらには甲板に顔を出しても見えにくいだろうということで、光魔法で挨拶を返す。明滅を送って見せると意図に気付いたのか、笑顔になっている騎士達である。
興味のある者なら知っているだろうけれど、武官や冒険者の仕事ということで俺からも通常の魔物退治や街道周辺の巡回といった事に関して補足説明や解説をしておく。
魔力溜まり周辺における平常時からの魔物対処というのは大事なことだ。一方で魔物でも友好的な種族に関する月神殿や冒険者ギルドのスタンスであるとか、そうした部分も説明する。
「というわけで、月女神からの神託に基づいた神殿の呼びかけに、国やギルドも賛同して今の形になっていったわけだね」
同盟各国も同じような方針だ。経緯も含めて話をすると、子供達も頷いていた。
幼少期の環境魔力によって狂暴化するということ。ゴブリンやオークに関しては環境魔力に関わらず種族として敵対的であることが通常と、リスクに関してもしっかりと伝えておこう。正しい知識があれば色んな状況に対応できるからな。
迷宮村の子供達も一緒なので、友達になった者同士笑顔を向け合ったりしているな。そんな様子にクラウディアやイルムヒルトも上機嫌な様子である。うむ。
旅行や観光目的ではあるが、引率でもあるので社会見学のようになってしまっている部分はあるな。サンドラ院長達は静かに微笑んで頷いているので、こうした状況を歓迎してくれているようではあるが。
やがてシリウス号はフォブレスター侯爵領を抜けて、オルトランド伯爵領へと入っていく。その事を伝えると、子供達はふんふんと頷いていた。
「オルトランド伯爵領は少し前まで王家の管轄でもあってね。海を挟んでシルヴァトリアと向かい合う、大事な場所でもあるのよ」
「ステフはヴェルドガル王家の中でも昔からシルヴァトリアと交流を重ねて、関係を重視してくれていたものね。現領主であるオルトランド伯爵もそうだけれど、ヴェルドガル王国がシルヴァトリアとの関係性を重視してくれているのが分かるわ」
ステファニアとアドリアーナ姫が伝える。ステファニアは前領主でもあったし、アドリアーナ姫はそんなステファニアと親友だ。互いに色々と把握しているので、子供達に解説する役回りとしてはこの上ないな。
そんな二人からの解説に、海の向こうに目を向けて、子供達は真剣な表情で頷いていた。母さんもそうした解説に納得する部分が多いのか、うんうんと頷いている。
母さんと幼い頃のステファニアも船上で出会っていたりするしな。船も行き来しているしシルヴァトリアの情報が真っ先に入ってくる場所でもあるから、母さんは何度か訪れている。この場所に居を構えなかったのは……シルヴァトリアからは逆に距離を取りたかった、というのはあるのだろう。伝達速度に違いはあるものの、王都でも情勢把握する事はできるし。
そうして領地についての解説も聞きつつオルトランド伯爵領を行く。やがてエリオット達のいる直轄地も遠くに見えてきた。
「見えてきたね。あれがエリオット――オルトランド伯爵のいる領主の直轄地だよ」
俺の言葉に城を食い入るように見ている子供達である。色々と解説しながら進んできたので子供達としても興味津々なようである。
そうしてゆっくりとした速度で近付いていくと、エリオットが自ら姿を見せてくれた。サフィールに乗って出迎えにきてくれたようだ。
では――俺達も甲板に出て挨拶に行くとしよう。
「お待たせしました」
「いえ。予告していた頃合い通りといったところですね」
エリオットと顔を合わせると笑顔で迎えてくれた。サフィールが嬉しそうに声を上げて、一緒に出てきたアルファがにやりと笑う。そんな反応にシャルロッテも嬉しそうににこにことしているが。
到着時刻については移動速度と距離からの逆算で調整しているからな。出発時刻と合わせて予定ぴったりではある。
甲板でみんな揃って顔を見せつつ、城へと移動していく。このままエリオットと、カミラ、ヴェルナーをシリウス号に迎えて領民達に姿を見せつつ、シルヴァトリアに移動していく、というわけだな。
艦橋や船室に小さな子を迎える設備も構築してあるからな。ヴェルナーを迎える準備もできている。フロートポッドとエアクッションにより、かなり安全性が高い仕様だ。
スピカとツェベルタ、アピラシアも食事の用意や子供達のお世話に協力してくれているので、護衛役を除いても人手は結構足りているしな。諸々安心だ。
というわけでエリオットを甲板に迎え、みんなで領民に顔を見せながら進んでいく。住民達もオリヴィア達の姿を見て、大いに盛り上がっている様子であった。
「こんにちは、カミラ様! 3人とも元気そうで安心しました」
城に到着するとヴェルナーを子供用のフロートポッドに乗せたカミラが姿を見せて、アシュレイが嬉しそうに声を上げる。
「ふふ、そうですね。ヴェルナーも、私達も元気ですよ」
カミラも挨拶を返して頷く。ヴェルナーも誕生から少し時間が経って、身長体重の推移も順調だ。うん。まずは――そうだな。城で少し循環錬気をして、生命力増強等を済ませたらシルヴァトリアに向けて再度出発ということになるだろう。
カミラ当人は調子がよさそうにしているし、ライフディテクションでも強い反応ではあるが、増強しておいて損はないからな。




