番外1531 旅の支度と歓待の用意と
お祖父さん達は歓待や観光の計画を立てるつもりらしく、話し合いの後にアドリアーナ姫も交えて通信室で更に話し合いをすることにしたようだ。
細やかに話を進めてくれるのはありがたい。俺も純粋な客というよりは孤児院の面々を招待する側でもあるので、話し合いに参加させてもらう。
「フォルカ達も護衛としてついてくれるから、到着してからの安全についてはこちらで対応するわ」
『警備についても、これからの予定と合わせて計画を組もうと思っています。訪問してくる人数や規模はもうわかっているので、後は訪れる場所に応じて、でしょうか』
『王都内であればすぐにでも対応可能ですが、子供が多い事は留意しなければいけませんね』
フォルカやエギールが頷いて答える。魔法騎士団については王都なら即応できるぐらいの練度ということだな。ホームグラウンドならば要人警護の訓練もしているし土地勘等もあるのだろうが。
「ふむ。フォルカ達は実力も相当と聞いておるからな。儂らとしても安心ではある」
地方で冒険者と協力して狂暴化した魔物と戦ったり、ゴブリン達を討伐したり、現場で叩き上げられてきた面々だからな。
「エリオット伯爵とも親しくしている方々ですから、警備を担当してくれるのは確かに安心感がありますね」
『恐れ入ります』
お祖父さんの言葉を受けて俺もそう言うと、グスタフが一礼して応じる。フォルカ達がこうした場面での警備を任される事もそうだが、シルヴァトリアの再編に当たって魔法騎士団はかなり重用されているようだ。
ザディアスは直属の騎士団を持ってそれを動かしていたからな。学連での七家の記憶封印の一件もあって、表立っての派手なことを控えていたから……既存の騎士団への工作もそこまでは進まず、政治的には少し離れた立ち位置だったというのもある。
ベネディクトと名乗っていた頃のエリオットは魔法騎士団所属だったが、それもザディアスが伝統ある騎士団を蔑ろにしていないというポーズでもあったのだろう。
エリオット自身は清廉な性格で人助けもしていたから評判も良かったが……いざとなれば魔法生物による制御で内通でもなんでもさせられるとザディアスは高を括っていたのだろうと思う。
当人の意識が関わらないなら魔法審問を受けた上で潔白であることを宣言させるのも簡単だろうしな。
ともあれ、フォルカ、エギール、グスタフは実力もそうだが……性格や素行についても信頼できるとエベルバート王達から見られているのは間違いない。
将来を嘱望される次世代の中核といったところか。重鎮とまでなるかは当人達次第なのだろうとは思うが。
そうして通信室で少し計画を練って、その日は解散となった。細部を詰めたり報告をしたりする関係で明日以降も話し合いを継続して行うそうだ。
アドリアーナ姫との交流の時間が増えるということもあって、ステファニアとしては楽しそうにしているな。一緒に書庫に足を運んで本を借りてきたりしても良いかと尋ねられたので、もちろん構わないと答えると、早速冒険譚を借りてきて、その話などで盛り上がっているようだ。
「このお話は読みたくて少し探していたのよ。学連の書庫に蔵書がないか聞いたりもしてみたのだけれどね」
笑顔を見せつつステファニアに語るアドリアーナ姫である。グロウフォニカの海洋冒険家の話だな。
「学連の書庫は蔵書がすごかったけれど、魔導書や実用書が多かったように思うから、こういう本は少ないんじゃないかしら」
「そうね。娯楽関係は長老達の個人的な蔵書になるみたいで……このお話は結局見つからなかったから、こうして読めるのは嬉しいわ」
シルヴァトリアの王族だから本を取り寄せるのは問題ないのだろうが、国内が大変だったし、その後はヴァルロス達への対処ということもあって、そんなことを言っていられる状況ではなかったというのはあるだろう。
蔵書を探しに七家に聞いてみるぐらいの余裕が出てきたということで、平和になった裏返しでもあるな。
「未踏の島に上陸した冒険家の話、だったかしら」
グロウフォニカにルーツを持つローズマリーだから結構詳しいようだ。アドリアーナ姫は笑顔で頷く。
「その逸話が有名ね。固有の魔物種族と遭遇し、その後、グロウフォニカとの交流の礎にもなったと聞いているわ。今日まで平和的な交流が維持されているというのも良いわね」
「素敵なお話ね」
クラウディアも笑顔を見せる。アドリアーナ姫は概要を知っていてもまだ読んでいないようなので具体的な内容への言及は避けるが……島の固有の種族で、飛べない鳥人の種族だったな。島を取り巻く環境への依存度が高いから、今も島を出ることなく平和に暮らしているそうだ。
飛べない鳥人族か。マギアペンギンは海鳥の魔物だからまた違うのだろう。
キーウィのような感じなのか、カカポのような感じなのか。見た目の細かいところまでは分からないが、結構丸みを帯びた姿をしている、という話だ。羽が手のように発達しているのだとか……。
島から出ないということもあってあまり数は多くないらしいが……一度会って話をしてみたい種族でもあるな。ティール達とも友達になれそうな気がするし。
またグロウフォニカに行ったりした時に、交流する機会があれば、というところだな。アドリアーナ姫もステファニアと共にフォレスタニア城の蔵書を楽しんでくれているなら結構なことだ。
「ふふ。お城の図書館は良いですね。子供達がもう少し大きくなったら読み聞かせしたら楽しそうな本がたくさんあります」
「ん。シルヴァトリアへの旅でも本を持っていくのもありかも知れない」
グレイスの言葉にシーラが同意する。
「いいかもね。移動中は高空で海の上を飛んでいるし、時間が余ったりする場面も出てくるかも知れない。実際に活用するしないに関わらず、本があれば選択肢も増えるから」
シリウス号からの景色は良いものだが、空からの景色をずっと見ているというのも何だし、選択肢はあった方がいい。塔で宿泊したときに眠るまでであるとか、魔道具を使えば客室全体へ音声を届けたりもできる。
「みんなで面白そうな本を見繕うというのも良さそうですね」
「楽しそうね。内容を知っていれば合わせて音楽を奏でるというのもできそうだわ」
エレナの言葉に肩を震わせて応じるイルムヒルトである。シーラもイルムヒルトも孤児院の面々との交流は楽しみにしているようだからな。読み聞かせにしても自分達で肉体的に無理することなく歓待に参加できるし、二人としても結構乗り気なようだ。
そんな話が出たこともあって、書庫に足を運んで、みんなで一緒に読み聞かせ用の本を探したりといった時間を過ごさせてもらった。
折角ならシルヴァトリアへの理解が深められるようなものが良い、というわけで、シルヴァトリアに絡んだ民話、童話であるとか、その辺を中心に探す。
「テフラ様のお話もありますね」
「山で遭難した冒険者達を洞窟に案内して暖を取らせた……と。本人もそんなこともあったって言ってたね」
にこにこしながらアシュレイがテフラに関する話が収録されている民話の本を持ってきた。当人の口から聞いたことのある話が昔話として本に纏められているというのは中々に面白いというか。ジルボルト侯爵領の人達に敬われているのも分かる。昔から人に友好的な精霊だったからな。改めて、ザディアスを倒して関係の修復ができたのは良かったと、そんな風に思う。
テフラに実際に顔合わせできるということも含めて、読み聞かせる話の候補としておくのは良さそうだな。