番外1528 誕生と少し先の未来と
アルバートが隣の部屋に向かい、ややあって肉親や身内ということでマルレーン、ステファニアやローズマリー、侯爵夫妻といった面々がまず隣の部屋に呼ばれた。俺も循環錬気を行うので同席させてもらっているが、これはエリオットの時と同じだな。
朝になってからメルヴィン王もこちらに来るという話になっていて、城からこちらに向かっている途中であったりする。予定日当日であったならメルヴィン王も同行できたのだが、二日空いたからな。
それはそれとして記憶媒体にも子供の顔を記録するようだけれど。
「本当は顔を見せてあげたい人も、もっともっといるんだけれどね。無理はさせられないから」
「ふふ……。アルの気持ちは理解できますわ」
アルバートとオフィーリアはそう言って笑みを向け合う。そんなオフィーリアは……子供をそっと腕に抱いていた。
「髪の色はアルバートに似てるね」
「うん。そうみたいだ」
「顔だちもどことなくアル似かも知れませんわね」
にこにこしながら頷くアルバートとオフィーリアである。二人とも子供が可愛くて仕方がないといった印象だな。うむ。
「元気な男の子ですよ」
「おお。男の子か。しかし何とも……可愛らしいものだ」
「孫を溺愛するという気持ちもわかりますねえ」
フォブレスター侯爵と侯爵夫人が子供を見て相好を崩していた。侯爵夫人は柔らかい印象の人物だな。オフィーリアに少し似ていると思うのでやはり親子なのだろう。
「これは、メルヴィン陛下」
そこに丁度メルヴィン王もやってきて、侯爵家の使用人に案内されてくる。メルヴィン王も挨拶は省略して、気を遣わずとも大丈夫と伝え、そうして子供を見てから言う。
「おお、やや遅れてしまったが……これはまた、何とも可愛いものだな」
「ありがとうございます、父上」
「ちょうど先程ですので、良い頃合いではないかと」
ステファニアが笑顔で伝え、マルレーンもこくこくと頷く。メルヴィン王も「そうであったか」と応じて、うんうんと頷いていた。
「名前は……もう決まっているのかしら?」
「テオ君やエリオット伯爵に倣ってね」
子供の顔を見てローズマリーも羽扇の向こうで微笑みつつそう尋ねると、アルバートは笑って応じる。そうして、オフィーリアと顔を見合わせて頷きあい子供の方を見て、声を揃えて名前を教えてくれた。
「初めまして、コルネリウス」
「コルネリウス、これからよろしくお願いしますわ」
コルネリウスか。うん。いい名前だ。
「初めまして、コルネリウス」
俺達もアルバートに続いて、コルネリウスに挨拶をしていく。みんなが嬉しそうに挨拶をしている間にアルバートを交えてオフィーリア、コルネリウスとも循環錬気を進める。
オフィーリアは結構疲れている様子ではあるが、コルネリウス共々生命反応が強く、その辺は安心できるな。
「テオドール公にも、改めてお礼を言いますわ。祈りも循環錬気も、心強いものでした。今も……アルバートやコルネリウスに支えられていることを感じられます」
オフィーリアが言う。
「でしたら……良かったです。アルも、オフィーリアさんも、おめでとう」
「おめで、とう。本当に、良かった」
「うん……。ありがとう」
「こちらこそですわ」
俺とマルレーンがそうやって祝福の言葉を伝えると、喜びを噛みしめるようにアルバートがゆっくりと頷き、オフィーリアも穏やかに笑って、そんな答えが返ってくる。
循環錬気に時間を使っているということもあり、身内と肉親だけでなくアシュレイ達や工房の面々とも短時間ながら顔を合わせて挨拶ができた。
魔法生物達も少しだけ顔を覗かせていたが、アルバートが祈りについてお礼を伝えると、核やバイザーの奥を明滅させて嬉しそうに反応を示していた。
和やかな雰囲気のまま来訪した面々と少しだけ顔を合わせ、それからオフィーリアとコルネリウスを休ませるということで、循環錬気が終わったところでロゼッタ達が対応に動いてくれた。アルバート達も感謝の言葉を伝え、ロゼッタやルシールも穏やかに笑って応じる。
「オフィーリアもゆっくり休んでね。身体を休めたらまた後で話をしよう」
「ええ、アル。楽しみにしていますわ」
アルバートとオフィーリアは互いに少し名残惜しそうにしながらも、そう言葉を交わす。そうして後のことをロゼッタ達に任せて、部屋から退出したのであった。
待合室から移動し、みんなでお茶を飲みながら各所と中継で話をしたり、水晶板で街中の様子を見せてもらう。コルネリウス誕生に伴い、街中にも告知をするのでそれをみんなで見ようというわけだな。
タームウィルズやフォレスタニアでも中継で、誕生の報を伝えるために動いている最中である。
「コルネリウス……いい名前ね」
クラウディアが目を閉じながら微笑んで言うと、アルバートも「ありがとうございます」と応じていた。
二人で決めた名前という話だ。男女どちらの名前も考えていたそうである。
「男女両方考えるっていうのは俺もそうしたな。色々成長していくところや一緒の暮らしを想像していると楽しいからね」
「うん。オフィーリアも同じことを言ってたよ」
「ふっふ。わかる気がするな」
俺とアルバートの会話に、メルヴィン王も経験があるのか、少し肩を震わせて同意していた。そんなやり取りに国内外の面々も水晶板越しに微笑んでいたりする。
アルバートも映像媒体にコルネリウスを記録しているので、それを見せると、みんな笑顔になっていた。
そうしている内にも街中に誕生の報が伝わり、喜びと祝福の声も中継映像から聞こえてくる。
『おお、無事に誕生なさったのですか……!』
『おめでとうございます……!』
そう言ってくれる領民や行商人、冒険者といった面々。特に領民達はかなり喜んでいるという印象があるな。アルバートやオフィーリアが慕われているというのもあるが、少し遅れた分心配してくれていたのかも知れない。
「料理や酒は、昼には振る舞えるかと。昨日の時点で用意しておりましたからな」
フォブレスター侯爵がその様子を見つつ言う。アルバート王子に関することなので、料理に関してはタームウィルズやフォレスタニアでも準備を進めているが、まあ、俺達はフォブレスター侯爵領でそのまま料理をいただいていく、ということになっている。
「ん。いい事があると料理も美味しい」
シーラがこくんと首を縦に振りつつそう言って、イルムヒルトもくすくすと笑う。
少し時間も経って子供達も目を覚ましてきているな。グレイスもオリヴィアを腕に抱いて街中の様子を見せたり、楽しそうにしている。
エリオットとカミラもヴェルナーの様子を水晶板で見せてくれて『子供達同士で顔合わせできる日を楽しみにしています』とそんな風に言う。
カミラとヴェルナーについては経過を見守っている段階だな。シーラやイルムヒルトに続いて、そろそろ復調ではないかという頃合いであるから、ロゼッタやルシールのお墨付きをもらえれば、親子での外出もできるようになるだろう。
アルバート達はしばらくフォブレスター侯爵領に滞在しつつ復調を待つ形ではあるが、オフィーリアもコルネリウスも生命反応が力強くてこちらとしても色々安心できる。
そうして、アルバートやエリオット達を交えて、みんなで動けるようになったら、どこそこに遊びに行きたいとか集まりたいとか、そんな話をして盛り上がる。そうしている内に昼食も運ばれてきて、食欲をそそる香りが周囲に漂う。
オフィーリアやロゼッタ達のところにも既に料理が運ばれていて、食事をとったらゆっくり休むとのことだ。