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番外1534 鞄作りと絆

 トランク作りに関しては部位によって樹脂の性質を少し変えて素材が分かれているように見せかけている。例えばベルト表面の質感は革のようなものだしな。いわゆる合皮という奴だな。適した柔らかさや性質にも調整できるので、部位に応じて変えていく、というわけだ。


 表面を滑らかな手触りの合皮に。角の部分は頑強なものに。


 内側も布っぽく仕上げているが、これは大体魔法樹脂によるものだ。持ち手や留め金、ダイヤルキーにトランクを縦置きする場合の足部分もそうだ。

 外装と内装の内面に刻印術式を施す事で耐火、耐水、構造強化に軽量といった術を施せる。かなり頑丈且つ軽量な仕上がりになるだろう。


 刻印術式に関してもグロウフォニカやネシュフェル、古代ギメル族の物など、色々見せてもらっているからな。技術的にも前より上がっている。


 後は……防犯機能か。鍵はその場で開けて盗難、というケースを防ぐもので、鞄ごと持ち去られるようなケースには対応できないからな。


「転送魔法陣に、これから伝える材料を置いてもらってもいいかな?」

『ん』

『ヴィオレーネちゃんとロメリアちゃんの事は見ていますので安心して動いてください』  


 シーラが耳と尻尾を反応させると、エレナが笑顔で応じる。


『助かる』

『ふふ、ありがとう』


 そうお礼を言ってシーラが立ち上がり、イルムヒルトも笑顔で続く。

 みんなもエレナの言葉に頷いて、シーラ達の手伝いをしたり子供達の様子を見たりと楽しそうに役割分担をしているな。


 転送魔法陣に資材を置いてもらったところでマジックサークルを展開。資材をこちらに転送する。召喚術式ではあるが、いきなり出現する魔石に子供達も驚きの表情だな。

 後は魔石に簡単な呪法を込めてトランクに組み込んでいけば完成だな。矢印の呪法ではなく警報ではあるが、効果と安全性は十分だ。


 そうして作業を進めていき、トランクが形になって出来上がってくる。子供達は目を輝かせつつ作業風景に見入っている様子だ。


 一つ出来上がったら次のものへ。色味次第で深い色合いにしたりパステルカラーの方が合うと思えばそうしたりしている。なので形状や素材は同じであるが、クラシカルな印象なものと、カジュアルな雰囲気のものに分かれていたりするな。いずれにしても大人から子供まで使いやすいとか、色んな物に合わせやすいというのを考えたデザインではある。将来にわたって長く使えるものを、というコンセプトだしな。


 順番に作業しているのでぎりぎりまで迷っても大丈夫だ。幻影だけでなく現物を見て決めたいという子もいるだろうし、後から色を変えることだってできる。


 見本も兼ねて一色ずつ作っていくと、迷っていた子もやがて希望の色が決まったようで配布待ちのグループに加わっていた。


 大きなトランクと共に小さなサイズのトランクも並んで行って、やがて全員分が出来上がったところでこちらを見てくる子供達に笑って頷くと、一斉に歓声が上がった。


「色違いであっても形は同じだからね。誰の物か分かりやすくしようと思う。受け取ったら、好きな動物とか花とか何か一つ考えて、俺の前に並んでくれるかな」


 タグプレートというか。そういった部分に各々の名前と好みの意匠を刻むわけだ。小さなトランクのタグプレートについては交換しやすくしておこう。


 孤児院に置かれていた魔道具に倣い、小さなトランクにつけたプレートには健やかな成長を願うという文言を。大きなトランク側には未来へ進む勇気と共に前途の幸運があらんことを、という文言を入れておく。

 プレートについて説明すると、子供達は更に沸き立って、早速俺の前に並んでくる。


「ありがとうございます……!」

「大事にします」


 プレート部分に手を加えると、それを嬉しそうに受け取ったり、真剣な表情でお礼の言葉を伝えてくれる子供達である。

 俺も笑って応じる。プレートに刻むモチーフについては飛竜であったりベリルモールやマギアペンギンを希望する面々もいたりして。それを中継で見て、リンドブルムがにやりと笑い、コルリスがこくんと頷いたり、ティールが嬉しそうに声をあげたりしていた。


 迷っている面々にはこちらから幻術で色々モチーフを提示することもできるな。そうして全員に行き渡った所で更に伝達していく。


「鍵の使い方については、最初はゼロの並びで開くようになっているね。内側から……この部分をこうやって調整することで好きに開錠の番号を変えられる。番号を忘れた場合は……まあ少し面倒になるけれど……3桁だから時間があれば開けられるかな」


 こういうものはその場で簡単に開けられない事が防犯になるわけだし。開錠番号の調整方法と防犯機能の抵触については確認できるように書面にしつつ、口頭と実演で伝えておく。


「小さな鞄については孤児院の管理ではありますが、旅も近いですし、各々に預けておきましょう。きちんと管理できるならば大きな鞄を渡す時まで預けておくということもできますね」


 サンドラ院長がそう言うと、年少の子供達も頷いていた。

 きちんと管理するならばと自主性を促すのは良い事だな。サンドラ院長がこういった調子なら、教育方針としても安心できる。


 トランクを受け取った子供達は嬉しそうにトランクを抱きしめたり持ち上げたり、膝に置いたりと各々喜びの表情をあらわにしている。

 トランクを開けてダイヤルキーを調整したり内装を確認したり、プレートを眺めてにこにこしたりと、楽しそうで実に結構なことだ。


「もしよろしければ、職員の皆さんにも鞄をお作りしますが」

「嬉しいのですが、よろしいのですか?」

「勿論です。それ程時間がかかるものでもありませんし、魔力の余裕はまだありますからね」


 プレートに入れる文言については子供達の助けと支え、導きになってくれていることへの感謝、だろうか。サンドラ院長や職員の面々も喜んでくれているようだし、このまま職員達のトランク作りを進めていくとしよう。


 そうして……やがて諸々作業も終わる。揃いの鞄なので卒院しても孤児院のみんなとの絆を感じられるものになるのではと、職員達は笑顔でそんな風に雑談をしていた。


 子供達は早速着替え等を鞄に入れて、旅支度を整えることにしたようだ。シルヴァトリア旅行を楽しみにしてくれているようで何よりだな。


 一先ず孤児院の方は旅の準備も大丈夫そうだ。シルヴァトリアの方も対応は順調とのことだし、俺達もこのまま旅の支度を整えつつ、問題が生じないように注視していけばいいだろう。




 月神殿の孤児院で揃いの鞄を持ったということで、シーラとイルムヒルト、クラウディアにも鞄を作ったりした。そのままみんなの分も作る流れになってしまったが……シルヴァトリア旅行で見たら子供達も喜びそうだし、いいのではないだろうか。


 シーラとイルムヒルトは孤児院出身だし、運営母体が月神殿だからクラウディアも所持しているというのは職員面々も喜びそうだ。そうしてシーラ達に作るならばみんなにも、というわけだ。


「ん。良い感じ」


 出来上がったトランクを持ち上げて、耳と尻尾を反応させるシーラである。軽量化の刻印術式も施してあるので利便性も結構高いしな。みんなの使う品としても結構悪くないように思う。


「機密性の高いものや収納や持ち運びに困るものはこっちを使えばいいものね」


 魔法の鞄を見ながら言うローズマリーだ。用途によって使い分けもできるな。機密性の高いものを護りたいなら魔法の鞄側にリソースを集中させておけばいいし。


 ともあれ、旅の準備はこちらも整っているし、エリオット達も準備完了とのことだ。シルヴァトリアへの旅行は俺も歓待する側ではあるが、楽しみにしている。しっかりと準備を整えて臨むとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色のバリエーションが多々あるということでランドセルを連想しましたw 普通の旅行鞄だったはずが、どんどん高機能にw 空を飛んだりはしませんw
[良い点] 大きなトランク側には未来へ進むモグラのような勇気と共に前途の幸運があらんことを、という文言を入れておく
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