番外1504 開拓村への到着
帰り道も顔を見せるという事で代官と話をして出発した。
その時は少し牧場に立ち寄る機会も設けたいところだ。畜産も農業と密接に関係しているしな。牧場の見学は氏族の面々にとって有意義なものになると思う。
農業や畜産業に限らず……人々の色々な営み、仕事を見る事は、きっと無駄ではないはずだ。
というわけで、改めてシリウス号で飛び立つ。
「あちらの森に続いている道ですね」
エルケが道案内をしてくれたので、誘導に従って町から森のある方向へと進んでいく。 街道とはまた少し違うものの、きちんとした道があり……馬車の通る轍も続いている。
速度と高度を抑えてゆっくりと移動しているので、あまり遠くまでは見られないからな。ここからではまだ直接開拓地も見る事ができないようではあるが、エルケによれば、そこまで拠点から離れてはいないとの事だ。シリウス号で移動していけばすぐに見えてくるだろう。
少しの間道沿いにゆっくり進んでいくと……ああ。それらしきものが見えてきた。柵と簡易結界で囲われた集落だな。家々、井戸に広場、物見櫓……集落に必要なものは揃っている、という印象だ。
もう畑になっている部分と隣接するように、これから農地にしようとしている部分も見える。森の一部――日当たりの良くなる場所を農地として拓いている最中といったところだろうか。
シリウス号をゆっくりとした速度で下降させていくと、開拓地の人々も家々から姿を見せ、こちらに向かって大きく手を振ってきた。
話は通っているからな。歓迎してくれているという事だろう。話に聞いていた通り、年齢層も若い面々が多い。
「村の外側……入口近くに停泊させてもらえるかな。甲板に行って、少し挨拶をしてくる。こっちも顔を見せた方が向こうも安心できるからね」
アルファはこくんと頷き、船の制御を代わってくれた。ゆっくりと村の入口付近を目指して動かしてくれている。
「それじゃあ僕も行くよ」
「お供致します」
アルバートやエルケも頷き一緒に来てくれた。オフィーリアはフロートポッドに乗っているので、甲板からは顔が見えにくい。とりあえずシリウス号から降りるまでは待つというのが良いだろう。
甲板から手を振ると、開拓村の面々も気付いて笑顔を見せていた。
「あれが兄です」
と、エルケが笑顔で紹介してくれる。ヴェルドガルの武官の格好をしているな。
準備して待ってくれていたという事だろう。エルケの兄も若手ではあるが、開拓民の中では年長者といった印象だ。遠目ではあるが、落ち着いた好青年といった雰囲気に見える。
ゆっくりと動いていたシリウス号が停まり、少しの間を置いてタラップが降ろされる。シリウス号はタラップも含めてアルファの一部のようなものだしな。タラップもああして制御できる。艦橋にいる面々、船室にいる面々に降りて大丈夫とカドケウスやバロールを通して知らせると、みんなが続々と甲板に姿を見せた。
では……まずは挨拶からだな。
みんなと共に船から降りると、開拓村の住民達も出迎えに来てくれた。こちらの面々が面々だからというのもあるが、エルケの兄はともかく開拓村の顔触れには結構緊張しているのが窺える。
「お初にお目にかかります。急な訪問ではありましたが、お話を受けて貰えて嬉しく思っています」
緊張感を解せるように感謝している事を伝えつつ挨拶をしてから名も名乗る。アルバートやオフィーリアもそれに続いていた。
「我らからも感謝を伝えたい」
「開墾作業も大切な事ですからな。農地の礎になるのですから、我らとしてもしっかりとお手伝いをさせて頂けたらと思います」
テスディロスとオズグリーヴがお辞儀をしつつ伝える。氏族の面々も人数が多いのでテスディロス達が代表して挨拶をし、感謝の言葉を伝えたというわけだ。
アルバートやオフィーリアも笑顔で挨拶をしたり、テスディロスやオズグリーヴが丁寧にそうした感謝の言葉を伝えたという事もあって、開拓村の面々も少し緊張が解れたように見えるな。
代わりに少し真面目な表情になって、向こうも一礼して応じてくる。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。解呪なさって様々な事を学んでいるとお聞きしています。確かに思いがけない話ではありましたが、このような開拓村で協力できる事があるというのであれば喜ばしいことです」
「礎というのであれば、私達の村の農地が共存や平和の礎に繋がるならば光栄な事ですね」
村民の代表者と、エルケの兄であるハーゲンがそう伝えてきた。改めて氏族の面々が感謝の言葉を伝えると、開拓村の面々も笑顔で応じる。
フォブレスター侯爵の紹介でもあるし、快い対応をしてくれそうかどうかというのも基準の一つではあったのだろうけれど、エルケやハーゲンが互いの自己紹介も円滑に進むように色々と気を回してくれているな。こちらとしても動きやすいし喜ばしいことだ。
開拓村の村民はアルファやラヴィーネだけでなく、アピラシアにハーベスタ、オルトナ、ティアーズといった面々も見て少し驚いていたようではあるが、お辞儀をしたり葉っぱを振ったりしているのを見ると笑顔になってお辞儀を返したりしていた。うむ。この辺も特に問題はなさそうだな。
自己紹介や挨拶が終わったところで、まずは開拓村の内部を案内してもらう。集会所も広場の近くに建てられている。村で一番大きな建物でもあるので滞在中の休憩等は集会所を利用して欲しいとの事だ。
「道具は用意しているとお聞きしていますが、念のため普段使っているものも集会所付近に準備しております。必要に応じて活用していただければ幸いです」
「ありがとうございます」
ハーゲンの言葉にお礼を言って、そちらも確認する。それから開墾の現場へと皆で移動した。
「現状と、しても良い事、都合の悪い事などありましたら聞いておきたいのですが」
「境界公も目的となさっておられるものがあるかと存じておりますし、助言できる部分以外はそちらの裁量で進めていただいて構いません。現時点で根や石を除いた範囲はあのあたり、木を切っている段階まで進んでいるのがあのあたりまでですが……農地はもう少し森の奥側まで広げる予定でおります」
「なるほど」
ハーゲンに現状を聞きつつ、現場を確認して開墾作業の手順を考えていく。
魔法建築の要領で進めることもできるが、今回の主体はあくまで俺ではなく氏族の面々だからな。
「見張り班、根を除く班、石を除く班とで分かれて、交代で動くのが良いかな。細かな班分けは任せるよ」
「森側に拡張する部分はどうしますか?」
オルディアが尋ねてくる。
「見た感じ、有用な植物もありそうだし、材木が必要なわけじゃないなら、こっちで対応しようかな」
既に伐採してある木々はともかく、成木は移せばそのまま利用したり、資源として残せたりするしな。木材確保が必要ならみんなの根っこ掘りの作業に合わせて行えるだろう。根っこを合体変形させる事で端材以外にも使えるだろうからな。
そういった方法でも大丈夫かと確認を取ると「おお……。そんな事ができるのですか。勿論構いません」と返答を貰う事ができた。
では開墾作業自体はみんなに任せて、俺はそういった応用的な作業をさせてもらうというのが良さそうだ。
作業手順自体は開拓民が説明してくれるとの事なので、後は氏族達に合ったやり方で進めれば良い。農作業では最適化されていない術式を使うのは拙い、といったケースはあるので、そこはミシェルも交えてやり方を確認してから作業に移る、と。と言っても、魔力剣のような形で自身の魔力を固めて農具代わりにする分には特に問題はないけれど。




