番外1518 邸宅の護りを
「やあ、テオ君。手伝いにきたよ」
「ああ。助かるよ」
敷地を囲う塀を作っていると、アルバートやセラフィナも合流してくる。魔道具やミスリル銀線を敷設したりといった処置を施すので手伝いに来てくれた、というわけだ。セラフィナは安全確認の役回りだな。
門や塀の構造強化。対魔法、対呪法関連の防御結界等々、必要な術式を外壁に施していく。外壁部分に魔石粉を融合させて組みこみ、ミスリル銀線を敷設して制御用の魔石に接続する。
仮に魔石が破壊されても外壁全体で術式を維持しているので防御能力は残る。魔石側が無事なら外壁がある程度崩されても迷宮側から魔力が供給されているので防御結界は展開し続ける。
その外壁自体も構造強化が施されているし、相当破壊が進まないと機能停止しない。全体で強固な防御として機能するわけだな。
「制御部となる魔石は邸宅の地下部分に配置される形ですね。複数の方向からミスリル銀線を接続しているので、一部の壁が崩れても接続は切れません」
メルヴィン王に防犯設備について説明していく。警備室と、邸宅地下と、双方に警備用の設備を作るが、連動しつつ独立した部分を残す事でセキュリティを高めるというわけだ。警備室には警報装置がつけられるし、警報も契約魔法と連動するので密かに侵入だとか目的を偽って立ち入ったり、警備の人員に成りすますというのも難しい。
ここから警備に穴を開けないよう魔法生物を配置したり、各所を水晶板でモニターできるようにしていく予定だ。
そうした構造の話をすると、フロートポッドで腰を落ち着けているメルヴィン王は、作業の様子を眺めつつ王妃達と共に笑みを浮かべる。
「よく考えられておるな」
「要人用の避難設備等も色々作ってきましたので、そうしたものの集大成という部分はありますね」
「安心感があって良い事です」
「境界公は実績が実績ですからね」
ミレーネ王妃やグラディス王妃も俺とメルヴィン王のやり取りに頷く。基礎はもう構築してあるので、外壁部分を仕上げたら、続いては柱等の建物の要となる部分、警備室と本宅の壁や屋根を作ってから内部構造を仕上げていく、という手順になるな。
これもやはり、周囲から内部構造がどうなっているか、構築する場面を見えないようにするという意図があっての事だ。資材を運び込んだりといった手間があるので、ある程度内部から造った方が楽ではあるのだが、これについては理由が理由だけに妥協できない部分ではあるな。
代わりに外観が先に出来上がるので、まず家の見た目を楽しんでもらえればというところだ。というわけで資材、魔石粉を運搬ゴーレムに運んで貰いながらそれらを光球の術式に溶かし、ミスリル銀線の束を張り巡らせて敷設作業も平行して進めていく。
見た目的には光球に資材が吸い込まれるように溶けて混ざり合い……光が通過した場所に再構築されて建物が延長されていく。運搬ゴーレム達が資材を切らさないように運んできてくれているので、結構スピーディーというか、どんどん造っていく事が可能だな。壁を一面作ったら次の一面へといった具合に建物を形成していく。
「ふっふ。やはりテオドールの魔法建築は見ていて楽しいものだな」
そんな作業風景を見て肩を震わせるメルヴィン王である。楽しんで貰えているなら何よりだ。そうして柱、壁や屋根を構築したら次は地下部分等の構築だ。ここは緊急時に避難する部屋や通路を構築したり、あちこちに敷設したミスリル銀線と繋いで制御用の魔石を配置したりする場所になっているので結構重要な部分だな。
避難用の部屋は脱出用の通路と繋がる他、寝室、トイレ、厨房、風呂と、一通りの生活用設備が揃っている。避難しつつ時間を稼ぐ事が可能だし、経路の安全確保ができているなら脱出用通路を使えばいい。
外部の様子を見たり通信を行ったりといった各種魔道具は、入居までに用意する形だな。家財道具の準備も同様だ。
そうやって地下部分を諸々構築したところでようやく地上の母屋部分に着手できる。部屋割りの壁を作り、メルヴィン王の生活空間、使用人達用の生活空間と設備、客室等々、諸々を構築していく。
この辺は以前の話し合いで使い勝手等も含めて検討しているからな。中々良いものになりそうである。
一階、二階、三階。書斎や書庫、屋根裏。温室に庭園。一つ一つ丁寧に構築していく。
前の段階で迷宮のシステムで構築していた給水設備等を機能するようにしたりといった作業も進める。
「ふむ。内部を見ても作業の邪魔にはならぬかな?」
「出来上がっている場所は大丈夫ですよ。作業も終わっていますし安全確認も平行してできていますから」
「うん。今できているところは頑丈で、安心だと思う」
メルヴィン王の言葉に応じると、セラフィナもにっこり笑って太鼓判を押してくれた。外壁も出来上がっていて周囲も武官達が警備しているので安全確保に関しては問題あるまい。
内部を見て回る、といってもまだ家財道具、調度品等も入っていないのでやや殺風景ではあるのだが、それでもここにどんな家具が入れば見た目が良いだとか、調度品もこんなものを置くのが良いだとか、メルヴィン王は王妃達と楽しそうに話をしていた。
想像を膨らませてあれこれと先々の話をするだけでも楽しいものではあるな。
王城は迷宮が構築したものだから建築家が関わってはいないが、内部の家財道具などは王室御用達の家具職人らがいるので、そうした面々に発注がかけられているそうな。メルヴィン王やグラディス王妃、ミレーネ王妃の好みを知った上で仕上げてくるのだろうし、そういう点も含めて尚更楽しいのだろう。
バルコニーからの眺めは家財道具が入っていなくても変わらないからな。そうした場所から眺望を堪能したりと、メルヴィン王達は邸宅見学をかなり満喫していたようだ。
仮設置していた警備用設備を解体し、正式な警備用設備に作り直したり、温室や船着き場等の母屋部分以外も進めていき……やがて魔法建築で行う作業が一通り完了する。
温室を覆うガラス部分等も構造強化で強度を上げていたり、船着き場も柵等を設けたりしているから安全性は高いな。
「後から不便なら手を加えるという事もできますが……現時点でも何か気付いた点があれば手直ししておきますよ」
「ふむ。模型通りであるし、家財道具を配置して寛いだりしているところを想像すると、思っていた以上に過ごしやすそうで考えられている、とは感じるな」
メルヴィン王は頷いてそう応じてくれる。とりあえずは問題ない、と。まあ、魔法建築だし、実際に住んでみた後で必要に応じてバージョンアップする感覚で改良していけば良いだろう。現時点でも割と利便性を考えている部分があるしな。
実際に暮らし出すのは引退後なのでまだ十分に時間もある。後で使用人達にも来て貰い、仕事で関わる部分を見てもらって利便性のチェックをしてもらおう。彼らの意見も取り入れているが、実際に見たら何かに気付いたりというのは有り得るからな。
今回は避難経路などを作る関係で防犯上見学に参加していない、これは国王付の使用人達の信用度の問題ではなく……彼らが隠し通路や防犯設備の構造を知ってしまう事で狙われるのを避けるためではある。といってもそんな切羽詰まった状況ではないので、念のための措置ではあるのだが。
ともあれ、邸宅に家具類が入れば色々と見た目にも良い感じに落ち着くだろうし、現状でも外観は上品で明るい雰囲気の洋館といった印象で湖や遠景、城とマッチしていて良い仕上がりなので、人が住んで賑やかになっていくのは俺としても楽しみだな。




