番外1515 白の雷光
魔石に術式を刻み、それを槍と鎧に組み込んでいく。解呪前のテスディロスの変身は黒を基調とした流線型の――どこか有機的なデザインの鎧姿で、言うなれば魔戦士、魔剣士といった印象だった。実際に好んで使うのは槍なので剣士ではないけれど。
解呪後の専用装備については元々のデザインやシルエットを残しつつ、白を基調としたデザインになっている。例えるなら前の面影を残した聖騎士だとかそういった真逆の方向性になっているが……まあ、テスディロスは元々真面目な性格だしな。解呪前の変身も、解呪後の専用装備も、どちらも似合っているとは思う。
「よし……。これで装備品も完成だね」
仕事を終えたアルバートがビオラ達と頷き合う。テスディロスの状態に合わせて調整し、俺が書きつけた術式をアルバートが魔石に刻み、それをビオラやエルハーム姫、コマチやタルコットやシンディーといった職人、魔法技師見習いの面々と共に装備品に組み込む、というわけだ。
そうした作業を経て完成した装備品を見て、テスディロスが「おお……」と声を漏らす。
「前から思っていたが、やはり魔石が組みこまれると印象というか、雰囲気が変わるな」
「見た目は大きく変わるわけではないのに不思議なものですな」
テスディロスの感想にウィンベルグが頷きつつ応じる。
「魔道具にとっては心臓部というか、魂が入ったみたいなものだからね」
アルバートが言う。
「魔石に応じた性質を帯びたり、しっかりとした魔力を纏うから、そこで印象が変わってくるっていうのはありそうだ」
俺がその言葉を首肯しつつそう答えると、アルバートも朗らかな笑みを見せた。というわけで早速完成した専用装備を身に着けて確認作業をしていこう、という事になった。
データ収集はオルディア達が先行してくれた関係でかなり進んでいるからな。事前に推定した通りになっているか確認していくという側面が強い。予測データと違っていたらそれはそれで調べる意義の大きなものになるし。今回は……そうだな。最後の解呪で起こった現象の影響があるかも知れないので細かく見ていきたいところではあるが。
テスディロスも頷き、早速鎧を身に着けてくるという事で隣の部屋へと向かう。タルコットも「鎧の装着を手伝おう」と言って、ウィンベルグと共にその後を追った。
専用装備品の確認作業ということで、城に滞在している面々も興味があるのか見学に来ているな。
「テスディロス殿が完成した装備品を身に着けた雄姿は見ておきたいところですね。国元に帰った時に、皆への良いお土産話になります」
と、イスタニアの少年王こと、ギデオン王がウェズリーと共にそう言って笑みを見せていたりする。テスディロス達が俺と一緒に各地で解決した事件もあったりするので、そうした顔触れも興味津々といった様子ではあるかな。
やがてテスディロスも装備品に着替えて戻ってくる。白い鎧を纏い、槍を携えたその姿に見学に来ている面々からも歓声が起こる。
「完成した装備を身に着けていると、確かに違うな」
「ご本人の研ぎ澄まされた魔力と相まってのものでしょうね。装備品と調和が取れていると感じられるのは術式と技術力の賜物でしょうね。これは見事なものです」
ギメル族のラプシェムの言葉に、巫女頭のエフィレトが感心したような面持ちで同意する。
そんなエフィレト達の感想を肯定するようにテスディロスも口を開く。
「鎧を身に着け、槍を持っているというのに身体が軽く感じるし、非常に動きやすい。まだ確認作業が終わったわけではないが、これほどの物を作って貰えた事に、感謝を伝えたい」
そう言って俺や工房の面々に一礼をしてくるテスディロスだ。
「私達の装備も使いやすいですからね」
「そうですな。テオドール公や工房の皆様のお仕事ですからな」
オルディアが言うとオズグリーヴも同意するように静かに微笑みつつ、エスナトゥーラ達と共にテスディロスに続くように一礼する。
「ふふ。こうして喜んで頂けるのは職人として冥利に尽きますね」
ビオラがそう言って、エルハーム姫やコマチと笑顔で頷き合う。
「まだ確認作業が終わっていないから気が早いけれど、僕も専用の装備品に関しては良い仕事ができたかなって、嬉しく思っているよ」
アルバートもそう言ってオフィーリアも微笑む。工房の面々と専用装備を作ってもらった面々とで和気藹々とした雰囲気で結構な事だ。
「俺としても喜んで貰えて嬉しいよ」
そう応じて、早速装備品を身に着けたテスディロスと共に、仕上がり具合の確認作業に移っていく。エフィレトの見立てもあったが、装備品の完成度は総じてかなり高いという印象だからな。
普段は造船所で行ってきた確認作業であるが、計測に必要な距離、高さ等の空間は把握しているし、フォレスタニア城でも十分に確保できる。
後はゴーレム達を相手に計測を進めていく、と。飛行術を使っての速度の計測や挙動の確認等をしたりゴーレムを破壊してその威力を調べたりといった具合だ。
雷を纏って凄まじい速度で飛翔して、ゴーレムを粉砕する。装備品の試運転はテスディロスの能力と相まって相当な迫力だ。雷光のような軌道と速度で駆け抜けながら振るわれた槍が中空に火花を残し、すれ違いざまに攻撃を受けたゴーレム達が貫かれ、両断される。
「いやはや、素晴らしいものだな」
「以前にもテスディロス殿の動きは見せてもらったが、解呪前と遜色ないように思う」
レアンドル王が言うと、ファリード王が顎に手をやって思案しながら応じる。
テスディロスもゴーレムを粉砕して降りてくると満足そうに頷く。
「実に動きやすい。解呪後の感覚に慣れればもっといけそうだ」
「それは何より」
と、俺も笑って応じる。アルバート達も嬉しそうだな。最後の解呪の余波による上昇効果も……やはり一晩経って落ち着いたようで、結構正確なデータ収集ができたように思う。逆に言うとああした人達の祈りや想いから恩恵を得られるという事で、場合によってはバフのように機能させられるという事でもあるが。
ともあれテスディロス自身の体調、装備品の仕上がり具合、共に問題は無さそうだ。
「いや、問題無さそうで良かった。専用装備品の転送魔道具も実用化できそうかな?」
「そうだね。転送の際に干渉しそうな物を身に付けていた場合、転送されてくる装備品と引き換えに入れ替えるって言うのはできそうだ」
アルバートとそのまま、魔道具に関する話もする。以前から少し話をして計画を練っていた、専用装備品の転送魔道具に関する話だな。
契約魔法で使用者と装備品をペアリング。迷宮に使われている技術や呪法の応用で、条件に抵触しそうな場合は入れ替え転送、といった具合だ。
「となると、そっちも問題なく開発が進められそうだね」
「そうだね。どんな動作や体勢でも転送が安全にできるように詰めたら、術式を渡す事になるかな。まあ……今は色々予定が詰まっているから、それも加味しつつ開発を進めるよ」
直近ではオフィーリアの予定日だな。これはアルバート自身にも関わる事だし、その辺の事情は考えながら仕事を進めたい。俺のそんな言葉に、アルバートとオフィーリアは笑顔で頷いている。
アルバートの事が落ち着いても、メルヴィン王とデボニス大公の引退とジョサイア王子の戴冠、フラヴィア嬢との結婚等、ヴェルドガル王国として結構大きなイベントが控えていたりするしな。
装備品の転送魔道具に関しても急ぎというわけではないし、ゆっくりと進めていけば大丈夫だろう。




