番外1501 フォブレスター侯爵領への訪問
フォブレスター侯爵領へのシリウス号での訪問が決まったところで、あれこれと準備を整えていく。グレイス達はローズマリー、イルムヒルトとシーラがまだ安静にしていなければならないし、子供達もシリウス号で出かけるにはまだ早いという事で、今回も留守番だ。ただまあ、フォブレスター侯爵領への滞在は長いものにならないしな。
留守にする時間もそれほど長くはないし中継もあるからな。仕事自体も開墾の手伝いと課外学習だし緊急性のあるものではない。自由になる時間にはみんなとも顔を合わせつつのんびりいきたいところだ。
「ラヴィーネはアルファと一緒に行く事を希望しているみたいです」
アシュレイがにこにこしながら教えてくれる。
「勿論良いよ。ラヴィーネとしてもそっちの方が嬉しいだろうし」
笑って答えるとラヴィーネはおすわりをしたままこちらを見やり、尻尾を大きく振って応じてくる。アルファもこくんと頷き、ベリウスは「留守は任せてくれ」というような意志を翻訳の魔道具で伝えてきた。うむ。
シリウス号に積み込む水と食料についても、訪問する期間が短いのでそれほど大した量ではないな。何かしらのアクシデントで滞在期間が延びた場合の為に少し余力を持たせているが……まあフォブレスター侯爵領にも転移門があるし、転送魔法陣の準備もしておけばいざという時も状況に合わせた対応が可能だろう。
というわけで造船所にて出発の準備を整えていく。貯蔵している食料や、清浄な水の入った樽、それから開墾に使えそうな道具、魔道具類も詰み込んだ。
とは言え、氏族の面々は瘴気剣を構築するのと同じ感覚、要領で魔力を固め、即席の道具を形成するというのも得意だしな。作業用の道具もそこまで数を揃えなければならないわけではない。
ゴブリンやオークの対応も慣れているし、魔力弾を標準的に撃てるのでほぼ全員が戦力としても申し分ない。非戦闘員と言っても魔人基準での話だからな。今回はテスディロス達も参加しているし、その辺安心だ。
運搬ゴーレム達が荷物を甲板に積んで、それらを氏族の面々がレビテーションの魔道具を使って船倉に運び込んでいく。
フィオレットがラムベリアやルドヴィアといった面々を連れて目録のチェック作業を行ってくれている。以前は俺やみんな、討魔騎士団の面々が積み込む物資の目録チェック等の作業をしたが、氏族の者達とシリウス号でどこかに行く機会は今後も有りそうだから、こうした作業も覚えてもらおう、というわけだ。
その点フィオレットは元々ハルバロニス出身で武官的な立ち位置だったから、こうした作業も慣れているところがある。念のためにバロールに付き添ってもらって二重チェックしているが問題はなさそうだ。
ラムベリアやルドヴィア達はフィオレットの確認作業を見て、何をするべきか学んでいる。
「ラムベリア達もあんまり根を詰め過ぎないようにね」
前氏族長達に留守を任されるような気質という事もあって責任感が強いからな。
「ありがとうございます。とは言え、以前より氏族長としての仕事での気苦労は減っておりますよ」
「そうですね。解呪による気質の変化もありますし、テオドール様が全体を纏めて下さっていますから」
「私達も学べる環境ではありますな」
氏族長達はそう言って笑顔を見せる。うん。気負い過ぎていないのなら問題はないな。当人達のモチベーションも高いので休みを取る時はきちんととるのが大事、という事を伝えておけば問題はあるまい。
やがて物資の積み込みも終わり、確認作業も一段落だ。食糧と水は多めに積み込んでいるしバロールによる確認もできているからな。
こちらの準備ができたことを伝えると、フォブレスター侯爵からも開拓地との連絡、受け入れ態勢は問題ないと返答があった。アルバートやオフィーリアを交えながら話をする。
『テオドール公や氏族の方々の来訪を歓迎する、との事です。開拓村にお迎えできるのは光栄な事だと』
「それは……有難いですね」
氏族の面々も歓迎すると言ってくれるのは喜ばしい。不安に思ったりというのがあってもおかしくないところであるが。この辺は開墾の手伝いという話を持ってきたフォブレスター侯爵が信頼されているというのもあるのだろうし、情報の広がり方、伝え方が好意的だというのもあるのだろう。
その事についても礼を言うと、フォブレスター侯爵は笑みを見せる。
『テオドール公の成した事の結果ではあります。私は礼を言われる程のことはしておりませんよ。情報の伝え方というのも陛下の手腕によるところが大きいかと』
「メルヴィン陛下の手腕は確かに。侯爵への領民達からの信頼があってこそ、というのもあるかなと思いますが」
『そうであれば――嬉しい事ですね。恐れ入ります』
柔和な笑みで一礼するフォブレスター侯爵である。調査を重ねてから開拓を進める事もそうだが、領民を大切にしているからな。
『もしお邪魔でなければ、わたくしも同行させて頂きたいのですが』
俺や氏族達の邪魔にならなければ開拓地を見に行きたい、との事だ。
「それは……開拓地の人達が喜びそうですね」
『そうですな。ふむ。シリウス号に乗っていくのであれば私としても賛成したいと思っておりますが、お二方としては如何でしょうか』
思案しながら言うフォブレスター侯爵の言葉を受けて、アルバートに視線をやると笑顔で頷く。
『うん。僕も賛成しているよ。負担にならなければの話だけれど』
そんなアルバートの言葉に俺も笑って頷き、侯爵に返答する。
「護衛の人員配置も問題ありませんし、フロートポッドもありますから、身辺警護や体調維持に関しては問題ないかと」
循環錬気で体調把握もしているというのもあるし、転送魔法陣も使えるからな。色々な状況に対応できるようにしている。それに……オフィーリアとしても領民との事を考えての事だろう。領民達との関係が良ければアルバートとオフィーリアやその子供の代になっても安心であるし。
『おお。それは何よりです。テオドール公の循環錬気やアルバート殿下の魔道具もありますし、安心できる部分も多いですからな』
俺の言葉にアルバートとオフィーリア、フォブレスター侯爵はそれぞれ笑みを見せる。では、諸々決まりだな。アピラシアやラヴィーネ、アルファもいるし更に人員を増強してもいい。護衛回りに関しても大丈夫だろう。
そうしてアルバート達やフォブレスター侯爵と当日を楽しみにしていると伝え合って通信を切り上げるのであった。
それから1日、2日と過ぎて。フォブレスター侯爵領訪問の当日がやってくる。
「それじゃあ、行ってくるね」
「はい。いってらっしゃい、テオ」
「ではお気をつけて、テオドール様」
朝食をとった後で、みんなと笑顔でそんなやり取りを交わす。というわけで、少し早めに出発だ。アルバートやオフィーリア、ミシェルといった面々も食事を済ませているとの事で、このまま造船所で合流する予定である。
同行する面々を連れて造船所へと移動する。オフィーリアの護衛にはシオン達、カルセドネとシトリアも一緒に来てくれるとの事だ。
「留守の間の防衛は任せてね」
笑顔を見せるユイにヴィンクルやベリウス、アルクスといった面々が頷いて見送ってくれた。ラストガーディアンには滅多な事で前に出てもらうわけにはいかないが、そうそうたる顔触れといった感じだな。防衛戦力としてはこれ以上ないといったところだから俺としても安心である。
そうして造船所でアルバート達、ミシェルと顔を合わせて挨拶をして、みんなでシリウス号に乗り込む。乗り込む人員の点呼といった確認作業はそれぞれの氏族長達が進めてくれた。では――フォブレスター侯爵領を目指して動いていくとしよう。




