番外1527 アルバートとオフィーリアへの想い
みんなからアルバートとオフィーリア、その子供へとむけられる想いを束ねて高めていく。日は落ちてしまったが、まだまだ眠るには早い時間ということもあって祈りの力はたくさん集まってくる。
向けられる想いとしては……そうだな。感謝や尊敬の念が多い。魔道具で助けられたこともそうだが、アルバートもオフィーリアも、ちょっとした親切をするということが多く、面倒見も良いので、そういうところで人から慕われるのだろう。
温かく見守るような想いは……メルヴィン王や冥府のエステル王妃のものだろう。ミレーネ王妃とグラディス王妃、フォブレスター侯爵夫妻もまた、そうした想いを向けてきて、アルバートやマルレーンを心配して見守っていたというのがわかる。
見守っていたというのなら、ペネロープもそうだ。アルバートやオフィーリアと共にマルレーンを護ろうとしていたけれど、そうした想いを向けているのはアルバートにもなのだから。けれどアルバートは自分で何とかしてしまおうとするし、自分でも何かに貢献したいと思う性格だからな。だから、アルバートを心配していたし、アルバートとマルレーンの隣で支えようとしているオフィーリアは応援していた、というような想いが伝わってくる。
ペネロープは……巫女頭だからな。集中力というか、祈りへの力の込め方が上手い。まっすぐ想いが向けられてくる。神殿の巫女達もペネロープと共に祈ってくれているな。マルレーンの兄やその結婚相手ということで心配と共に尊敬の念が強いようだ。この状況では心強いな。
タルコットからの感謝の想いもかなり強いものだな。アルバートに救われたのだと、先日話をしてくれた通り、命の恩人だと思っているのだろう。
「今までの祈りの場面でも温かい気持ちっていうのは感じたことがあるけれど。自分達に向けられると、こんなにも心強いものなんだね」
祈りの合間の休憩時に、アルバートが目を細めて言う。
「確かにね。祈りを向けてもらえて、想いを感じられるっていうのは安心できる」
みんなの時に俺もそうした想いは感じている。俺の言葉にみんなも微笑んで頷き、魔法生物達も核を明滅させたりして反応していた。
グレイス達も同じ状況で祈りの対象だったし、魔法生物達は自分への想いを対話の時に向けられているから、想像がつくところがあるのだろう。
そんなみんなも、アルバートとオフィーリアに感謝と心配の気持ちを向けている。普段工房や学舎で交流があるから想いも強いな。マルレーンもそうだ。かなり集中して祈りを捧げているのはやはり巫女としての経験があるからかな。
魔法生物達は……感謝の念が強い。役目を持って生まれてきたこと。自分の器を構築してくれたこと。今の環境。そうしたものを喜んでいるし、自分を作ってくれたことに感謝しているという印象だ。純粋さを感じるもので、それらは子供が親に向ける親愛に近いものかも知れないな。
工房の面々。国内外、各所からの祈りも。結界や各種設備、装備に施設、乗り物といった品々で色々アルバートと共に足跡を残してきた。
オフィーリアに向けられる知り合い達からの友情と領民達からの敬愛。
そういうところで感謝の気持ちを向けてくれたり、心配して無事を祈ってくれているという印象だ。
そういう沢山の人達の想いを束ね、高めていく。アルバートとオフィーリアの互いへの想い。子供への想いも感じられるな。
穏やかで優しい。夫婦仲は良いものなのだろうと感じられるし、子供が生まれても微笑ましい親子になるのだろうと思う。
そうした光景は……俺も見てみたいな。家族同士で一緒の時間を過ごす事が出来たら、それはきっと楽しい。
集まる沢山の想いを束ねてオフィーリアと子供に届けていく。
そうして力が高まる事に、子供達も自分が生まれた時のことを思い出すのかも知れない。楽しそうに声を上げて喜んだり、周囲を見回してにっこり笑ったりといった反応が見られた。いいことだな。
長時間になる可能性を想定しているということもあり、みんなで合間に休憩を挟みつつ祈りを行う、というのは今まで通りだ。特にみんなは復調したとはいえ、まだ無理はしない方がいいだろう。
「みんなの支援も頑張ります……!」
「それが結果的にオフィーリア様への支援につながりますからね」
アシュレイやエレナはそんな風に言って気合を入れたりしていたが。
フォブレスター侯爵家の使用人達も夕食や夜食、飲み物を持ってきてくれたりして、待合室で祈りや休憩と雑談を交えつつの時間が過ぎていく。
アルバートやマルレーンはかなり祈りを真剣にしているという印象があるな。俺も祈りの力を高められるならと思うので休憩を挟みつつ継続していくつもりではあるが、無理はしないようにそれとなく二人のことは見ていきたい。
みんなにもきちんと休むように言うと頷いて応じる。
「子供達と一緒に早めに就寝しておいて……早めに起きてまた祈るというのが良いのかも知れません」
「ん。ちゃんと身体を休めつつ交代にもなる」
グレイスが言うと、シーラが良い案だというように同意していた。
そうだな。確かに。祈り自体は東国や魔界、冥府の面々も協力してくれているので途切れるということはないし。
みんなもそれに賛成して、頃合いを見て入浴したりしつつ、先に子供達を連れて就寝となった。マルレーンは一晩ぐらいなら頑張りたいということで、休憩を挟んだり魔道具で体力の補助をしたりしながらもずっと起きているという選択をしたが。
その辺はアルバートも一緒だし、魔法生物達はこういう時強いな。
「私達は不眠不休で祈りもできますからね。お休み中の祈りは任せてください」
「オフィーリアは生まれた経緯を踏まえて友達になろうと言ってくれたな。作ってくれたこと。迎えてくれたことは、とても嬉しかった」
ドリスコル公爵領から駆けつけてくれたライブラや、マクスウェルがみんなにそんな風に伝えたりして。魔法生物達の慕うような感謝の想いも強いものだから、ありがたいな。
「私達も工房で殿下と一緒に働いている面々として、負けてはいられませんね」
「頑張っていきたいところですね……!」
ビオラやコマチが魔法生物達の反応を見て、気合を入れて頷きあっていた。
そうしてみんなが休憩したり、就寝したりして夜が更けていく。
アルバートやフォブレスター侯爵とお茶を飲みながら世間話や思い出話をしたり、魔法生物達にも交代で魔力補給をしたりしつつも祈りを継続して行っていった。
やがて空が白みだし、夜が明ける。眠りから目覚めてきたみんなも、改めて祈りに参加しているな。子供達はまだ眠ったままであったりするが、祈りの力が満ちているからか、安らかな寝顔で良いことである。
そんな寝顔を見て満足げに頷いたイルムヒルトが「それじゃあ祈りを頑張っていくわ……!」と気合を入れていたり、ローズマリーがその言葉に羽扇の向こうで静かに頷いていたりと、朝になってまた賑やかになってくる。ステファニアも子供達の寝顔を確認してから満足そうに祈りに戻っている。
交代でフォブレスター侯爵の用意してくれた朝食をとりつつ更に祈りを行っていると……不意に子供の泣き声が耳に飛び込んできた。みんなで顔を上げ、顔を見合わせあう。
「生まれました……! 母子共に元気ですよ!」
部屋から顔を出したルシールの第一声に、みんなが快哉の声を上げた。アルバートも安堵と喜びの混ざった笑顔で声を上げる。
「ああ、よかった……! オフィーリア……!」
「うん、おめでとう、アル。本当に良かった……!」
そう言うと、アルバートはこちらにやってきて、俺の手を取る。
「うん……。うんッ。ありがとうテオ君……!」
そんなアルバートにみんなも祝福の言葉を伝えたり、拍手をしたり。
「嬉しい、な。すごく」
と、マルレーンが鈴の鳴るような声で喜びの言葉を口にする。そうしている内に処置も終わり、アルバートが部屋に走っていくのであった。