番外1524 領民達の期待と共に
フォブレスター侯爵領の滞在に合わせ何度か足を運ぶ事になるという事で侯爵への挨拶をしに来たわけだが……まあ、アルバート達に関しては心配いらない、というのは分かっていた事ではある。
フォブレスター侯爵も元々アルバートの事情を知った上で支援していたという事もあり、元々俺より付き合いが長くて仲も良好だ。
「休暇という事ですが、必要だったらここにも設備はありますからな。殿下やテオドール公が必要だと判断なさったなら活用して下さい」
「ありがとうございます、お義父さん。オフィーリアとのんびり過ごそうと思っていますので一緒の時間を過ごす事が多くなるかとは思いますが、もしもの時に対応しやすいのは助かります」
「ふっふ。娘は果報者ですな」
と、そんなやり取りを交わす侯爵とアルバートである。お互い敬い合っているが、気心が知れているという雰囲気がある。
魔法技師としての腕を鈍らせない訓練もあるそうで。それについてはオフィーリアとの時間以外で少し行う、との事だ。
「少し細々とした魔力制御の訓練ですが、練習用の術式がありますからね。これは一人で設備無しでもできます。そんなに時間もかからないものですね」
「なるほど」
侯爵がそう応じると、タルコットも頷いていた。アルバートにその辺も教えてもらっているそうな。
「タルコット君も、アルバートと付き合いがあるのだから、領地を訪れる機会も今後増えるだろう。気軽に遊びに来てくれて構わない」
「ありがとうございます」
タルコットが律儀に一礼すると、フォブレスター侯爵は柔和な笑みを見せる。
「真面目に研鑽を積んでいるという話は聞いている。将来有望な若者を見ているのは楽しいからね。個人的にも応援しているよ」
そう言われたタルコットは、改めて深々とお辞儀をする。
「行動でそのお言葉に応えられるよう、精進します」
タルコットの返答にフォブレスター侯爵も穏やかに頷いていた。
こちらのやり取りにフォレストバード達や、フォレスタニアで中継を見ているみんなも和んでいる様子だ。
そうやってフォブレスター侯爵とお茶を飲みながら気軽に談笑してから、アルバートと共に直轄地の街中に少し出てくる、という事になった。
これについてはアルバートやオフィーリアが滞在している事を示しておく意味合いがあるな。
領民達としてもフォブレスター侯爵家の先々が安泰だというのを見られれば安心だろうし、領地を継ぐのがアルバートとオフィーリア、それから……生まれてくる子供ということになるから。
アルバートは様々な魔道具を作り上げ、先の対魔人戦においてもその仕事ぶりをメルヴィン王から功績として認められている。目立たないと言われていたのは少し前までの事。穏やかで思慮深いと実際のアルバートの人物像について情報が周知されている。
オフィーリアは現領主の娘であり、領民達と面識があって気心が知れているというのがある。アシュレイやマルレーン、ロミーナやペトラと、学舎でも親切で慕われているという事から分かる通り、領地でも人望があるな。
そしてそんな夫婦の間にもうすぐ子供が誕生するともなれば、領地の盛り上がりも相当なものになるだろう。
フォブレスター侯爵領で過ごすという二人の選択も、領民に喜んで貰おうという気遣いに他ならないしな。
というわけでアルバートと共に街中へと向かうこととなった。護衛に関しては引き続きフォレストバードが行ってくれる。タルコットも一緒だな。
フォブレスター侯爵によれば、想像している通りお祝いムードになっていて、かなり人通りも多い状態だと言う。
そこにアルバートが歩いていくと流石に騒ぎになり過ぎてしまうだろうという事で、フォブレスター侯爵家の家紋が入った馬車に乗っての移動である。徒歩と違ってこれならば大事になることはないだろう。
窓が大きめで乗ったままでも顔が見せられる。俺とアルバートはそのままそこから顔を見せていく、というわけだな。
フォブレスター侯爵家の馬車という事で、注目を浴びている。ゆっくりとした動きに合わせてフォレストバード達が周囲を警戒。フィッツが御者役。ロビンとモニカが周囲の警戒。ルシアンとタルコットが馬車に同乗といった具合だ。
タルコットは護衛役名目での同行ではないけれど、当人はフォレストバードに「邪魔にならなければ手伝っても良いでしょうか?」と尋ねていた。
「警備の経験も豊富みたいだし、問題ないんじゃないかしら?」
「ああ。同じ魔術師のルシアンなら即席でも動きを合わせやすいかも知れないな」
「うふふ。お任せをー」
モニカとフィッツの言葉に、そんな風にルシアンが笑う。
「それじゃあ決まりだな」
「では、よろしくお願いします」
ロビンの言葉に、笑って応じるタルコットである。
というわけでフォブレスター侯爵に笑顔で見送られて街中へと移動する。直轄地は……やはりかなり賑わっているな。
前回来た時よりも人通りが多いのは、直轄地に更に人が集まってきているからだろう。
侯爵家の家紋が入った馬車はやはり注目を受けるようで、窓からアルバートと一緒に笑顔を向けたり手を振ったりすると沿道の通行人達も気が付いて喜びの表情を浮かべていた。
「アルバート殿下とテオドール公が訪問なさっているとは聞いていたが」
「年長の青年がアルバート殿下ですな。タームウィルズでお目にかかった事があります」
冒険者風の人物が驚きの表情を浮かべ、話をしていた行商人が笑顔を見せる。
「オフィーリア様と並ぶところを想像すると絵になりそうな方ですな」
「穏やかそうな方で良かった」
と、概ね好意的な反応が多い印象だ。
「僕としてはこういう反応は少し気恥ずかしいね。あんまりこんな風な注目を浴びるのは慣れていないから」
そんな風に苦笑しているアルバートと、にこにこと笑っているマルレーンである。
気恥ずかしいと言いつつ、割とアルバートの対応に卒はないが。
対外的に目立たないように立ち回りつつ、ドワーフの親方達やビオラやミリアムと独自の人脈を築いていたアルバートだからな。人柄がいいので領民との関係構築の面でも心配いらなさそうだ。
「まあ、アルなら領民達と良い関係を築けそうだからその辺は安心かな」
そう言うとタルコットも大きく頷いて同意する。そんな言葉に「んー。そうしていきたいところだね」と笑うアルバートである。
そうして市場を眺めたり、少し店や露店に立ち寄ってお土産の買い物をしたりといった時間を過ごしたのであった。
さて。アルバートとオフィーリアはフォブレスター侯爵領に暫く滞在する事となった。俺もオルトランド伯爵領、フォブレスター侯爵領を定期的に訪問して循環錬気を行うといった具合だな。
ロゼッタやルシールが往診に行くのに合わせるような形で丁度良くなるから、それほど全体的な仕事が増えるというわけではないが。
カミラやオフィーリア、ヴェルナーや生まれてくるオフィーリアの子……母子の体調が落ち着くぐらいまでの定期的な継続を想定している。アルバートの休暇も同じぐらいの期間になるだろう。
「ステファニア様やローズマリー様と同じぐらいに復調してくれば、問題はないかと思っておりますよ」
というのがルシールの見解だな。アルバート達がタームウィルズに帰ってくる頃には母子共に出かける事もできるようになっているので、エリオットやアルバートと家族ぐるみで集まったりといった時間も作れるようになるのではないだろうか。
ともあれ、オフィーリアの予定日ももうすぐだ。俺も俺のすべきことをしっかりとこなしていこうと思う。それがアルバートやオフィーリアの安心に繋がるならば、俺としても願ったりかなったりだからな。




