番外1505 境界公と開墾作業
まずは俺自身の仕事よりもみんなの仕事の確認だな。ミシェルと共にそれぞれの班の開墾作業について触れていく。
「切り株は魔力で形成した斧なりを打ち込み、切り分けて掘り出しやすくしてから……いや、切り株自体に闘気を纏わせて引き抜けば問題ない、か?」
「そうだな……。闘気を流した時点で形の把握もできるし、切り株自体を頑強にできるから根が残るという事もあるまい。何かに絡んでいたり、引き抜きにくい形状であるなら、把握した上で切り分けて作業を続ければいいしな」
「なるほど。それは確かに」
テスディロスとゼルベルがそんな風に言葉を交わしつつ作戦を練っている。切り株自体を闘気で強化、形状把握して作業を行う、というのは上手いやり方だな。
「問題はないと思います。魔力の使い方にしても土や植物の状態を変化させているわけではありませんし、闘気が農地に影響を及ぼすという話も……寡聞にして聞いたことがありません」
ミシェルはテスディロス達のやり取りを受けて、真剣な表情でそう応じる。
「僕も闘気を活用した農作業で、特に問題が生じたという話は聞いたことがありません。原理的にも大丈夫でしょう」
俺からも自分の意見を伝えておく。
一応、こうして開墾作業を行う前に迷宮核で魔力や闘気、術式による影響についても思いつくところをシミュレートしているが、土や植物への干渉をしなければどちらも大丈夫だろうという結論だ。木魔法によるゴーレム化も問題ないしな。
ミシェルや俺の見解に、ハーゲンや開拓村の住民達も納得してくれているようで、感心したように頷いていた。
雑草や石を除く方法はまあ、割と地道な作業ではあるが、そこは氏族達もいるし、人手が足りている事を活かしていけば問題はあるまい。
雑草を抜くにしても闘気強化で根こそぎというのは有効だろう。抜いた雑草は集めてもらって、種や根の切れ端から発芽や再生しないように術式で処理を施しつつ、発酵魔法で畑にすき込む肥料にしてしまうというのが良いと思われる。
石は魔力を固めた道具で掘り返して集めて貰えば……後はそれを合成、変形させてブロックにしておけば素材にもできるな。元の大きさや形状に限らず自由な形にできるので開拓村の都合の良いように構築し直せばいいし。
「――というわけで、抜いた雑草と掘り返した石は、どこかに集めて貰えればと思う」
「分かりました」
オルディアが笑顔で頷く。思いがけずに素材が手に入るという事で開拓村の面々も「おお……」と顔を見合わせて喜んでくれているようだ。
畑を作るのに際してどのぐらい掘り返せばいいのか、等はミシェルが氏族達に説明していた。真面目に耳を傾けている氏族達だ。
「水作成の魔道具や浄化の魔道具、それに簡易の厠も設置したよ。喉が渇いたり、休憩したりする時は活用して欲しい。水分補給も大事だからね」
アルバートが笑顔で伝える。というわけで作戦も纏まったところでみんなが動いていく。見張り班は早速周囲を飛行しつつ警戒態勢に移行する。
氏族達は野生の魔物相手に食事と防衛を兼ねた生活をしていたしな。非戦闘員とは言え警戒に関しては慣れた動きを見せていて、こちらに関しては安心できる。
「以前と違う点としては敵意などの感情を感知しての索敵ができないところだな。皆、目視での警戒や魔道具での索敵を怠らないように」
「分かりました」
ルドヴィアの言葉に頷く見張り班の面々である。そうだな。解呪に伴い、魔人の特性は失われているから、そうした方法での索敵はできなくなっているという点には注意が必要だろう。
とは言え、人数も多いので、ゴブリンあたりがこのタイミングで仕掛けてくる、と言うのは考えにくいな。凶暴化した魔物ならばこちらの人数お構いなし、というのは有り得るがその分察知しやすいし、いずれにしてもこれだけの面々で警戒している以上は滅多な事は起こらないだろう。
見張り班も程よい所で他の班と交代や休憩をしながら作業を進める。開墾作業を一通り学んで体験するというのが目的の一つでもあるし、見張りにばかり集中しては意味がないからだ。交代の際に警戒に穴ができないように、人数を少しずつ分けて入れ替えたりといった工夫もしている。
というわけで作業開始だ。オズグリーヴやエスナトゥーラ、ザンドリウスやリュドミラ。氏族長に子供達。みんな交ざって班を構成して作業といった感じだ。
作業を開始した直後は不慣れさ故か、少し戸惑ったりしている様子も見られたが、元々体力や身体能力に優れた面々である。器用さはそれぞれ違うところもあるが、少しすると慣れてきて、結構精力的に作業を進めている。
魔力で形成した斧で、豪快に木の根を割って闘気を使って引き抜くというのは……まあ、氏族達の開墾作業でなければ有り得ない光景かも知れないな。そんな作業風景に開拓村の住民は目を丸くして、アルバートとオフィーリアも笑顔になっていたりする。
さてさて。では、みんなの作業はカドケウスとバロールで把握しつつ、俺も俺の作業を進めていこう。
どのぐらいまで畑の面積を拡張したいのかも聞きつつ、周辺に張り巡らせる柵、結界を張るエリアも含めて木々の移動を行っていく。
木をゴーレム化して動かしていくわけだ。魔力を通し、マジックサークルを展開。
「起きろ」
と言うと同時に、木々が動き出す。根を足のようにして列を成して歩き出し……目的の場所まで移動していく。
その光景に開拓村の住民も興味津々といった様子である。
「あれが境界公の魔法……」
「ああして魔法建築をするのですね」
と、割と楽しんで貰えているようではあるかな。食べられる木の実をつける植物や綺麗な花を咲かせる植物は村の内部へ移動。村の入口や、道沿い、森の外縁部といった場所に木々を配置し、一部は街路樹代わりにといった具合に、木々を再配置していく。
枝振りも考えて景観が良くなるように再配置というのは中々に楽しい作業だ。
時々藪や草むらに紛れているイビルウィードについては、ハーベスタが回って説得らしきことをしてくれた。野生のイビルウィードもノーブルリーフに混ざると大人しくなって共生の道を選んでくれるようだからな。
ハーベスタは野生のイビルウィード達に比べると大分魔力も増大しているし、一目置かれている感があるな。
説得に応じたイビルウィード達は浮遊式の植木鉢に移住してもらう。この辺も、イビルウィード達がいるだろうと予想して準備してきたものだな。
俺が用意した物なので彼らにとって質の良いものかは分からないが、土に魔力を込め、水を生成して植木鉢にやるとイビルウィード達は満足したのか、浮遊しつつ日光を浴びて心地良さそうにしていた。割と気に入って貰えたようだ。うむ。
翻訳の術式で温室の事等も伝えると、興味深く聞いてもらえているという印象だった。先達のノーブルリーフ達に混ざれば馴染んでくれるだろう。
そんなわけで集められた木の根、草や石の処理も施していく。草は熱処理を施して裁断、発酵魔法で肥料にし、根と石は光球の術式で混ぜ合わせるようにして形を形成し直していく、というわけだ。
使いやすい形状の材木、手ごろな大きさの石ブロックといった感じに作り直す。不揃いな形の木の根が角材になったりしているのでかなり使いやすいはずだ。これらに関しては開墾の副産物という事で、開拓村用の資材として使って貰えばそれで良いだろう。
俺の作業に関しても、特に問題はないな。引き続きみんなの開墾作業を見せてもらうか。




