番外1529 孤児院との約束
コルネリウスの誕生を喜ぶ光景を眺めつつフォブレスター侯爵領で食事をする。誕生を祝うパーティーの意図もあるので、祝福をしつつも俺達ものんびりと楽しませてもらった。
アルバートも俺やメルヴィン王やフォブレスター侯爵夫妻と談笑したり、楽しそうにしているという印象だ。途中、一通りの仕事を終えて戻ってきたルシールからオフィーリアが食事を済ませてから眠りについたという話を聞いて、オフィーリアとコルネリウスの様子を見に行ったりもしていたが……ふむ。
「その様子だと問題はなかったみたいだね」
笑顔で戻ってきたアルバートに言うと、嬉しそうな笑顔で応じる。
「うん。よく眠っているようだったけれど……表情がすごく安心したみたいでね。コルネリウスも、落ち着いていてね。ロゼッタ先生とルシール先生達が交代で見ていてくれるから任せてくれって。僕も、安心したよ」
フォブレスター侯爵家お抱えの医師や使用人も加わって、誰かは常駐して細やかに様子を見ていくとのことであるから、確かにそこは安心だろう。
オフィーリアやコルネリウスの様子は良いものだった、というのがアルバートの様子からも窺える。アルバートは人当たりが良くて穏やかだし面倒見も良いが、そういう性格なので人にあまり弱音を言ったりしないからな。
今は問題も解決している印象があるけれど、少し前は身の回りのことで心配事も多かっただろう。それだけにこうやって幸せそうにしているアルバートを見ると、俺としても良かったと思う部分が大きい。マルレーンも同じような想いがあるのか、アルバートを見て優しそうに目を細めていた。
今まで守ろうとしてくれたことへの感謝もあるだろうし、今の様子を見て喜んでいる部分もあるだろう。
メルヴィン王やフォブレスター侯爵夫妻、ステファニアも微笑ましそうな表情で……ローズマリーも羽扇で表情を隠しつつも静かに頷いていた。うん……。いい事だな。
「いいものですな。孫というのは」
「うむ。余も引退後の生活を楽しみにしておってな」
フォブレスター侯爵の言葉にメルヴィン王も笑顔で応じて、孫の話題で盛り上がりを見せていた。
そうして、フォブレスター侯爵家での祝福の時間はのんびりと過ぎていった。料理もこの日のためにと用意されていた食材を使ったもので、かなり凝っていたしな。領民達に振る舞われた料理や酒も評判が良かったのは中継映像で見ていればわかったし。
タームウィルズやフォレスタニアでも、コルネリウスの誕生はかなり盛り上がったようで、街全体が祝福ムードに包まれ、人の往来もかなり増えていたようだ。
「良い事だね。私は直接顔を見に行けなかったが、復調して子供達と一緒に動けるようになったら会えるだろうし、その日を楽しみにしている」
王城への護衛ということでメルヴィン王と共に王城に向かい、記憶媒体も届けたが……ジョサイア王子はその映像を見て、そんな風に言っていた。コルネリウスだけでなく、フォブレスター侯爵家での宴会や街中の様子も記録しているからな。そうした映像を見て、ジョサイア王子も微笑ましそうにしていたな。
ともあれ、ジョサイア王子とフラヴィア嬢の結婚式や戴冠式、それに伴ってのメルヴィン王の引退などはアルバート達が戻ってきて以降ということになるかな。
「僕も楽しみですね。まだあまり無理はさせられませんが、みんなも復調して、子供達とも一緒に外出できるようになってきましたし」
「いい事だね。妹達も元気そうだし、私としても嬉しい」
ジョサイア王子は俺の言葉に頷く。シーラも復調し、カミラとヴェルナーももう少し待てば動けるようになるしな。孤児院の面々を招待するという話とフォブレスター侯爵家でしていたところ、シルヴァトリアに向かうという話を合わせて、孤児院の面々をシルヴァトリアに招待してはどうか、という話をエベルバート王から提案されたのが昨日のことだ。
みんな祝福の言葉を伝えてくれていたので、サンドラ院長達にも連絡は取れたがその提案にはだいぶ喜んでいた。孤児院の子供達もかなり喜んでいた、との事で。
そうした話も伝えると、メルヴィン王とジョサイア王子は明るい笑みを見せる。
「良いのではないかな。孤児院の子らも、シルヴァトリアに良い印象を抱くであろうし」
「次世代の、両国の友好関係にも繋がりますね」
そう言って頷きあう二人である。孤児院から出た後のことを考えるならな。
シルヴァトリアに良い印象を持ってくれていたら、各々でその話も広げてくれるだろう。友好や親善に繋がるというのは実際そうなので、俺としてもシルヴァトリアにというのは良い話だと思っている。
「僕としてもそうした親善に繋がる部分があると思っています。七家の長老達も歓迎すると仰ってくださっていますし。ついては、シリウス号でシルヴァトリアに向かうのが良いのかなと」
孤児院の子供達としても、ただ転移門で移動するよりはシリウス号に乗って旅情気分を味わえた方が楽しいのではないだろうか。シルヴァトリアに向かうにしても、シリウス号ならそれほど移動時間も長くなく、負担も少ないからみんなや子供達も安心だし。
「うむ。では、少しの間留守にするということになるかな」
「人がいない間の孤児院周辺の警備は任せてもらっても構わないよ。引率というか、職員面々も招待する事になるんだよね?」
「ありがとうございます。そうですね。シーラとイルムヒルトが繋いでくれた縁ですから」
シーラとイルムヒルトを庇護して独り立ちまで周囲で見守ってくれていたのは、サンドラ院長を始めとした職員達である。子供誕生の祝いであり、こちらからの返礼でもあるから、当然職員達も招待して同行することになるだろう。
孤児院を留守にするなら確かに警備は必要になるから、それをジョサイア王子が手配してくれるというのなら諸々安心である。
お礼を言うとジョサイア王子も笑顔で応じていた。
というわけで王城への見送りと共に記録媒体を見せてから帰途についた。道中孤児院にも顔を出して、メルヴィン王やジョサイア王子との話をサンドラ院長達にも伝えていく。シリウス号で一緒に行く話もそうだが、直接伝えに行った方がシルヴァトリアに行くという話も現実味が増して子供達が喜ぶだろうと思っての事ではあるが、俺が顔を出してシルヴァトリア行きの話をすると、孤児院の子供達は歓声を上げたりハイタッチしたりして喜んでいた。うむ。
「――というわけで、警備の手配に関しては問題ありません。職員の皆さんも安心して同行していただけるかなと思います」
「それは、助かります。子供達は御覧の通りですが……皆もその話を聞けばきっと喜ぶことでしょう」
シリウス号に乗って移動する事。警備関連の事。進展した話を伝えるとサンドラ院長は笑顔を見せていた。
シルヴァトリアと孤児院の関係者を交えて、日程などを決めていきたい。歓待する側の都合もあるので、人数等もシルヴァトリア側に伝える必要があるか。それに関しては水晶板を交えて話をすればいいが。
「話し合いのお時間でしたら、夕方以降は都合がつくようにしておきましょう」
「わかりました。あまり遅くならなければ大丈夫ということでしょうか」
「そうですね。朝は早いので早めに就寝してしまいますが、ある程度は融通も利きますし、合わせることはできます」
エベルバート王や俺達の都合に合わせる、と。まあ、シルヴァトリアとは多少の時差もあるけれど、調整はそう難しいものでもあるまい。