番外1513 現世と冥府の間で
「おめでとうございます!」
「かいじゅおめでとう!」
街角を移動すれば、そんな声をあちこちからかけてもらえる。子供達の舌足らずな声での祝福の言葉に、みんなも笑顔になっている。
面白いのは解呪の時に広がった清浄な波や集まってきた想いの力の影響もあってか、精霊達が活性化している事だ。前に小さな精霊達が見えるようになった時程、直接的な影響があったわけではないのだが、小さな精霊達がうっすらと肉眼で見えるようになっていて、見た目にも結構賑やかなものである。
小さな精霊達も祝福してくれているようで。高位精霊の力も相まって周囲にきらきらとした光を散らしてくれたりと……何か花びらや紙吹雪を撒かれているといったような風情があるな。
祝福してくれた子供達の周囲を舞うように動いて一緒ににこにことしていたりして。そんな精霊達の反応に氏族達もまた笑顔を見せる。
相手が元魔人という事もあって恐る恐る見に来た、という者達もいるようだが、氏族達は女性や子供の比率が高めで非戦闘員だった面々が多く、性格も素朴だからな。そうやって喜んでいるところを見て、若干気が抜けたというか、拍子抜けしたというような場面も見受けられた。
「かかっていた呪いが解かれたからかな……。ああやって無邪気に喜んでいるのは微笑ましく見える」
「ここだけでは何とも言えないのでしょうが、律儀なお辞儀を返しているところを見る限りは確かにそうですねぇ」
頷き合いながらそんな話をしている冒険者達と商人である。「境界公がなさることならば大丈夫そうですね」と言ってくれている人もいて……そうやって信用してくれているというのはありがたい。全部を汲み上げられているわけではないにしても、街の反応は色々と参考にさせてもらっているから、そうした想いや期待に応えられるようにきっちり進めていきたいところである。
さて。そうしてフォレスタニアを移動し、タームウィルズに出て神殿前広場に移動する。シリウス号も合わせるように広場にやってきて、広場に集まって祝福してくれる住民達の拍手を受けつつみんなで船に乗り込む。このまま甲板から解呪された姿を見せて街中を巡る。
小さな精霊達もシリウス号の周囲を固め、甲板の手摺に腰掛けて煌めきを周囲に撒いている。俺が別に演出等しなくても、あちこちできらきらと輝いているな。
ゆっくりと浮上して、大通りに沿うように低空を進んでいく。甲板の外縁部や周囲に氏族の面々も進んで、見物している人達にお辞儀をしたりしながらの巡回といった感じだ。まあ、氏族の面々は子供達も含めてみんな飛べるし、シリウス号も精霊達の祝福で覆われているので危険はないな。
そんな氏族や街の人達の様子を眺めつつ、ティアーズの運ぶ水晶板を通し、冥府の面々と話をする。
『賑やかで結構な事ね』
街中の人達も窓や屋上に顔を出して手を振ってくれたりと、明るく祝福してくれている。それを見て笑うのはルセリアージュだ。他のレイス達もその言葉に同意していた。ザルバッシュやギルムナバルといった面々も集まっているが、リネット達に限らず今回の事は良い事だろうと喜んでくれているようだ。
『我らに端を発する魔人達……全ての氏族の解呪が終わった、というのは間違いない』
『神格からの反応で言うとそうなるな』
ベリスティオの言葉に、ヴァルロスは頷いてから言葉を続ける。
『約束、というにはあまりに一方的な話だったが……あの時のやり取りからここまでしてくれた事には感謝している』
『そうだな。後始末を押しつけるような形になってしまったのは済まないと思っているが……現世で後を頼む事ができたのが、テオドールで良かったと、そう思っている』
そんな二人の言葉は……これまでの出来事を思い返すと色々と感慨深いものがあるな。
「俺も二人と話をしたから今こうしているというのはあるからね。感謝って言うのなら、それは俺の言葉でもある」
今の状況に落ち着いたのは、情勢や事情が後押ししてくれたところもあるけれど。それでもヴァルロスやベリスティオと交わしたやり取りがなければ、また今とは状況も違っていただろう。
俺としては――今の氏族との関係は歓迎している。少し前なら、こうして交流しているなんて考えもしなかっただろうし。だから……その事については俺からもはっきりと伝えておこう。
『あたしらも変わったが、あんたも結構変わったんじゃないか?』
「根っこの部分ではそんなに大きくは変わってないつもりなんだけどね」
『ふむ。テオドールと出会った時は……相対していて心が躍ったな』
リネットの言葉に応えると、ゼヴィオンもそんな風に言って頷いている。ルセリアージュはそんなゼヴィオンの反応に、楽しそうに肩を震わせているが。
『氏族達もだがテスディロスやウィンベルグも、すっきりとした様子でこちらとしても安心した』
「テオドールと話をして、すっきりした気持ちで前に進んでいけそうに思っています」
「氏族達の事も、このまま良い方向に進めていきたいところですな」
そんな言葉を交わすヴァルロスとテスディロス達である。
ともあれ、レイス達も喜んでくれているようでなによりだ。最後の解呪による感覚はレイス達も感知できたそうで……恐らくは独房組にも伝わっているだろう。独房は外部刺激が少ないだろうし、こうした事が独房組の面々にとっても良い影響があればと、そう思う。
「いや、凄い事だね。魔人達との長い戦いの終止符……というよりは一段落、なんだっけ」
そんな風に言ってくれるのは、ダリルだ。街中の巡回も終わり、フォレスタニア城に集まってお祝いの状況を中継映像で見ながら、祝いに集まってくれたみんなとのんびり談笑しながら過ごすというわけだ。
父さんやダリル、ネシャート嬢もタームウィルズに訪問してきているので、こうして話をさせてもらっている。
まあ、まだ公的な席ではないのでこうしてダリルとも貴族としてではなく、友人として肩の力を抜いてやり取りできるな。
「そうだね。これからもずっと継続していく必要のある事だから、一段落という風には言っているよ。結果として終止符になってくれるならこれ以上はないし、祝福してくれるのは嬉しいね」
そうダリルに答えると、ダリルも笑顔で頷く。父さんやネシャート嬢もそんなダリルとの会話に目を細めていたりする。
そうこうしていると、街中でも酒と料理の配布が始まる。フォレスタニア城でもみんなの集まっている広間に料理が運ばれてきたので、俺も一旦みんなとの交流を切り上げ、宴席前の口上を述べさせてもらう。
「無事に解呪儀式を終え、こうして氏族の皆が喜んでいる姿を見たり沢山の方々に祝福して頂けることを、嬉しく思っています。このまま新しい門出をお祝いする時間を共に過ごす事ができれば望外に存じます」
そう言うと、会場となっている広間に集まったみんなが拍手で応じてくれる。酒杯を掲げて「新たな門出に」と乾杯の音頭を取ると、みんなもそれに続く。そうしてフォレスタニア城での祝いの宴が始まった。
ドミニクとユスティアが楽師役は任せて欲しいと歌声や演奏を披露してくれる。リン王女やユラ、それにユイやリヴェイラといった面々も後に続きたいと準備を整えている。ハーピー族やセイレーン達もお祝いの宴ならと楽器を持ち込んでいたりして、歌と演奏は大分盛り上がりそうな雰囲気である。
イルムヒルトは安静にしているとの事だが、少し身体でリズムをとったりしてうずうずしているのが分かるな。歌や演奏、踊りに興味を持っている氏族達もいるので交流の時間にもなりそうで結構な事だ。




